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新しいIPOへの挑戦。映像から未来をつくる仲間づくりを目指したセーフィーの資本施策の話

はじめまして。セーフィー株式会社のCFOの古田と申します。

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当社は、2021年9月29日に東京証券取引所に新規上場を果たしました。
無事にこの日を迎えることができたのは、本当に色々な方々に支えられたお陰であり、大変感謝しております。
何よりもSafieをご利用いただいているお客様、そして一緒に事業を作り上げてきた仲間の社員、またリスクをとって支援してくれた従来からの株主の皆様とSafieの未来を信じてくれた新しい株主の皆様、案件を一緒に作り上げた共同主幹事証券会社のSMBC日興証券とみずほ証券の皆様、様々な危機を一緒に乗り越えた監査法人やアドバイザーの先生方、さらに色々な角度からアドバイスや気づきをくれた数十人の先輩CXOの皆様に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました!

さて、本エントリーでは、当社がどのような資本施策とIPOを目指してきたのか、ありがたいことに関心を持っていただいた方からの質問への回答もかねて、その概要について紹介したいと思います。
個人的にはもう二度とIPOをやることはないと思っているので、これまで学んだことや考えたことを、IPOを視野に入れている起業家・経営者の方々や、当社に興味をもっている方々にお伝えできればと思っております。
少し長文になっておりますので、気になる点だけ読んでもらって、何か得るものを感じていただければ幸いです。

IPOに向けた取り組み

当社が本格的に上場の準備を始めたのは2年前の2019年夏頃、証券会社や東京証券取引所による審査を経て、ローンチ(上場承認)されたのは今年8月末でした。成長戦略、事業計画と予実管理、内部統制、上場審査等についても語りたいことは山ほどあるのですが、そのあたりは個社ごとに状況も違うので、主に資本施策やファイナンスについて上場準備の前から少し振り返っていきたいと思います。

IPO前の株主構成と資本施策

当社の資本施策事業戦略は特に密接に結びついています。

プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成したサービスを拡大するには、商流を押さえることが最も重要であると考えていたため、販売パートナーを拡大するとともに、パートナー各社に当社の株主になってもらい、各社との結びつきをより強固にすることを資金調達戦略の中核に据えました。
そのため、資金調達の際、VCではなく、当社のサービスを実際に販売する力があるパートナー企業、またはサービス開発で協業できるパートナー企業(またはそのCVC)のみを株主として迎え入れることを決めていました。
結果として、SONY、Canon、 NEC、NTT、SECOM、関西電力、三井不動産、ORIXといった日本を代表する企業のロゴが当社の株主に並ぶことになり、またこれが、膨大な映像データを扱うサービスのデファクト化を目指すうえでも役に立っていると思います。(なお出資元はそれぞれのグループ企業やCVCなど、必ずしも各社の本社ではありません)

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当然、各社からの出資においては、VCからの出資に比べて、意思決定に時間がかかり、調整や交渉は大変ですが、その後の事業推進上のリターンは、その手間を凌駕するものであると思っています。
なお、事業会社1-2社だけからの出資にしてしまうと、どうしても隷属的な関係になってしまったり、一社依存のリスクが高まるため、手間をかけてでも複数社同時に交渉してパワーバランスを保ち続けることが非常に重要でした。
また事業会社中心のファイナンスであれば、そこに純VCに一緒に入ってもらうと上手くいかない時もあると考えています。それぞれの事業会社株主がお互いに「カネも出して人も出して協業もして出資先事業を支えている」状態であればお互いに本気になりやすいのですが、そこに事業シナジーが薄い純VCの方が混ざると、一部の事業会社の方の目線では「口だけ出している」ように見えることもあるようです。

このような当社の戦略は、B2Bで商流を作る必要がある一部のベンチャー企業のみに当てはまる特殊な状況だとは思っています。ただ、一般的な慣習(VCからの調達)を鵜呑みにせずに、自社の株式も戦略上のツールととらえて、本当に自社にとって最適な方法が何かを考えることは検討してみてもよいのではないでしょうか。

主幹事体制とPre-IPOマーケティング

定番ではありますが、当社でも共同主幹事体制をとり、SMBC日興証券とみずほ証券の2社に主幹事を担ってもらいました。
やはり2社それぞれから微妙に異なるインプットを貰えること、また適正な牽制と競争環境を維持することは、発行会社と証券会社との間のパワーバランス上も重要だと考えています。当然プレディールリサーチレポート(PDRR)が2社から発行されることもマーケティング上でとても良い効果をもたらしています。

最近ではPre-IPO調達を含めて、IPOの2~3年ほど前から、インフォメーションミーティング(IM)やカンファレンス参加で機関投資家と接点を持つベンチャー企業も多いと思いますが、当社で初めて機関投資家とお会いしたのは上場の約半年前、2021年の3月でした。そこからカンファレンス2回とIM2回で計60社程度とはロードショー前に面談ができました。
このタイミングでも間に合うということは分かりましたが、余力があるなら、やはりもう少し手前から活動したほうが良いかなとは思います。
なぜならば、IMのメリットは会社のマーケティングや価格感を知るだけではなく、世界中のトップクラスの頭脳をもつ方々と会社の全体像を思いっきりディスカッションできることであり、ここでのインプットをもとに事業戦略のブラッシュアップができるためです。

セーフィーでは、B2Bフォーカス、圧倒的シェアとその背景にある競合優位性、構造的に不可逆となるテーマ(コロナ、労働人口減、映像データ活用、DX推進、5G展開)が深掘りできていること、攻めのガバナンス対策(セキュリティやプライバシーガバナンス)、カルチャーや採用などのポイントを投資家からの質問の回答を考える中で、頭が整理されていき、また新しい視点で追加検討をしたり、いくつも学びがありました。ロードショーマテリアル/成長可能性資料は、投資家の方々のインプットによって、確実に進化したと考えています。

コーナーストーン投資/親引け

今回のIPOは機関投資家によるコーナーストーン投資という新しいことにも挑戦し、Tybourne CapitalとJanchor Partnerという素晴らしい機関投資家2社にコーナーストーン投資家(国内制度上は「親引け」という)として入ってもらいました。

コーナーストーン投資:
ローンチ時の目論見書において、投資家名と購入予定金額等が開示され、ローンチ当初の段階から価格を含めたIPOを支持している投資家がいることを示し、アナウンスメント効果と案件の安定度を高めること等がメリットになる。

個人的には、今回の挑戦の結果としてさらに次の2点に意味があったと考えています。

1. 仲間づくり
投資家様からの強いご意向をいただいたことで、このコーナーストーン投資に至っておりますが、会社が主要な機関投資家を選べる機会でもあると解釈しております。
上場したら、株主を選ぶことはできませんし、当社はすべての株主の方を等しく尊重しています。とはいえ、やはり会社の事業と将来性を理解して評価してくれる相手、また会社の成長をより積極的に助けてくれる相手に当社の株を持ってもらいたいという思いも否定できません。IPOのブックビルディング時では数十億円単位の需要を貰ったとしても、数億円しか割り当てることができませんが、親引け先にはロックアップ制約付きで大きな割当をし、長期的な関係を構築できると考えています。
コーナーストーン投資/親引けに向けた対話の中で、長い付き合いになる相手をよく知ることができ、副産物として協業パートナー候補企業の紹介や、当社のプレゼンや見せ方についてのフィードバック、どういう機関投資家がどう考えているか・・など様々な理解を進めることができたことは嬉しい誤算でした。

2. 価格感の把握
目論見書に名前が載る前提で、開示する情報の範囲内とはいえ、時間をかけて真剣に検討した機関投資家のフィードバックを直接聞くことで、自信をもって目論見書価格を決めることができたことは、非常に良かったと思っています
不確実要素が非常に多いIPOプロセスの中で、また適切な類似企業(Comps)が居ない会社にとって、仮条件レンジ内での価格決定という制約がある現行のIPOの仕組みにおける目論見書価格は重要な要素です。
これを通常のIPOプロセスでの1時間のIMだけで伝えられる情報とそのフィードバックシートを積み重ねたValuationではなく、直接うけるフィードバックをもとに検討できたことはとても意味があったかと思います。
従来の価格決定方法では、情報の非対称性もあり、主幹事と発行会社で公開価格について揉めることが定番のように語られていました。当社では、IMのフィードバックに加えて、プライスリーダーたる投資家からの生の声をお互いに共有して議論ができたことで、かなり納得感が高い状態で、ほとんど揉めることも無く公開価格を合意できたことは非常に嬉しく思います。

なお上記いずれも、Pre-IPO資金調達時に機関投資家に入ってもらうことでも似たような効果は得られる可能性はあると思います。当社のようにそういったタイミングでの調達を考えていない場合などで、コーナーストーン投資は有効な手法になるかと思います。

このような新しいオプションの実例を示せたことで、日本のIPOを一歩前に進めたことになれたのであれば幸いです。
(ちなみに機関投資家への親引けであれば、ココナラさんが先行事例です、こちらの事例があったからこそ、今回はスムーズに進められたと思って大変感謝しています。ココナラさんとの違いは、親引け先が既存株主ではない点と、金額規模であり、当社の事例も新しいケーススタディにはなるのかと思っております)

最後に、このエントリーをご覧の皆様には釈迦に説法かとは思いますが、「IPOの価格設定プロセスの見直し」が政府の成長戦略にも含まれており、大きな社会課題になっています。

“公正取引委員会は新規株式公開(IPO)時に企業が適切に資金調達できているかの調査を始めた。事前に証券会社などと決める公開価格と、最初に売買が成立した初値の差が欧米より大きく、企業が調達する額が低いとの指摘があるためだ。”

※参照:『新規上場「値決め」、公取委が調査 欧米より調達少なく』(日経新聞2021/8/11)


個人的にも、初値>公開価格となることは必要ですが、一定の流動性がある上場案件であれば、初値が公開価格より大幅に跳ね上がることは、CFOとしては決して成功したIPOとはいえないと考えています。これまで事業を支えてきた既存株主のリターンを守り、彼らにスムーズに売出しに応じてもらうため、経営陣は、公開価格が、初値/市場価格に近い適正な価格になるように努めなければならないのではないでしょうか。
そういう趣旨でも、我々が行ったコーナーストーン投資以外にも新たなIPOプロセスにおける取り組みがこれからでてくることに期待しています。

こういった思いで迎えた上場日、当社のIPOの初値は3,350円と公開価格2,430円を38%も上振れてしまい、プライシングは難しいなとつくづく実感しております。

ロードショーとブックビルディング

ロードショー本番は、1on1で70回超、グループ面談含め100社超とWeb面談しました。最近はもっと多いケースもよく聞きますので、特に特徴がある訳ではないと思います。需要はしっかり積み上がり、当初予定よりも1日早くブックを締めたにもかかわらず、200社近い機関投資家に参加いただけました。
なお、『旧臨報方式だと100社弱程度の参加が普通の中、グローバルオファリングなみに多数の機関投資家の参加があり、数十倍超という需要レベル。さらにトップティアも含めた数十社のUS系の機関投資家(旧臨報形式なのでオフショアファンド)も参加しており、質と量が担保された全員参加型の素晴らしいブック。』 
という褒め殺しにあったのは嬉しい反面、果たして適切な価格だったのかと考えてしまったことは否めません。需要と供給のバランスがよいところが適性値であり、全員参加となる株価は果たして適切値といえるのか、難しいポイントだと思っています。また逆に、当然これは将来成長の期待値が織り込まれた価格であり、実績とのギャップはこれから実現していくしかないので大きなプレッシャーにもなっています。

結果として、コーナーストーン投資も含めると、旧臨報方式としては異例の海外投資家比率が約7割になりました。英語の目論見書が無い中で過半数を大幅に超えることができたのは、ここ1-2年の先行各社が徐々にこの比率を上げていってくれたためであり、当社に続くベンチャー企業がこの数値を超えていくものと思っております。

今後について

長文になりましたが、いかがでしたでしょうか?

非常に良いIPOになったと満足しているのですが、当社にとっても私にとっても上場はあくまで通過点であり、まだまだやりたいことの10%にも至っておらず、これからが勝負だと思っています。
社会の公器として責任感を持ちながら、上場で得た資金、知名度を活用して、Vision「映像から未来をつくる」の実現にむけて邁進していきます。

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セーフィーでは、今後の成長を楽しんでくれる仲間を引き続き募集しています。このエントリーをみて、少しでも気になっていただけたら、まずはカジュアル面談からでもお話ししましょう!
また、ここで学んだ内容を他のベンチャー企業へも還元して行きたいと思っておりますので、何か追加で知りたいCXOの方がいらっしゃれば、遠慮なくコンタクトください。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願い致します。

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