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IkigaiとかKaizenとか

本屋に行くのが好きです。今巷では何が流行っていて、そこにどういう効果が出ているのか。詳しいデータはわからなくても、そういったことを直感的に感じられる知的な空間は、自分のモチベーションを上げてくれます。

僕が住んでいるフィリピンは、日本と比べると本屋の数は圧倒的に少数です。これは、最近日本を始めとした先進国で起きている電子書籍への移行といったテクノロジーの進化や新しいサービスというよりかは、そもそも本を読む人が少ないことが理由として挙げられると思います。識字率や教育レベルのような問題にも言及しなければならないのでここでは触れませんが、フィリピンにも数は少ないけれど、日本と同じように本屋があり、人々は文学や随筆、歴史、ビジネス、様々な種類の本を買い、読んでいます。

フィリピンで販売されている本は、ほぼ全てが英語で書かれているため、アメリカやイギリスといった外国の書籍も翻訳することなくそのまま購入できます。そのため、世界中から取り寄せた本の中から流行のものや話題性あるものが店頭に並んでいます。

そんな平積みのラインナップを見ていて、ふと日本の文化について書かれた本が気になりました。

ひとつは『Ikigai』、もうひとつは『Kaizen』。もちろん日本語の「生き甲斐」と「改善」が元になっています。

詳しい内容を読んでいないため、憶測ベースの話になってしまいますが、フィリピンの一部の人達にはこれらの文化が日本人が持つ良い心構えとして映っているのではないかと思います。

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生き甲斐について

「生き甲斐」とは、生きることに対する喜びや価値を感じる言葉です。詳しく説明できなくても多くの日本人は理解出来、広く浸透している概念だと思っています。当初は沖縄の長寿の秘訣として紹介されたこの言葉が、その後日本にある良い概念として世界に広まっていったそうです。

これを知った時、僕の中にひとつの疑問が生まれました。たしかに、生き甲斐という概念は広まっているけど、日本国内にどれほど生き甲斐を感じながら生きている人がいるのか。

有名なデータですが、日本は先進国で最も自殺者が多い国です。また、自殺はせずとも、精神的に追い込まれ鬱症状になってしまう人も後を断ちません。日本固有の同調圧力やいじめなどが大きな理由だとは思いますが、一向に良くなっている兆しがありません。

そんな状況を見ていると、日本は生き甲斐という概念は持っていても、文化自体はあまり持てていないのではないかと思ってしまいます。

似た概念で、デンマークを始めとした北欧地域には「ヒュッゲ」という文化があります。居心地がいい空間や楽しい時間、といった意味合いがあり、世界幸福度ランキングで毎度上位に名を連ねるデンマークという国を語る上で欠かせない言葉となっています。

よく比べてみると、生き甲斐は人生という長い時間の話、ヒュッゲは今という一瞬、といった時間の尺度の違いがあることがわかります。日本には、この「今という一瞬を楽しむ」ことを、取り立てて出来てはいないのではないかと思いました。

生き甲斐は素晴らしい概念だと思いますが、長い年月は一瞬一瞬の積み重ねなので、そういった短い時間にフォーカスした幸福の概念が浸透していくと、再び日本人の生活に生き甲斐が戻ってくるのではないでしょうか。

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改善について

次に「改善」について。これは、より好ましい・望ましいものに改めていく、そのための創意工夫、という言葉で、日本人の間で日常的に使われている言葉です。

英語にもimprovementという言葉がありながら、Kaizenとして広まったのは、日本が誇る世界企業「トヨタ自動車」のカイゼン方式が挙げられます。トヨタは自動車の製造工程に潜むあらゆる無駄を排除し、より価値の高い作業を行えるよう作業内容や業務自体を変えてきました。そういった一連の取り組みを「カイゼン」と称し、世界中に広まっていきました。

人間が作業を行っていく限り、無駄なものは必ず出てきてしまいます。機械は無駄を作らないと言っても、機械を設計するのは人間なので絶対どこかに無駄というものは出てきてしまいます。成果物だけでなくプロセス自体にも見直しをしていくことで、より短期間に、より少ないリソースで効率的に物事が行えます。こういった概念が改善であり、それが世界中に良い影響力を及ぼしたのだと思います。

しかし、この言葉も僕の中に疑問は生まれました。果たして日本のビジネスの現場は本当に改善出来ているのか。

改善はメーカーの製造工程だけでなく、様々なものに通じる概念です。今の日本を見ていると、特にホワイトカラーのビジネスの現場には改善すべきものがたくさんあるように思われます。

これもよく言われる話ですが、海外の人達が理解できない日本のビジネス文化として「年功序列」や「解雇規制」が挙げられます。仕事の評価はその実績や取り組み方によってのみされるもので、年齢は関係ありません。また、企業間に人の流れを作ることで不正を防ぎ、属人化を避ける(=リスク回避につながる)という考え方もあります。

日本には「忖度」のような空気を読む文化や物事を無かったことにしてしまう「隠蔽」があり、それらがこういった悪いビジネス文化を作り出しているのかと思います。

僕は製造工程で上手く機能した「改善」をもっと広く日本のビジネスシーンで取り入れる必要があると思っています。近頃は「シリコンバレー式〇〇」なんて言葉が流行っていて、アメリカのテック文化を真似して新たな仕組みを導入しようとしているところもありますが、まずは目の前にある潜在的な問題を改善してからだと思いました。

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「生き甲斐」と「改善」。日本の文化が世界で評価され、人々の間で実践されるのはとても嬉しいことです。

しかし、世界で流行っているその文化をまずは日本でもちゃんと取り入れていく必要があると思います。実践して、成果を上げることで、またひとつ日本の新たな魅力が生まれると思います。そして、そこからそういった言葉にも重みが出ていき、日本のブランド力が強化されるのではないでしょうか。

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