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【4月16日】毎日強引に小説を書く企画


TITLE:今と大志


ボーイズビーアンビシャス。
― 少年よ、大志を抱け。

「なんで少年だけなんだよぉ、クラークさん。」
ストレッチをしながら、私は冗談っぽくつぶやいた。

吐く息が白い。
もうすぐ冬を迎える北海道は、本格的に寒さを見せ始めていた。

それでも私は、日課のジョギングを欠かさない。
いつもコースは決まっていて、
家からクラーク像があるさっぽろ羊ヶ丘展望台まで向かい、
また家まで戻るというシンプルなコースだ。
だいたい往復7キロくらいだろうか。それを毎朝走っている。

ストレッチを終えた私は、また家に向かって走り出す。

家までの道のりは単純だが、家の近くの札幌ドームまでは
道路の片側に広がる大きな畑を眺めながら走っている。

また、その畑が緑、黄、白と季節によって色を変える様が
何とも言えないほど美しいのだ。

・・・

家に帰ると、ちょうど父と母が朝食を食べ始めるところだった。
私も一緒に席に着く。
「あんた汗かいてるんだから先にシャワー入りなさいよ~。」
と母に言われ、
「さっきタオルで拭いたから。先にご飯食べたい。」
と返す。
「くさいわねー。」と隣から声が聞こえて、朝食が始まる。
毎朝、こんなやりとりの繰り返しだ。

母は専業主婦だが、マラソンが趣味で、今でもジムに通っている。

実は私が陸上を始めたのも、母の影響だ。
小学生のときに母が地域のマラソン大会で走っている姿を見て、
いつか一緒に走りたいと思ったのがきっかけだった。

中学で陸上部に入ると、毎朝母とジョギングをした。
コースは今と同じだが、走っていた距離は半分だった。

というのも、父が札幌の観光協会で働いていて、
当時は展望台の事務所に常駐していたため
行きは出勤と一緒に車で載せていってもらっていたのだ。

さすがに陸上を始めたての少女とその母親に、毎朝7キロは酷だ。
コースを変えれば良いだけの話だったが、
母も私も広大な畑の景色が大好きだったのだ。

しかし今では、高校生となった私はその7キロを悠々と走り、
母はリタイアしている。
人間の退化と進化は恐ろしい。

ちなみに私は、中学の3年間で体重が5キロも落ち、
華麗な高校デビューも果たした。

昔はみんなを笑わせるチャップリンのようなキャラだったが、
今では陸上に打ち込む美しいクールな女性を目指している。

・・・

朝食を食べ終えた私はシャワーを浴びてから、
歩いて学校に向かった。相変わらず外は寒い。

朝からいろいろしているせいか、
学校につくのはいつもギリギリになってしまう。

学校の授業は相変わらず退屈で、特に2年生になってからは今後の進路の話も多く、正直参っている。
楽しみといえば、お昼休みに友達と食堂でごはんを食べながらおしゃべりすることくらいだ。

今日も学校の様子は、普段と何一つ変わらない。

夕方、最後の授業が終わり、部室に向かう。
靴底がすり減ってきたローファーからランニングシューズに履き替え、
校舎の周りをゆっくり走り始める。

週末には、地域のマラソン大会がある。
今年も母と走る予定だ。

毎年母と参加して、父が応援してくれる。
終わったら3人で焼き肉を食べに行くのがお決まりだ。

同じであることが、私には心地よい。
変わらないことが、私には心地よい。

今後の進路や陸上の大きな大会も、そこまで興味はない。
ただ、変わらない毎日がそこにあるだけで充分幸せだからだ。


校舎の周りを走っていると、
近くの公園で遊んでいる子供たちや一緒に帰っているカップル、
教室で雑談しているクラスメイトなど
今を楽しんでいるんだろうなあ、
という人たちをたくさん見かける。

少し息を切らしながら、私は冗談っぽくつぶやいた。

「大志を抱く前に、今を楽しまなきゃいけないよね。」

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4月16日は、
ボーイズビーアンビシャスデー
チャップリンデー
女子マラソンの日

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