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「ゲド戦記」原作者の出世作!『闇の左手』を読みました

以前、「夏への扉」を読んだときに、他の有名な古典SFも読んでみたいと思いました。それで、ヒューゴー賞受賞作でおもしろそうな作品を探しました。
────両性具有人の惑星に開国を求め、一人の使節が交渉にあたる

ロボット、宇宙人が登場するようなSF小説ではなく、文化・社会制度などがぎっしりと書かれたファンタジーに近い作品でした。
テーマは壮大で「異邦人との友情」ともとれ、歴史に名を刻む作品でした。感想を綴ります。

あらすじ
宇宙連合エクーメンは、かつて植民地であった辺境の惑星「冬」との外交関係の復活を目指し、惑星「冬」に使節を送り込む。
惑星「冬」の住人は両性具有であり特異な社会を形成していた。両性具有は過去の遺伝子操作の実験によるもので、先遣の調査隊員は、その実験目的を戦争の排除ではないかと考察している。事実、「冬」の住人は男女両方の性格を合わせ持ち、攻撃的ではなく、戦争と呼べるような大量な殺し合いは起きていない。

使節ゲンリー・アイは、惑星「冬」のカルハイド王国の王との謁見を求めていたが、頼りにしていた宰相エストラーベンが王の寵愛を失い追放されたのを知る。極寒の「冬」では追放は死を意味する。
ゲンリー・アイは、カルハイド王国と紛争中の隣国オルゴレインを訪れ、歓待されるが、再会したエストラーベンから忠告を受ける。その後、派閥争いに巻きこまれて逮捕され、囚人として更生施設へ送られる。

エストラーベンは更生施設よりゲンリー・アイを救い出し、極寒の氷原を抜け、カルハイド王国への帰還を目指す。(Wikipedia「闇の左手」:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%97%87%E3%81%AE%E5%B7%A6%E6%89%8B)

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「異物であること」がありありとわかる

惑星<冬>では、社会制度・文化が異なります。一番目を引いた設定は、「両性具有」で、性別による差異はないということです。(ただ、この設定でゴリ押しされていない、あくまでも設定の一つくらい)
大規模な争いがなく、親子の関係もどこか薄い世界が描かれていました。

主人公ゲンリーアイは別の惑星から来ました。惑星<冬>の人々からすると、異物です。性別が固定されていることが変、一年中ケメル(発情期)でいることが変、空を飛べるものを持っているのは変、、、

一方、ゲンリーアイから見て、変わっていると感じている描写もあります。

親の本能はゲセンにおいても、ほかの世界と同様に多種多様である。総括的に論じることはできない。カルハイド人が子供を撲るのを見たことがない。子供をきつく叱っている情景には出合うが。子供に対する彼らの情愛は深く、つぼをおさえていて、独占欲はほとんどない。事実、この独占欲の欠如が、われわれが母性本能と呼ぶところのものとの違いをもたらしているのだろう。p129

異物であることを象徴する制度や思考が随所に見られ、設定の細かさが作品をおもしろくしていると思いました。基本的に異物であることを起点に物語は進展していきます。出会ったことのない人に出会ったとき、人はどうなるか、そのパターンが本書にすべて書かれています。

よそ者にであったときの人の行動パターン
①好奇心による接近
②恐怖による拒絶
③政治的関心による利用
④絆の強化による融和

どのパターンにも共通するのは、個人の価値観には生い立ちが強く影響していることでしょう。本書では、キャラクターのバックグラウンドにもいくつか言及があり、関連があるように思えました。
(エイリアン、宇宙人がでてくるような映画はだいたいこの4つのうちどれかに分類できそうです。)

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④絆の強化による融和
後半はほぼこれに力を入れて書かれています。冬を延々と歩き、帰還するシーンです。このシーンを見ると、「共通の目的の遂行」と「トラウマの開示」が友情を深めている要因になっています。

徐々に距離が近くなっていく様子が名作とゆわれる所以でしょうか。思い切って、質問するシーンもありました。

「教えてください、あなたの種族の異性というのはあなたとどう違っているのか」~略~
「いや。そう。いやいや、むろん違う種族ではない。しかしその違いが非常に重要なのですよ。われわれの人生においてもっとも重要なこと、もっとも重大な要素の1つは、男性に生まれるのか女性に生まれるのかということです。ほとんどの社会においてその性がその人の将来の可能性や行動や外観や倫理や態度など───ほどんどあらゆることを決定するのです。」p289

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よそ者の世界で歴史書をつくる話をよみたいと思いました。

文化や社会制度は歴史を背負っています。上記の会話のように新しいことが次々とわかるような物語があったら、おもしろそうだと思いました。

タブーに触れて、血が流れるかもしれません。
客観的は判断を迫られるかもしれせません。
目的の遂行のために友情を深められるかもしれません。
誰かを傷つけてしまうかもしれません。

特に、歴史の空白を発見し、よそ者の主人公がその空白の歴史をどう埋めようとするのか気になりますね!

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この作者がゲド戦記を書いたと思うと、どこか納得してしまいました。
一人の作者の作品を追っかけてみるのも面白いとおもった読書体験でした。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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