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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
533.アンカー

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 善悪が不思議そうに首を傾げてフェイトに聞いた。

「地球が滅んでいく時、悪魔達はどうしていたのでござる? アスタやバアルなら決定的な破局の前に軍団を率いて魔力過多を何とかしたのでは無かろうか?」

「いなかったのです、まず人間が最初に滅びましたから、信仰が失われたんですよ…… 我々やメット・カフー、永遠であるカーリーと違って、貴方達新しい神々は信仰する者がいなければ存在出来無いでしょう」

「あーそっかー、なるほどでござるな」

 納得する善悪の横からガネーシャが確認する様に言葉を引き継いだ。

「で、貴方達は繰り返しているのだな? 時間を遡行そこうして滅びを回避する為に何度となく同じ時間を過ごしていると…… なぜそんな事が可能なのだ? 説明できるか?」

 フェイトが頷きつつ返す。

「その通りです、カーリーは時間を越えて過去を観察する能力がありました、これは以前の聖戦士幸福昼夜と融合して手に入れた力です、彼女には一定方向に流れ続ける時間の中で特別な瞬間があったのです、今から四十一年前、昼夜の息子が生まれた年でした、その年に彼女の魔力が爆発的に増えた事で時間の流れの中にアンカー、目印を持っていたのです、彼女の目印を頼りに我々四人が時間の流れの中にその位置を特定し、切り開く扉の神であるメット・カフーが時間の連続帯を破壊する事でやり直したのです、破滅までの数十年を……」

 善悪が唸りながら言葉にした。

「うーん、みっちゃんが生まれた年、つまり僕チンやコユキ殿、昭や晃や明が産まれた年って事でござるな? あ、あと辻井ちゃんもか、しかしなぜその年にカーリーさんの魔力が増えたのでござろ? 時間の連続帯にアンカーを打つなんて並大抵の事ではないであろうに…… はてな?」

「コロンビア……」

 突然呟いたコユキに善悪が顔を向けて質問をする。

「コロンビアでござるか? 南米の国でござるな?」

「違うわ、スペースシャトルコロンビアよ、初めて宇宙空間に行って帰って来た宇宙船よ」

「ん、初めてはボストークじゃないの、ガガーリンの! ほら他にもアポロとかさ、アームストロング的な?」

「ふふん、冷戦期の米ソの発表なんてどちらも眉唾よ善悪、スペースシャトルの一号機エンタープライズは大気圏内用だったけど、コロンビアは宇宙に行った、だけじゃなく巨大な機体その物で帰還したのよ? 電離放射線をたっぷり大気中に持ち込んだ筈よ、電磁波だけじゃなく粒子線、つまり陽子や電子、中性子や重粒子なんかもね、それが爆発的に魔力が増えた原因だったんじゃないの?」

「ふむそうかもね…… 兎に角そこにカーリーの時間に対する特異点みたいな物が固定されていると、なるほどもっと昔に戻って根本的にやり直す事は出来ないのでござるか…… 期間的にも四十年ポッチで運命を変えるとか無理ゲー臭が物凄いのでござるな、うーん」

 フェイトが悔しそうな表情を浮かべながら言う。

「その通りです、あまりにも破滅が始まるまでの時間が短いのです、その間に少しでも運命を変える為に様々な人々の運命に干渉して来ました…… 決して褒められる事で無く、むし唾棄だきされてしかるべき事、分かってはいましたが我々は地球を救いたかった…… その為に試行錯誤して来たのです、辿り着いた答えが最初の滅びに関与していなかった悪魔と呼ばれる神々の力を借りる、これだったのです」

 全員が沈黙している。

 話の壮大さが理由だろうか、先程迄の殺気を込めた怒りを表している者はもういなかった。

 唯一人空気を読む能力が極端に低いイーチだけがダキアソードをべろべろ舐め続けている、馬鹿だなぁ。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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