【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~
125. 令嬢、別離に咽び泣く ③
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「エマ、実はな────」
ステハムが事の顛末を語ってくれた。
イーサンが上空から確認して安全だと判断した高台などに、集落を移動させる作業は当然ながら男手が中心となった。
通り名通り剛腕なストラスや、最大十七人に分身出来るイーサン、高ランク冒険者達が集まって作業する為、急ピッチで転居は進んで行ったらしい。
集落には女性も増え始めていた為、シンシアは彼女たちに混ざって炊き出しや配膳、けが人の治療に奔走していたそうだ。
忙しく立ち働くシンシアは、同時に重要な役割を担ってもいたのだと言う。
それは生存者の捜索であった。
彼女の固有スキルは昆虫、特に羽虫を操ると言う珍しい能力であった。
一度に数千もの蝿や虻、蜂達を操る彼女がその気になれば、モンスター等ひとたまりもないだろう。
カマバエやスズメバチだと思えばその凶暴性も理解に易い。
シンシアはアプリコット村の周囲の羽虫たちを使役して広範囲の捜索を命じていたのである。
ある時、シンシアは文字通り虫の報せを受けて、近くにいた数人の女性と共に生存者の元へ駆けつけたのである。
洪水に流されて半壊したバラックは元の集落からかなり下流に流されていた。
今にも崩れ落ちそうな家屋を見た女性の一人は男手を呼ぶために慌てて戻っていったが、彼女の帰りを待つことなく、バラックは軋みを立てて崩れ始めてしまった。
「あああっ! 」
女性たちが口に手を当てて叫びを上げた時、シンシアは既に崩れ始めた家屋に飛び込んでいたそうだ。
元々が質素な素材で作られたバラックである。
女性たちは急いで柱や屋根板を動かしてシンシアと彼女の下で気を失っていた少年を救い出したのだと言う。
助け出されたシンシアの額は割れた陶器か何かの破片で傷付けられ、大量の血液が顔の半分を濡らしていた。
女性たちが慌てて布を取り出して抑えようとするのを制してシンシアは言ったそうだ。
「私は大丈夫ですわ、それよりも彼を早くハンスさんの元へ! 足が折れているようですわ、動けなかったのでしょう、そおっとそおっとでしてよ」
そう言い終えると、彼女の後ろを付いて回っていた一匹の緑の蝶が彼女の傷付いた額に止まり、羽ばたいて鱗粉をはたき付けるとぱたりと落ちた。
鱗粉のキチン質が傷口を埋めたお陰で出血は止まったが、彼女に懐いていた蝶はそのまま動かなくなってしまったそうだ。
その後、ハンスや他の癒術師達がどれ程傷を治療しても、傷痕が消えることは無く、それ所か鱗粉が付いた場所が高熱に曝された様にガラス化して、栗色のアザの中でキラキラと結晶化してしまったと言うのである。
話を聞いていたエマは大きな目に涙をためながら言う。
「シンシア…… 何て言ったらいいか……」
「良いんでしてよ、このアザはあの子が私と一緒に居てくれる、お守りみたいに思う事に致しましてよ、それよりも、アメリアのお陰でボロボロだった両手がこんなにすべすべに! うふふ、ありがとうですわ、嬉しくってよ♪ 」
「…………」
エマはそれ以上何も言えないまま、強くシンシアを抱き寄せたのであった。
エマの体を抱き返しながらシンシアは少しだけ涙を流していた。
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