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【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~

137. 終幕、行幸、そして……

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆世界観と設定◆

 若き日、僅かわずかよわい十六にして、最強とうたわれた仲間達と共に力を合わせ、世界の破壊を画した魔王、ザトゥヴィロを討伐され、第二十六代ブレイブニア王国国王の座に就いた英雄、ダニエル王の治世ちせいは十七年の長きに渡った。

 この間、国内の変容を語る時、王妃であるアメリアの功績を書き記さずには、どんな弁士も物書きも語り尽くす、記し残すことは叶わないだろう。

 アメリア・バーミリオンは女性として初めて王立学園長の重責を勤め上げただけでなく、国中の全ての都市に、庶民が読み書きや算術を学べる施設、『学校』を立てる事に尽力じんりょくし、同時に農奴の次男以降の者たちが就労できるように職業訓練の場を作り続けたのである。

 また、子供たちに読み聞かせる物として、今では国中の誰もが知る『ルンザ百物語』の執筆、出版のみならず、自身の冒険と王妃となる迄の日々をつづった『令嬢シリーズ』の発行、加えて、王国建国前から流布るふされていた野史やし編纂へんさんしアレンジを施した『昔の世界、千の怖ーい物語』を刊行した才女でもあった。

 今は当然の事ではあるが、これらの物語が流布された事により、国民全体の保有魔力が増えた事は勿論、全ての国土、ダンジョンに至るまでモンスターの出現頻度が極端に減り、現在の様に野獣を飼うことが達成されて、我らは計画的な畜産育成を成功させ、その恩恵にあずかっているのである。
 因果関係は未だ判然としてはいない物の、王妃アメリアの教育改革がもたらしたことは明らかであると考えざるを得ない。

 筆者は思う。
 これを持って、格別の功績と言っても何ら問題ない事ではなかろうか。

 女史は又、働く女性たちの良き理解者でもあった。
 女性の権利を男性と同じ物に引き上げた一方で、美しき女性の所作、愛する夫を助ける献身の尊さ、母性の本能を子供達だけでなく他者に向ける事で社会の変遷へんせんに伴う軋轢あつれきを軽減させ得る、女性の価値を新たに唱え、男性社会であった国内を、優しい笑顔と美しい双眸そうぼう、そして弾むような明るい笑顔で牽引けんいんし、人々に愛された王国民全員の賢母でもあった。
 その功により、今現在の大臣十六人の内、半数に迫る七人は女性のけいがその任に当たっているのである。

 無論、ダニエル王の功績も王妃と比べても見劣りせぬ事柄ばかりである。
 王は長い間、国王派、貴族派と二極化し互いに覇権を競い合っていた政治中枢に一石を投じたのであった。

 それは選挙、それぞれの立場毎に入れ札にって代表を選び、国政に届ける手段、『選挙』制度の導入である。
 縁戚に当たる公爵家以上の十数家からは六軒を上限として元老院議員を選出し、騎士爵から伯爵家までの二百数十軒からは三十の家を選んで貴族院議員とした。

 特筆すべきは国内の街、町、村から推薦による選挙を経た庶民代表の議会、評議会を設け三院制を実現した事であろう。
 地方から選ばれた種々の立場の代弁者たちはその数、三百人に及び、貴族院議員の十倍に及んだのである。
 選出された議員たちはそれぞれの立場で議論を活発化させ、現在の王国の在り様を作り出したのであった。

 立法、行政以外の面にいて、尤ももっとも特異な施策として外せない事と言えば、やはり各地に建設された王立劇場の存在と、国家として保護した王立劇団と王立楽団の設立になるだろう。

 過去に存在しなかった文化省ぶんかしょうを創設し、王国内の地方毎の物語、音曲のみならず、併合した他民族や各辺境に伝わる歴史や娯楽、習俗に至るまで、管理と保存を目的に調査、研究し更には技術の担い手である後進の確保をも積極的に奨励しょうれいしたのである。

 文化の融合に伴う新興芸術にも理解を示し、古来の文化の保護と同様に、一定以上の技量を持つ者達に対しては、芸能爵と言う新たな名誉爵位を設け各地を巡回させて発表の場を与え、国民の余暇の楽しみにいろどりを加えた。

 ダニエル王とアメリア王妃が作り上げ、今やこの国の民にとってなくてはならない物の内、特に上げるべき仕組みとしては各地の冒険者ギルドと協力して併設させた癒術所の立ち上げが上げられる。
 冒険者だけでなく広く門戸もんこを開いて癒術を施す場所の確立にって、国中の緊急医療体制が確立され、結果として人々の健康に対する意識が変わる切欠きっかけとなったのである。

 最初に設けられた王都の冒険者ギルドの癒術ゆじゅつ所には、アメリア王妃自身も何度となく訪れ、その高位の癒術で重病者や重傷者の多くの命を救い上げた。
 王妃の癒術を受けた多くの患者が、若返ったと証言していたが、これについては未だ適当な分析は出来てはいない。
 ダニエル王とアメリア王妃が為した偉業に対して、事の真偽は些事さじと言って良いであろう。

 在位中に数々の改革を成し遂げたダニエル王は、先王である父に倣いならい五十二歳の誕生日をもって、長男で王太子であったアレックス王子に王位を譲り、太公たいこうとなった。
 ダニエル太公ときさきアメリアは、世襲を機に、予てかねてより強く希望し計画していた、王国内を巡る行幸ぎょうこうを実行に移した。

 行程は王都を出発した後、ナセラ、ルンザを経て、妃アメリアの生まれ故郷であるバーミリオン始め南方の都市群を広く訪れ、その後西方、北方の各地を巡り、最後に広大となった東方のアイアンシールドを目指すはずであった。
 然ししかしながら、この計画が果たされる事は無かったのである。
 残念な事に、最初の訪問地、ナセラ男爵領都ナセラに宿泊したのみで行幸の旅は打ち切られる事となってしまった。

 翌朝、ダニエル・ルーク・ブレイブニア太公は眠りから覚めることなく崩御ほうぎょ召された。
 妃であるアメリア・バーミリオン女史も、夫に従うかのように同日、帰らぬ人となったのだ。
 
 摩訶不思議な事ではあるが、かつてお二人とパーティーを組んで冒険者として活躍していた先代の辺境伯デビット・アイアンシールドとその妃、マリア、更にアイアンシールド家の家令として、数年前まで辣腕らつわんを振るい王国内にその名を轟かせていたイーサン・スカウト伯爵の三人も同じ日に身罷みまかられたのである。
 
 市井しせいの人々のみならず国民の多くが貴賎きせんの違いなく、先王は彼岸で悪魔や魔物を退治するのだと、まことしやかに口々に噂した。

 第二十七代アレックス王は、先王である自らの父に対して、諡号しごうとして『英雄王』を贈られ、併せて母に『賢母』の称号をお与えになられた。

 だが、市井の人々の多くは庶民に対して気さくに接した先王夫妻を、愛情を込めて在位時代と変わらぬ愛称で呼び続けている。
 これから野史やしとして語られる物語の中でもそれは変わりはしないのでは無いだろうか。
 次々と斬新な政策を実行し続けたダニエル王は『奇天烈ウィアードデニー』、そして人々に愛され人々を癒し続けた妃アメリアを『朱色バーミリオンのエマ』、そう呼び続けられる、私見では有るが筆者は確信している。

記 第三十一代 式部司しきぶのつかさつかさクロード・コロル・ファイアワークス伯


 クロード、ロアは使い込んだ羽ペンを置いた。
 速乾性の高いインクは羊皮ようひの表面に滲むにじむことなく染み入った。
 横合いから手を伸ばした男は、羊皮紙を拝む様に両手で捧げて盆にのせ、振り返ってロアに言った。

「お疲れ様でございましたクロード卿、貴方にお仕え出来て光栄でした、貴方こそ歴代最高の式部卿だと私は確信しています」

「ははは、そんなに褒めなくても良いですよ、それにたった今、ダニエル王の項を記したことで私は式部卿では無くなったからね、次は君の番です、頑張って下さいね! 私からも言わせてもらいますが、君こそ歴代最高の式部卿になる、そう信じていますよ」

「こ、これは! 精一杯頑張ります! ……ところで、服喪ふくも中でございますが、別室にささやかながら送別の席を準備しました、是非出席して頂ければと…… 如何でしょうか? 」

 ロアは口髭の下の薄目の唇の端を引き上げ、嬉しそうに笑いながらら答える。

「ありがとう、是非出席させて頂こう! その前に、最後に少しだけ執務室をお借りしても良いかな? 何、短くて良いんだ、一人にしてくれないかい? 」

「勿論です、外でお待ちしていますので、どうぞごゆるりと……」

 そう言って盆を持ち室外に出た男は呟いた。

「お寂しいのだろうな、クロード様…… それにしてもあの容姿で五十五歳とは、どう見ても二十歳そこそこにしか見えぬのだが…… 不思議なお方だ」


 室内に一人残ったロアは、執務室の南向きの窓を開け、小さなバルコニーに出ると、胸からパイプを出し煙草を詰めて火を着けた。
 ゆっくり吸い込んだ煙を一度吹かした後、視線を南門から先に続く青空に向けて呟いたのである。

「デニー、エマ、君達に言われた通りにアレンジして置いたよ、これでいいんだね? ……まあ、ありのままに書いた所で誰も信じ無かっただろうけどね」

 そう言うと視線を戻し、パイプを咥えたまま、僅かわずかな手荷物だけを抱えて、長年過ごした執務室を後にするのであった。

 ロアが見つめていた南の青空の下、一組の男女が街道をれて林の中へ駆けて行く姿があった。
 年の頃は十代半ばだろうか、少年の方は白に近い薄青のジェストコールを着て背中に大剣を背負った金髪である。
 同じ年頃に見える少女は、全身を自分の髪や目の色と同じ朱色、バーミリオンのドレスで着飾り少年の手を急かすように引いていた。

 程なくして小さな川のほとりに着いた二人は周囲を見渡して会話を始めた。
 少年が言った。

「ここも随分様変わりしたね、今では遊水地で普段は牧草地なんだね? モンスターの解体場所だった面影は無いね、ね? エマ」

 少女が答えた。

「ええ、本当ですわね、それよりもデニー? 考えてくれましたの? これから向かう場所の事でしてよ! 前にも言いましたけれど、私は海を見たいのですわ! 海でしてよ、海! ですわ! 」

 デニーと呼ばれた少年は苦笑いを浮かべながら答える。

「エマ、それは三人が到着してからみんなで決めないかい? ん? ああ、来たみたいだね? 」

 エマと言う少女が耳を澄ませる様にしてから嬉しそうな声を上げた。

「本当ですわ! おーい! 皆こちらでしてよぉー! おーい! 海でしてよー! うーみーっ! 」

「あはは、待ってよエマー! 」

 エマとデニーの走り行く先には無骨なキャリッジの御者席に座った執事服とメイド服の男女と、騎乗した鎧騎士の姿が近づいて来るのが見えていた。

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公爵令嬢冒険02


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