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『紙の動物園』で短編小説の魅力を再発見!

気になっていた小説を読みました。ケン・リュウさんの『紙の動物園』です。この作品で、短編小説ってすごい!と思えたし、少しだけ自分の世界が広がったように思いました。『紙の動物園』の話をしながら、短編小説の魅力を綴ります。

あらすじ
香港で母さんと出会った父さんは母さんをアメリカに連れ帰った。泣き虫だったぼくに母さんが包装紙で作ってくれた折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動きだした。魔法のような母さんの折り紙だけがずっとぼくの友達だった…。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作など、第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から7篇を収録した胸を打ち心を揺さぶる短篇集。(BOOKデータベースより)
もくじ
紙の動物園
月へ
結縄
太平洋横断海底トンネル小史
心智五行
愛のアルゴリズム
文字占い師

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7つの短編小説が収録されています。表題作の『紙の動物園』は本書の一番目に掲載されています。アメリカ人の父と中国人の母を持つ主人公と、動く折り紙の動物と、親子の物語です。折り紙の動物と遊ぶのがすきであった主人公は、成長するにつれて、母親に反抗するようになります。

「短編小説って何でもできるんだなぁ」と思いました。わずか25ページの中に、①主人公の成長②折り紙の動物が動く魔法③母の人生と息子への思いが詰まっていました。直接描かれていない過去まで推測でき、時間の広がりを感じられる点です。人物の過去がわかることによって、人生観や取り巻く環境、人間関係などがイメージでき、芯のあるキャラができあがります。

「ぼく」こと主人公は、動く紙の動物と遊ぶのが好きでした。グズグズ泣いていた「ぼく」には、動物と遊んでいる時間は心理的安全圏の中にいましたし、ささやかながら、大冒険でした。そのような序盤から一転し、動物を避け、母を疎ましく思うように変化するのが印象的です。変わらない(むしろ、劣化していく)動物と変化する主人公の対比になっていました。

折り紙が動くことも魅力です。母と主人公をつなぐ媒体のような働きをしています。楽しい思い出が根底にありながら、疎ましい母のイメージとともに遠ざける存在で、物語のキーになっています。

真面目な母です。反発する息子に近づこうとすればするほど、拒絶されてしまいます。救いがないキャラクターになっていますが、感情が一気に吐き出されるのは、クライマックスを最高のものにしています。動物が絆をつないでいることも心に残りました。

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『紙の動物園』は短編小説の魅力を再発見させてくれました。魅力は3つあると思います。
①スピード感があること
②作者の工夫が目立つこと
③時間の広がりを想像しやすいこと

①スピード感があること
クライマックスへの期間が短く、サクサク読めます。登場人物も比較的少なく、話がまとまっています。込み入った話が苦手な人には特におすすめです。ただ、長編小説と比べると、助走が短く、盛り上がりに欠けると思う方もいるかもしれません。しかし、作者のアイデアで高く飛べます。

②作者の工夫が目立つこと
アイデアが詰まっていて、密度が濃いです。『紙の動物園』以外の話も独自の設定があって、特別な感情を持っている人物が登場して、話を飽きさせません。個人的には、『結縄』のアイデアがとても面白かったです。短編小説こそ、アイデア勝負なのだと思いました。

③時間の広がりを想像しやすいこと
挿入されるエピソードと話の展開から、過去どんな人生を生きていたのか想像しやすいです。作者は「想像できるエピソードを選んで書いている」といった方が近いかもしれません。

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7つのお話が収録されていて、どれも独立していました。どれも毛色の違う話ですが、ひとつの物語として完結していたし、登場人物に過去も未来もありました。作者の渾身のアイデアはどう表現されているかという視点で、読んでみても、おもしろそうかなって思えました。

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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