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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
29.現代のゴブリン

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 二十時間ほど前……

「全く、コユキ殿にも困ったものでござる──、全然起きないとは、いやはや、状況が分かっているのでござろうか? 」

 午後の訓練を始めようにも、コユキが起きる気配は皆無であった。

 勿論、善悪も眠りこけるコユキに手をこまねいていた訳では無い。
 小声で起きて欲しい旨を伝えてみたり、ワザとらしく腹の上のタオルの位置を直したり、団扇うちわで風をサワサワと送ってみたりしていたのだ。

 しかし、一向に目覚めないコユキの姿を目にし続けたとき、次第に諦めの気持ちが強くなって来ていたのだった。

「今日はもう仕方無いであろうな? 」

 善悪とて最初から甘々な態度で臨んだ訳ではなかった。
 最初は自分を鼓舞こぶしつつ、恐怖を堪えこらえて少しだけ大きい声でコユキを起こそうとしたのだ。
 グオオオオオ、グオオオオオとバケモノさながらのイビキを響かせるコユキに言ったのだ。

「コユキ殿っ! いつまで寝てるでござるか! 休憩は終わりっ! さっさと起きるで、ござるっ! 」

 言ったのだ。

 その瞬間、コユキの鼾がピタリと止まり、両の眼がクワっと見開かれたのである。
 起きたの? と、覗き込む善悪を尻目に、コユキはグ────グ────と先程までに比べるとかなり控えめに鼾をかき始めた。
 眼を見開いたままでだ。
 
 以降、現在に至る。
 ドライアイも何のその、カっと目を剥きむき静かめの鼾を掻き続けるバケモ、女性に声を掛けられる者は、そうそういないであろう。

 今この時、善悪の体たらくの理由はこの出来事を起点としていた。
 バケモ、コユキ殿の機嫌を損ねぬように、快適空間を維持するように全神経を総動員していた、そう全集中の状態であったのだ。
 コユキの息吹いぶきに合わせつつ、この瞬間が少しでも長く続くように願い続ける時間経過。
 そう、豚の呼吸を一心に心掛けていた、その時!

「ピンポ──ン! 」

「こんちゃ──! 幸福寺さぁ────ん! お荷物でぇぇ────すぅっ! 」

 ばっ馬鹿な!
 このタイミングで不運の運び手、黒猫の使徒、緑の邪悪、現代のゴブリンが現れるとは!
 声でけぇし!
 いやいや、この時ばかりは思ったね、デフォで置き配も、アリなんじゃね? って!
 幸い、終末の魔女は目覚めなかった。
 ふぅ~~。

 いや、まだ安心は出来ない、緑の邪悪は返事しくは玄関に人の姿を認めない限り、叫び続ける性質を持っている。
 因みちなみに、呼ぶ度に声のボリュームは上げ続ける事もマメである。
 これ、マジでマ・メ・な。

 その事に思いが至った瞬間に、善悪はシュババババッっと玄関へと移動を済ましていた。

「ご苦労様でござる。 少し、ボリュームを絞って頂けないであろうか? 」

 御馴染みおなじみのゴブリンは何を思ったのか、ニカッと微笑を湛えたたえて言った。

「ああぁ、そうゆう~♪ ……じゃ、静かに行きましょ、どうぞ、サインで良いっす! 」

 何やら勝手に察しているようだが……
 下衆ゲスめ! まぁ良い、ポチっとな。
 判子を打って伝票を返してやると、善悪に荷物を渡した使徒は、ゴブゴブ言いながら配達に戻って行った。

 荷物の送り主に視線を向けた善悪は、パァっと顔をほころばせたのだった。
 期待に溢れあふれた笑みを浮かべながら、そそくさと自室へと急ぐ善悪であった。

 自室に入った善悪は、待ち切れぬとばかりに、過剰包装もなんのその、素早く中身を取り出してまじまじと見つめた。
 善悪が今手にしている物は一体のフィギュア、「悪魔もぐら」の個数限定シリアルナンバー…… 二ケタ台の逸品だった。

「まさか紛い物まがいものの中のパチモン、パクリの中のバッタ物と言われた、ノルソルシリーズをこの手にする日が来るとは……… 」

 目の前で、しかも我が手に取っている現実を持ってしても、未だ信じられぬといった態で言葉を続ける。

「しかもメジャーメーカーがコレクション販売とは、いやはや………… 」

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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