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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
39.口ゲンカ

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 訓練再開。

 なるほど、割かし上手に避けているようだ。

 三メートルまで近付いた善悪の投げるボールも、お寺の修行の成果か結構な鋭さでコユキに迫る。

 それを、ホッとか、ハッとか、エイヤッとか言いながら大きな肉槐にくかいが器用に避け続けるのは中々見物である。

 あ、左足に当たった、お、今度は腹の右側にヒットだ。

 やはりそう長くは避け切れないようだ。

「あぁ~、残念だったでござるな」

 善悪がボールを投げる手を止めてコユキに語り掛ける。

「は? 何がですか? 残念? ですか?」

 対するコユキはキョトンとしたまま、首を捻りハテナである。

 善悪は仕方なくコユキに説明する。

「いや、今当たってしまったで、ござろ? まあ、最初だから仕方ないでござるよ」

 笑顔でやさしく言った。

 だというのに、あろう事かコユキは怪訝けげんな表情で言い返すのだった。

「えーと、あたし当たって無いんですけど……」

「いやいやいや、今当たったであろ? それも二発、二発連続で!」

「いやあたしちゃんと避けたんで。 先生、見間違えたんじゃ無いですか?」

 丁寧な言い方だったが、反してその態度は納得いかないという意思を込めて、プイッと横を向く始末だ。

 軽くイラッとしてしまった善悪だったが、そこは長年厳しい修行に耐えてきた坊主だけに軽く息を吐くのみで白い歯を見せて笑いながら言った。

「見間違えでは無いでござる。 ほら最初にコユキ殿から見て左足に、次の球が右側のお腹に当たったでござるよ」

 まだ納得していなかったコユキだったが、一瞬見えた善悪の並びの良い歯に、先程のトラウマを思い出させられ息を飲んだ。

 そう、悪鬼羅刹あっきらせつバージョンの善悪の姿を思い出し、戦慄せんりつと共にこれ以上の抗弁こうべんを諦める事にしたのであった。

「……はい。 じゃあ、先生の言う通り、当たったって事で良いです」

「っ! 当たったって、コ・ト?」

「ええ。 もうそれでも構いません。 先生の仰る通りでもいいです」

 …………

「も? 『も』って何でござるか?」

「あぁぁ~分かりましたっ。 先生の仰る事が大正解ですね。 はいはい、すみませんでした! これでいいですか?」

 さしもの善悪でもこれにはムカっ腹が立ってしまった、即座にバーカバーカ、コユキのデブ! と叫ばなかったのは成長だろう。

 善悪が必死に大人であろうと努めているにもかかわらず、コユキが続けて言う。

「それで、納得してくれたのなら訓練続けて頂いても良いでしょーかー? 時間が惜しいのでぇー?」

――――くっ! 殴りたいでござる! いやしかし僧侶の身でそんな真似は…… そうだ! ボールと間違えた態でデカ目の石でも投げてやろうか? いや待て、それだと負けた腹いせみたくなるのでござる…… な、なにかヤツに非を認めさせる良い手は…… むむむ~はっちゃけ~はっちゃけ~ ……はっ!

 唐突に善悪はピンと来た。

 朝夕のお勤めのお蔭だろう、仏の加護か一瞬にして妙案を思いついた、いや、軽めに悟ったと言って良いだろう。

 悟りを得た善悪の行動は早かった。

 訓練を一旦休憩にすると告げ、散らかったボールを集めておくようにコユキに指示を終えると、大急ぎで幸福寺の門扉もんぴから飛び出して行った。

 向かった先は最寄の百円均一であった。

 三十分ほど経って帰宅した善悪は、ピンポン球を前にしてハサミ片手に何やらチョキチョキ続けて更に三十分、訓練の続きは昼食の後という事になった。

 昼食後、コユキのお昼寝タイムの一時間程の時間も使って、善悪の作業はなんとか午後の訓練に間に合うのだった。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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