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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
108.ソーシャル・ディスタンス

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 なにやら微妙に距離を開けて歩く人々(大体リーリー一頭分くらい=ルイ君一人分くらい)は、それぞれの獣舎の前をほとんど立ち止まる事無く通り過ぎるように歩いていた。
 揃って顔をマスクで覆い、たまに装着していない人間がいると、親の仇でも見るように、

『新ガタコロナに感染うつったらどうするんですか?』

的な言葉で注意しているようだった。

────新ガタコロナに映る? 見られるだけでヤバいって事か? 顔を覚えられるとか?

 どうやらそれで皆顔を隠しているようで、その事からもガタコロナは、かなり知能の高い生き物である事が分かる。

 更に驚いた事に、ガタコロナの脅威に対して、園側はジャイアントパンダの子供、大人気のシャンシャンの写真撮影を禁止しているらしい。
 マジでか? 昨今一番の人気者をガタコロナの目から隠匿いんとくし、彼奴きゃつの魔の手から守ろうと言う意図は分かる。
 分かるがしかし、あの子を見に全国からやって来る人間が、良く素直に従っている物だ、と感心させられた。
 それほど、人類全体が『ガタコロナ』を恐れている証拠に感じられ、俺は戦慄を覚えずには居られなかった。

「新ガタコロナ恐い」
「新ガタコロナまた増えたんだって」
「野球? 新ガタコロナだよ? 」
「真直ぐ帰ろ、新ガタコロナだし」
「ご飯食べるの止めとこうよ、新ガタコロナ恐いし」
「俺、新ガタコロナなんだぜ」「嘘やめろよ! 恐ーよ」
「消毒しとけよ、新ガタコロナだぞ」
「まだ、会社行けて無いんだよな~、新ガタコロナのせいで」
「お盆帰省出来なかったね、新ガタコロナだから仕方ないけどさ」

 …………俺は思った。
 こりゃ、ガチなヤツだなと。
 世の中コイツにメチャクチャにされているようだ。
 生活様式がガラリと変化してしまっている事をヒシヒシと感じる。
 その上、人間達の話題の殆どほとんどが『ガタコロナ』の事柄で塗り尽くされている。
 シャンシャンは今年一杯で中国に行ってしまうと言うのに、『ガタコロナ』の方がバズワードになっているなんて…… (実際には令和三年五月まで延長したのち、再延長を経て令和三年十二月返還となりました)

『……羨ましい(ボソっ)』

気が付いたら呟いていたようだ。

 いかんいかん! 幾ら話題の中心で目立ちまくっているとは言え『ガタコロナ』は人に仇なす大悪党だった。
 人類のアイドルたる我々正義の動物とは対極にある存在、ではないか。

 しかし、人々は折角お金を払って、動物達を見に来ていると言うのに、揃って沈痛な面持ちをしているな。
 流石に子供たちは以前と同じ様に、キラキラした目で俺たちを見ているが、分別ある大人としては、心から楽しむ事など出来ないのだろう。

! そうか! いまこそ!

 ある考えが頭に浮かんだ俺はすぐさまユイに声を掛けた。

『ユイちゃ! 今日実行するぞ! 食事の後にぶっつけ本番だ! 』

『え! でも良いの? オリパラに合わせるって、一番効果的な時にやるって……』

『いいんだ、今が人間達にとって一番必要な時なんだよ! 頼む、俺を信じて一緒にやって欲しい! 』

『…………わかったよ。 うん、がんばろうね、旦那様 (ニコっ)』

 ここの所、数年に渡って二人で密かに準備して来た、取って置きのパフォーマンスを、予定変更し突然披露するという俺の我が儘わがままにも関わらず、ユイは黙って付いて来てくれると言う。
 なんて良い雌カバなんだ、この『ガタコロナ』を人々が乗り切ったら子作りをしよう、俺は心に誓ったのである。

 そして、ついにその時は来た。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!



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