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上場準備を終えて-現場責任者から見た上場準備-

0 上場

2022年12月21日、note株式会社は東京証券取引所グロース市場に上場しました。

準備にかかわりはじめた頃に宿った双子は2歳半になりました。

ここに至るまでは本当にいろいろなことがありました。

1 上場準備チーム

上場準備は、上記のフローに沿って進みますが、私は、予備調査後、内部体制の整備から関わり始めました。
もともと法律事務所で弁護士をしており、note社には1人目の法務として、業務委託で関わり始めましたが、その後、上場準備にも関わるようになりました。現在は、法務室長、クリエイターエコノミー協会の事務局長もしています。

当時、上場準備に主に関わっていたのはCFOと私で、ざっくりわけると、定量周りはCFO、定性周りは私で、適宜、相談しつつ進めていきました。
ともに上場準備経験がないなかでしたが、まずは、アドバイザーである証券会社の公開引受部から提供されたタスクリストをもとに、公開引受部と相談しながら、内部体制の整備を進めていきました。
上場準備チームは、当初2人から始まりましたが、会社の拡大にともなって、最終的には5名にまで拡大しました。

noteには、2022年8月時点で2700万をこえるクリエイターのコンテンツがあり、その健全性を担保するため、CSチームやTrust&Safetyチーム(開発)とは非常に密に連携をとりました。また、新規上場申請のための有価証券報告書(1の部)の関係では財務経理チーム、公開引受部や審査と議論する際の基礎データの収集の際にはデータチームともよく連携していました。

2 公開引受部との距離感

これまでは上場準備にかかわったことがなかったので、公開引受部との距離感は、最初はよくわかりませんでした。主幹事証券と契約を結ぶと、証券会社の公開引受部は発行体(当社)のコンサルティングを担当し、将来、証券会社の審査部の審査を受けるという形になるのですが、ウォールが敷かれているとはいえ、同じ証券会社で、どこまで相談すべきかというのは、悩ましいものがありました。
後から振り返ってみると、お互いの信頼度があがるほど、踏み込んだ相談がしやすくなっていったので、基礎となる信頼関係の構築は重要だったと感じています。論点によっては、見解が対立することはありましたが、率直な意見交換ができるようになったあとの方が、やりやすくなりました。

3 内部体制の整備における悩ましさ

上場するためには、上場にふさわしい体制(たとえば、横領がおきにくい仕組みづくりや適正な労務管理など)を整備する必要があります。
公開引受部からタスクシートの提供、他社でよく使われている対応方法の提案はあるので、それを処理していくという側面も大きいです。
他方で、スタートアップは成長する必要があり、成長を阻害するような対応方法だった場合は、対応方法の目的にたちかえって、目的を果たせる、別の(成長を阻害しない、または、阻害の程度が低い)方法を検討していく必要があります。この場合、審査部が納得するような方法であると公開引受部が納得する方法を見出す必要があり、なるべく軽くしたい社内と、公開引受部の間で、落とし所を見つけていく作業を繰り返すことになりました。

4 IPOコンサルの活用

上場準備は一時的に大量のリソースを食うこと、そのノウハウも一過性のものがそれなりに多いことから、IPOコンサルにドキュメンテーションの補助などを依頼していました。
新規上場申請のための有価証券報告書(1の部)と各種説明資料をはじめとして大量のドキュメンテーションを含む膨大なタスクが並行して走るなかで、IPOコンサルの補助は大変助かりました。
途中で切り替えることがありましたが、IPOコンサルも、それぞれ特徴があるので、誰が何をしてくれるのかというところは精査したうえでお願いするのがよいように思います。

5  ドキュメンテーション

新規上場申請のための有価証券報告書(1の部)を1から作る作業は、IPOコンサルと連携して行いましたが、IPOコンサルにお願いできるのは、大枠や各社共通の部分となり、会社固有の部分は会社側で埋めていく必要があります。最初は何を書けば、、という気持ちにもなりましたが、幸い、代表に関する記事は、インターネットを検索するといくらでもでてきたこと、代表の考えが一貫していたことから、そうした記事を大量に読み込み、代表だったらこう書くかな?という内容をひたすら書面に落とし込みました。
サービスについても、各部署に何度もヒアリングして書面に落とし込んでいきました。

6  タイトな審査の質問対応

審査では、1回あたり数十から百数十程度の書面での質問対応を、三回程度、証券・東証いずれも行います。
特に東証は、二週間程で、二回ほど公開引受部のレビューも入るので、異常にタイトなスケジュールで進んでいきました。質問を受領次第、他のタスクとスケジュールを止められるだけ止めて、他の人に聞かないとわからないことをまずピックして最優先対応を依頼、自分で書けるものは、ほぼ即日起案していました。
書き過ぎても、書かなさすぎてもよくないなかで、そのバランスについては、かなり気を使いました。

7  審査ヒアリング

書面での質問対応の後には、それをもとにヒアリングが行われます。審査ヒアリングのスタンスというのも、初めての上場準備だったので、試行錯誤でした。最終的な振り返りとしては、誠実に、丁寧に対応をし、人と人との信頼関係を構築し、上場企業にふさわしいと感じてもらえるようなやり取りをしていくことが、非常に重要だったと思います。
論点について議論をしないという意味ではないですが、議論をする際にも、きちんと聞く耳を持つ、折り合いをつけるといったことも大事でした。議論の目的は、納得してもらうことにあり、論理はあくまで納得をしてもらうための1つの手段であったように思います。
東証のヒアリングを受ける頃には、自社のサービスについては、相当知り尽くしているので、会社からすると当然、と思ってしまうこともしばしばありますが、審査担当者からすれば、担当することになって初めて知るサービスについて、他案件も並行しながら、短期間で審査されているので、そのギャップを丁寧に埋めていくことも求められていたように思います。

8 弁護士が社内の立場で上場準備に携わる意義

弁護士が社内の立場で上場準備に携わることは多くはないですが、少しずつでてきているように思います。

大量の規程整備を含む内部体制整備、審査対応などは、①大量のタスクを並行してこなしていく、②質問に対して論理的・説得的な文章で過不足ないよう回答する、③相手のキャラクターを踏まえつつ、ヒアリングで相手に納得してもらえるよう論理性ももたせつつ回答する、というところで、弁護士の業務に親和性があるように思いました。また、目的を実現するために、より負担の少ない方策を見出していくという点は、趣旨に立ち返って考えるという法律家の思考にも近いように感じました。
他方で、類似のサービスが上場していて、概ね準備の方向性が定まっているような場合は、タスクを捌いていく側面が強くなってしまうようにも思われます。
新規性が強く、法律的思考や論理的思考が求められる論点が多かったり、議論が必要な論点が多かったりするようなケースなどでは、特に有用性が高いように感じました。審査では、裁判同様、前例を踏まえることも求められるというのも、法律家の思考に近しいように思います。
また、上場準備の最前線は、リスクマネジメントスキルを磨くには格好の場だったように思います。
とはいえ、前例を踏まえ、(外部の)弁護士の見解をとってください、といわれることもあり、もやもやする局面もしばしばありました。

9 IPOに関する知見について

初めての上場準備では、それを知っていればもっと早くやったのにといったことが発生し、おそろしくタイトなスケジュールで対応を求められるということが、しばしば起きました。
守秘義務のかたまりであったり、さまざま配慮が求められるプロセスであることもあり、IPOについては、従前、表に出ている知見が限られていたように思いますが、最近は徐々に、可能な範囲ではありつつも、公開されるようになってきました。
これまでにない事業の場合、新たな論点に取り組むことは不可避ではありますが、各社に共通するようなことについては、知見が表に出ていくことで、上場準備の効率化が図られればと思います。

10 上場準備を振り返って

上場準備では、「期限は明日」「作業量膨大だけど1週間で」「開発込みで1ヶ月で」といったタスクがしばしば降ってくるので、瞬間的に業務量が突き抜けることが、しばしばありました。
上場準備責任者に上場準備まわりの業務が集中していると、自分でコントロールができる、審査でも自分ですぐに回答できるというメリットがあり、上場準備中は、実にさまざまな社内業務を引き取っていました。他方、その結果、業務がオーバーフローすることがあり、この点は、もう少しバランスをとるべきだったようには思いました。社員急増にともなって法務室の業務量が増えたり、上場準備中に、業界団体が立ち上がり、その責任者の業務もしていたのもありましたが。。
また、上場準備責任者は、会社と審査(を前に進める)の間にはさまれるので、ストレスは不可避で大きくなります。波瀾万丈なことがしばしばおきるようになってきたころから、感情も、意識的にコントロールするようになりましたが、それをしていても、上場後に霧が晴れたように感じたことからすると、ストレスは相当高かったように思います(弁護士として、それまで、さまざまな方と関わっていたので、ストレス耐性は相当強い方ではありましたが、それでも)。感情は、前向きにも活用できるので、無用な波は抑えつつ、前向きに活用できるものは活用しつつ。最後の方は、ここまで、いろいろな人にやってもらったからには、という思いで前に進んでいました。
並行して双子の子育ても走っていましたが、なんだかんだで、双子の笑顔には癒されていました。

バランスが相当難しくありつつ、業務や感情のコントロールは、かなり求められる業務でした。
他方で、さまざまなバランスについて、最前線でギリギリと考え続けた経験は、今後、リスクマネジメントをすることに大きく生きてくるように思います。

11 最後に

実にフルコースでハードな上場準備でしたが、その分、さまざまなことも経験することができました。
上場準備中、それを先に知っていれば、ということもしばしばありました。定性的な部分でのお悩みなどありましたら、ご連絡などいただければと思います。

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