まちをデザインする
こんにちは。KESIKIの石川俊祐です。
この4月、北海道・旭川市のCDP(Chief Design Producer)に任命されました。デザインの力で旭川をより魅力的なまちにするチャレンジを、僕とKESIKIの仲間たちで始めます。(日本初のCDPということで気を引き締めて頑張ります)
というわけで、今回のタイトルは「まちをデザインする」。これからやるぞという覚悟を込めて、あえておこがましいタイトルをつけてみました。
言葉にするとあっけないほどシンプル。でも、これは途方もなく難しいチャレンジです。
僕たちKESIKIは、これまで企業や官公庁の想いを持った方々と一緒に、デザインアプローチを通じてより魅力的な組織づくりや事業づくりに取り組んできました。その中で僕たちが一番大切にしてきたこと。それは一人ひとりがワクワクする気持ちや、主体的に関われる仕組みをデザインすることです。それはまちづくりにおいても変わりません。
どうすれば、住む人一人ひとりがワクワクしながら、まちづくりに参加できるのか。旭川市との取り組みを例に考えてみたいと思います。
誰もがデザイナー気質のまち
旭川市は日本でも有数の「デザイン」や「クリエイティブ」に力を入れている都市です。
家具産業を中心に栄えてきた旭川では、1955年に今も続く日本屈指のデザインイベント「旭川デザインウィーク」の前身となる「第1回旭川木工祭り」を開催。1990年からは、開村100年を記念し、今では海外からも注目される「国際家具デザインフェア旭川(IFDA)」を実施。IFDAの功績が認められ、2019年にはユネスコのデザイン創造都市に選ばれます。
これがきっかけとなり、デザインを家具以外の分野にも広めていこうという動きが起こります。
2020年からは外部パートナーとともに、旭川をより盛り上げたいという想いを持った人に、デザイン思考やデザイン経営を学ぶ機会をつくる「旭川デザインプロデューサー育成事業(ADP)」を開始。2020年度はデザイン振興会、2021年度はロフトワークがそれぞれ担当し、そのバトンを引き継ぐ形で、2022年にはKESIKIがその役割を担っています。
デザインを都市全体に導入していく流れを受け、2022年度の「旭川デザインウィーク」では食や観光の領域のデザインにもフィーチャー。「デザイン都市」として市外からも注目を集めるようになりました。
対外的にこのような評価を得られるようになった背景には。ある気質があったからだと思っています。
それは、旭川に住む人一人ひとりが持つデザイナーとしての気質です。
例えば、旭川市内の家具職人の間では技術交流がたくさんあり、外から来た人にも未完成の家具を惜しみなく見せてくれます。いわば、共創とプロトタイピングの文化です。
家具を中心としたものづくりのデザインの歴史を持ち、最近ではより広いデザインを取り入れている旭川。市を牽引する今津寛介市長は、デザインに対する深い理解があります。色ものかたちを超えて、人に寄り添い創造するちからとしてまちづくりに取り込む決断をしました。市の産業振興課でADPを中心的に引っ張る後藤哲憲さんも、地域xデザインの文脈では旭川のみならず、全国にも知られている有名人。さらに、今回のADPの参加者をはじめ、デザイナーやクリエイターとして活躍し、人に寄り添う視点をもって物事を捉える人たちが他の地方都市と比べても多い印象があります。
外から見れば、圧倒的にクリエイティブな都市。
にもかかわらず、旭川の方達は口を揃えていうのです。
「旭川には何もない」と。
「自分たちがまちをつくる」という感覚
その理由を地域の人々にヒアリングしていくと、興味深い意見をいくつか耳にしました。
ひとつは、市内のプロジェクトそれぞれが「点」として存在しており、旭川全体で「面」として展開できていないことです。
たしかに、デザイン人材の育成や、クリエイティブな思考を事業や政策取り入れようとするプロジェクトはいくつも存在しています。
しかし、それぞれを一つにまとめるコンセプトがなく、そもそも旭川が「デザイン都市」であるということが、住む人にうまく伝わっていないという現状がありました。
もう一つは、歴史的な背景です。
19世紀末、それまで未開の原野であった北海道では、各地域で土地の開拓が本格化します。その過程において、旭川は「軍都」として位置付けられ、日本政府が派遣した屯田兵により開拓が行われました。そんな旭川の歴史的背景が、「自分たちがまちをつくる」という感覚を市民が持ちづらい理由なのではないか。そんな説も、耳にしました。
人類学者と一緒に、「自信」を探す
どうすれば「旭川には何もない」という口癖がなくなり、「自分たちの手でより良くしていくんだ」という自信を、旭川の人たち一人ひとりが持てるのか。自信を持つためには、「自分たちのまちは魅力的だ」と心から思えることが欠かせません。そこで取り組んだのが、旭川市内と周辺8町の魅力を再発見するフィールドワークです。
KESIKIのメンバーでもある、文化人類学者の中村寛先生を中心に昨年のADPに参加した約30名の方と旭川を練り歩きました。
その結果、いくつもの発見がありました。例えば、旭川駅から約1kmにわたり伸びている「旭川平和通買物公園」。一見すると、人通りが少なく、通りの両脇にある降ろされたシャッターも相まって、寂しい雰囲気を感じる場所です。しかし、人類学者と一緒に観察をしてみると、いつもと違った魅力に気づきます。公園とは逆側の旭川駅の裏手や公園の北東には、川沿いに広がる豊かな自然が溢れており、都会と自然を簡単に行き来できる場所であること。
旭川と周辺の町の関係からも、新しい発見がありました。外から訪れる人は地図上で示された範囲ではなく、周辺の8町も含めて「旭川」と言っていたこと。その視点で旭川を捉え直すと、便利な都市と豊かな自然を簡単に行き来できる、リーズナブルな多拠点生活ができるまちであること。
また、自分たちが普段当たり前だと思っていたものが、当たり前ではないことにも気づきました。例えば、太くて歯応えあるアスパラガスや雪の下で育つ甘味が強い人参など、少量多品種な農作物に恵まれていたこと。一方で、まだまだ付加価値をつけられそうな食材も溢れていること。
「自分たちのまちってすごいところかも!」
そんな声が参加者から聞こえてきたのが、今回のフィールドワークの一番の収穫でした。
「熱を持てるもの」を追求する
フィールドワークでの発見をもとに、次に取り組んだのが、旭川のこれからの100年を見据えたまちのビジョンのプロトタイピング。
ここでは、「30万人の都市をいかにデザインするか?」という難題に直面しました。大きい都市をまとめるビジョンをつくるのは、数万人の企業のビジョンをつくることとは違う難しさがあるからです。
企業のビジョンはイノベーターや先駆者のようなロールモデルをどう増やすかという視点でつくっていきます。一方、まちのビジョンは特定の人だけに焦点を当てると、取り残される人が出てしまう。
まちに住む誰もが自分ごと化できるビジョンをつくるためには、今のまちの魅力やこれまで積み重ねられてきた歴史など、誰も取り残さない姿勢が求められます。そのために大切なのは、どうやって住んでいる人たちを巻き込んでいくか。
旭川の魅力は、はるか昔から当たり前のように人間と自然の循環が生活に根ざしていること。そして、上川町・東川町・東神楽町など小さな個性が際立った町が旭川市の周辺に散在し、それぞれの交流も活発であることです。そのような旭川の魅力が感じられるようなビジョンのプロトタイプをつくりました。
しかし、ビジョンを策定できたとしても、「本当にそれを実現できるのか」と信じられなければ物事は動きません。ほとんどの日本人には、「自分たちの手でまちを動かせる」という実感がないと思います。それは東京の人であれ、旭川に住んでいる人たちであれ同じことでしょう。
次のフェーズで考えているのは、旭川に住む人たちによる小さなプロジェクトのプロトタイピングです。具体的には、まず旭川の豊かな食文化を中心に事業づくりを行う「フードフォレスト旭川」の事業を通じて、食や農業の領域からいまの課題とその解決方法をみんなで考えるアプローチを実施する予定です。
住む人たちが自分自身で苦戦しながら、「これだ!」と思える仮説を発見し、形にできるか。「ひらめいた!」という体験をいかに促すか。地域であれスタートアップであれ、表面的なアンケート調査に出てきたニーズではなく、自分たちが「熱をもてるもの」を追求することが大切です。そのために僕たちができるのは、考えるための問いを投げかけること。なぜなら、どんなまちにしたいかの答えは、言葉や形になっていないだけで、まちの人がすでに持っているものだからです。
プロトタイピングを繰り返す中で、周りの人から「デザインの力でまちが良くなってるね」というフィードバックが出てくる。すると、「自分たちはまちを変えられるんだ!」という感覚を持てるようになる。これはまさに、IDEOのケリー兄弟が語る「クリエイティブ・コンフィデンス」を持つこと。この繰り返しが、ワクワクするまちづくりにつながっていくのです。
主役は、まちに住む一人ひとり
自分たちのしてきたことに、自信と愛着を持ってもらう。そのために、KESIKIは旭川のまちと向き合い、「市民が自分らしく地方創生に参加するために、何ができるのか?」という問いを探求しています。
今ある課題を問い直し、価値を新たに定義し、共創する。ここで大切なのは、「未来のまちづくりを担うのは、ぼくたちではない」ということです。
もちろん、「KESIKIは計画だけつくり、手は動かさない」という意味ではありません。あくまで僕たちは、デザインを通じて旭川の市民に問いかけ、一人ひとりがまちづくりに主体的にかかわるヒントを投げる「変化の触媒になる」ということです。
KESIKIは旭川市民ではないので、わからないこともたくさんあります。僕らだけでは何もできません。でも、だからこそ、フラットにバイアスを持たずに関わることができる。一番大切なのは、市民一人ひとりが持つクリエイティブな心に火をつけること。それが、デザインがまちづくりにもたらす価値なのではないかと思います。
まちに住む人が変えるからこそ、地方創生には大きな意味が生まれます。
主役は、まちに住む一人ひとり。
「自分たちにもできる」「自分たちがやるんだ」……そんな気持ちをまち全体に生み出せるよう、僕たちも毎月、旭川に行って、ワクワクするプロジェクトをくわだてる予定です。
「一緒に旭川を盛り上げたい!」と思った方がいたら、ぜひご一緒しましょう!
(コンタクトはこちらまで!)