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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
21.人の尊厳 (挿絵あり)

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

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 前回までのあらすじ……

 三十九歳ひきこもりのコユキは太っていた。
 別に最近急に太ったとかそう言う事では無い。
 小さい頃からずっとずっと太っちょだったのだ。
 理由は、運動嫌いに重ね、ご飯やお菓子が大好きだったからだ。

 成人後もその食欲は増進の一途いっとを辿り続けていた。
 彼氏もいない淋しい日々を食べる事で自身を慰めていた。
 お見合いの話しも来たが、イマイチ気に入らなかったせいで、またもや食欲に逃げてしまう。
 食べて食べて食べまくる日々を謳歌おうかしていたコユキだったが、ヤギが家族の魂を奪ってしまった。

 寺に行ったコユキはぺペロンティーノに舌鼓を打ったのち、デザートのアイスを堪能する。
 バニラの風味と冷たい甘味がコユキに一時の安穏あんのんをもたらしてくれた。
 
 食後、明日の朝御飯を楽しみにしながら寺を後にした。
 激動の一日が終わろうとする中、何とか体重を維持する事に成功したコユキは満腹で帰宅するのだった。

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「ただいま」

 返事が無いであろう事は、予想はしていたコユキだったが、なんとなく、本当にうっすらとした期待を込めて言ってみた。
 案の定、家の中はしんと静まり返り、返事は無かった。

 ふぅーと溜息をつく。
 いつも重い体が更に重量を増したかの様に超重い。

 真夏の猛暑日に全ての窓を締め切って出かけてしまった為、部屋の中には、むわぁん、とした熱気がこもっていた。

 二間とおしの畳部屋には、青白い顔をし目を見開いたまま、または目をギュッと閉じたままの家族達が微動だにせずに並んでいた。
 いくら身内であってもその光景はちょっとしたホラーだ。

「うぅ…… なんか気色悪い…… 皆少しの間辛抱してね、きっとアタシが魂を取り返して気持ち悪く無くしてあげるからね! 今大切なのは換気よ、換気!」

 デカい図体の癖に恐がりなコユキは、気持ち悪い家族達の姿を見ない様に気を付けながら、ガラガラとサッシ窓を開けていく。
 皆の体は、たぶん暑いも寒いも感じないのだろうが、籠って煮えた空気よりは、入れ替えた新鮮な物の方が体に良いに違いない。
 自己満足、気休めかもしれないが風通しを良くしてみたコユキであった。

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 ふと、上の妹リョウコの顔が目に止まった。
 他の家族と同じで、眠っていると言うよりは、一見死んでしまっているかのように見える。
 コユキは又不安そうで不快そうな表情を浮かべたが、一瞬後、何か思い付いたようで、自身の尻をリョウコの鼻先に持って行った。

 ブゥ――――――

 放屁だ。
 
 コユキが振り返ってリョウコの顔を覗くと、コメカミの辺りがピクピク痙攣けいれんしているのが見て取れた。

「良かった、生きてる!」

 妹の生存に大きく安堵の言葉を口にした後、念の為、他の家族の生存も確かめる事にした。

 ブ―――― ピクピク 
 ブゥゥブピっ ピクピク 
 ブフォっ ピクピク 
 ブビ――――ィィ ピクピク 
 ブッ スゥ―――― ピクピク 
 ブブブピィ ピクピク

 順調に生存確認は続き、最後は下の妹のリエの番、と勢い込んで鼻の上でいきんだ途端……
 コユキは慌てて部屋を飛び出して行った。
 
 急にどこへ行ったというのか。
 予測だが、お花摘みでは無いかと思う。
 
 挨拶が遅れてしまったが、私は『観察者』。
 この物語を『観察』し、時に『経験』する者である。

 当たり前の話しだが、コユキは所謂いわゆるスキルのたぐいを持っているわけでは無い。
 『無限放屁むげんほうひ』の使い手では無いのだ。

 今日は偶々たまたま調子が良かったみたいで在ったが、何事にも終わりが有るものだ。
 その証拠に彼女は今、トイレを出ると風呂場に直行し、何やら丹念にゴシゴシしている。
 人生とはままなら無いものだ。

 暫くしばらくすると、何やら悲しそうな表情を浮かべて戻って来ると、リエの鼻と口を塞ぎ始めた。
 二十分程してリエの苦しそうな痙攣を確認し、ふぅ~と大きく息を吐いて立ち上がる。

 そのまま、ズルズルと重い足をひきずりながら、なんとか自分の部屋に戻り、そのままベットに倒れこんだ。

「今日は疲れた……」

 そう小さく一言呟くと、瞬間強い睡魔に襲われた。


……ようやく…… 漸く働ける…… 筈だったのに……
……あの子たちは…… あの子たちは…… どこ? ……
……やっと…… やっと…… 運命の人に出会えたのに……
……腹が…… 腹が空いた…… 何か…… 食べさせてくれ……

……これからだったのに!


――――瞬きを一度だけしたつもりが、気付けばもう朝になっていた。

 朦朧もうろうとした頭でムックリと起き上がる。
 いつものベッド、いつもの朝、のようだけれど傍らに落ちていた雪○宿大袋と、スウェットのポケットのゴリゴリとした感触で、

「……夢じゃなかった ……現実か、やっぱり寝て起きても問題は解決していなかったか……」

と当たり前の事を、わざわざ口にしつつうな垂れる。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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