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全員、IPO経験無し。八方塞がりの上場準備チームで東証マザーズに上場した話

本日2020年10月7日、28歳になりました。誕生日らしく、この1年間を振り返ろうと思ったのですが、1年の振り返りだけではとてもエピソードがまとまりそうにありませんので、記憶が新しいうちに、IPO責任者として過ごした25歳〜27歳の約1年半の話を書いてみようと思います。

なおこの記事は、あくまで個人的な思い出やエピソードをフォーカスしたもので、上場準備の実務やIPOの裏話は記載していません。興味のある方は、Iの部や有報を分析して想像しつつ、是非ランチなり飲みなりお誘いいただけると喜びます。また上場準備実務のTipsについては、個別論点を省き一般的な話に整形した上でnote上で何かしら公開するつもり(予定)です。

前置き 92世代の話

突然ですが、私は1992年生まれです。92世代の起業家は、世間で光の世代と言われているそうです。ゲームみたいですね。

92世代が光の世代と呼ばれるのを実際に聞いたことは無いのですが、確かに光っている!!と感じる同世代は沢山います。例に漏れず「メイクマネー」には私も興味がなく、稼いだお金は①未来の世代に投資する、②財団を作って寄付する、③より良い未来を作るために事業に使う、の3択だろうと思っています。話は逸れますが、勝手ながら同じ92世代で頑張ってるよなぁと思っている人を紹介してみます。

①ノーコード業務自動化プラットフォーム(iPaaS)のAnyflowのCEO坂本さん
坂本さんは、20代の時点でプロダクトを20個潰しているヤバい人で、プロダクトへの愛(≒狂気)が凄まじいです。常にプロダクトに向き合っているプロダクトの鬼です。なおアディッシュでは、業務の自動化・効率化を全社として推奨しており、Anyflowによる自動化を導入しています。


②スキマバイトアプリのタイミーの釡谷さん
釡谷さんは、橋本環奈さんをCMに起用したタイミーの広報マネージャーで、恐るべきプロ意識の高さを維持しながらも優しくて和やかな雰囲気を醸し出すという天才的なセンスの持ち主です。

まだまだ世の中にあまり知られていない、光りまくっている92世代は沢山いるので、もっと盛り上げていきたいなーと思っています。

20代の夢

話を戻します。私の最初の上司は、ガイアックスの上田社長でした。上田社長は、1999年に24歳で起業し、6年後の2005年に30歳で名証セントレックスに上場したバリバリの起業家です。

大学時代にFacebookのマーク・ザッカーバーグに衝撃を受け、事業家になりたいと思って上京しITベンチャーに飛び込んだ私は、上田社長の経歴を知り、「29歳までに会社を上場させて、上司の記録を超えてやるぞ!」という超個人的な目標を立てました。もちろん他にも色々と人生の目標はありますが、負けず嫌いが私のIPOへの最初の原動力だったように思います。

ガイアックスでの仕事内容は退職エントリにまとめているので詳細は割愛しますが、2018年の私はとても焦りを感じていました。起業家/事業家として独立する前提でガイアックスに入社し、3年程CVCをやっていましたが、日々の生活の中で強い課題(ペイン)を感じなくなっていたのです。ペインが発見できなければ、自らが本気でやりたいと思える事業アイデアにも出会えません。キャピタリストとしてシード起業家の語るペインやビジネスプランに良いと思って出資しているのに、自分の人生には強いペインを感じないという皮肉な状態でした。そういった背景から、2018年の夏頃には、起業家/事業家として独立することは保留にし、既に存在する事業をCFO的立場、あるいはCOO的立場で牽引し成長させたいと思うようになりました。

アディッシュからの誘い

そんなことを考えていた真っ最中の2018年8月、ガイアックス投資先であるアディッシュの江戸浩樹社長、杉之原明子取締役管理本部長(当時)の2人から「上場準備責任者としてアディッシュに来てほしい!明日から!!」という急なオファーがありました。

明日から来て欲しいって、相当大変なんだな・・・

と思ったのをよく覚えています。当時の私は上場準備経験ゼロの25歳。こんな若造に会社の命運を左右するプロジェクトを任せるとはすごい意思決定だなぁと思いつつも、またとない機会なので、船に飛び乗ることにしました。私をスカウトした杉之原は、未経験で管理本部をゼロから立ち上げ上場準備を推進してきた張本人なので、未経験者への抵抗は誰よりも少なかったのかもしれません。

上場準備責任者の仕事

アディッシュからのオファーを受け、アディッシュに上場準備責任者としてジョインしました。入社したタイミングはN-1期(*)の第3四半期。一般的な上場準備では、N-2期までに各種管理体制を整備し、N-1期は労務も予実も監査も内部統制も、期首から運用をするというのが一般的です。私がジョインした時点で8割程度の規程整備や管理体制構築は終わっていましたが、『新規上場申請のための有価証券報告書(いわゆるIの部)』やマザーズ上場申請書類として名高い『各種説明資料』はこれからというタイミング。また、IPOに必要な管理体制整備は7~8割では話にならないという側面があり、99%まで整備する必要があります。その観点では、車に例えると、『運転することはできるが車検には通らない状態の車を期日までに車検に通るよう整備する』という仕上げが私を含めた全上場準備チームに残っている仕事でした。そして、私が入るのとほぼ同時期に上場準備関係メンバーが2名離脱したため、N-1期後半に上場準備関係者が半分入れ替わるというカオス状態でした。

*IPO準備では、上場直前々期をN-2期、上場直前期のことをN-1期、上場申請期のことをN期と表現する習慣があります。なおN期とはあくまで上場申請をする期であって、上場する期ではない点に留意が必要です。例えば4Qに上場申請をした場合、上場承認及び上場日は翌期1Qとなりますが、あくまで申請した期をN期と呼びます。

IPO申請期突入と同時に父になる

ジョインから数カ月後、申請期に入った直後に息子が生まれました。ただでさえ激務と言われるIPOに加えて父親業。里帰り出産をしなかった我が家では、子育てによる全体的な寝不足が続いており、妻には相当な負担をかけたと思います。たとえ家族であっても、勤務先がIPO申請期に突入したという情報を伝えることはできません。一体何をやっているのか?なぜ今が大事なのか?を伝えられない日々が1年以上続きました。思い返せば、IPOの真のキーマンは妻だったのではないかと思います。妻の支えがなければ絶対に上場できませんでした。MVPは間違いなく妻です。本当にありがとう。

表沙汰にはなりませんが、会社が本格的に上場準備フェーズに入ると、上場準備関係者に離婚や家庭トラブルが多くなるという話を耳にします。諜報機関や警察に勤務している訳でもないのに、突然仕事内容を教えてくれず激務になれば、あらぬ疑いや争いが生まれるのは必然でしょう。これから上場を目指す経営者は、会社の中だけでなく、上場準備チーム全体の家庭環境までケアできると良いなと感じます。

胃カメラ、鬱、インフルエンザ

上場準備の99%を追え上場申請直前となった2019年12月頃、突然胃がキリキリと痛みだしました。うずくまるレベルの痛みで、夜まともに寝れません。正直、『やばい、胃が痛すぎる、入院かも、皆ごめん』と思いました。人生初の胃カメラを飲んだ結果、『入院するほどではないけれど、休んでくださいね』と言われました。

さらに同じタイミングで、自分に鬱のような症状が出始めたことに気付きました。これは当時のメモですが、どこをどう見ても、明らかに鬱の初期症状でした。仕事のストレスや子育て等プライベート要因が重なったものでした。

・昼夜問わず涙がボロボロ出てくる
・食欲がない
・ネガティヴな思い込みが増えている
・朝起きると仕事に行く気がしない(仕事自体は辛く無い)
・Wordを開くとそわそわする
ありえない凡ミスを立て続けにする(コピー機の設定を間違える、日程調整を間違える)
・普通の仕事がいつもより遅い(体感40%〜60%くらい)

まさか胃痛上場申請が3つ同時に来るとは思いませんでした。人生何があるかわかりません。やることは沢山あるしやりたいのに働けない。まさにこんな感じ。

胃痛も鬱も初期段階で気付くことができたため、すぐに休養に入りチームの仲間に2週間ほど上場審査対応業務をお願いしました。が、八方塞がりとはよく言ったもの。上場準備チームの2名が同じ12月にインフルエンザになりました。ある瞬間、ピッチに立っているのは代表の江戸と経理部長の久保の2名だけでした。経理部長の久保は、これまでもハードシングスを潜り抜けてきた猛者です。経験の差というのは、最終局面で出るものだな・・・と感じました。

さすがに私も内心諦めモードになり始めていましたが、代表の江戸は1ミリも諦めていませんでした。思い返せば、諦めないという強い意思を持つことが、代表の一番重要な仕事だったのだろうと思います。

ちなみに良い感じのことを語っていますが、私は「療養せよ」という医者の指示に従い、12月はひたすら家でプレステ4のペルソナ5Rをやってました。

上場

重なるハードシングスをチーム全員の力でくぐり抜け、無事2020年3月26日に東証マザーズに上場しました。上場までご支援いただいたステークホルダーの皆様には感謝しかありません。上場し、やっと資本市場と向き合うスタートラインに立つことができました。

というわけで、改めて振り返ってみると、八方塞がりどころか相当にハードな上場準備だったように感じます。チームの皆、本当におつかれさまでした!上場承認が降りた日はこんな気持でした。

長くなり過ぎるので割愛しましたが、記事にて触れなかったネタも含め、改めてまとめるとこんな感じの上場準備でした。

・連結従業員数約770名に対して管理本部約15名、内IPOチーム兼任5名
・上場準備経験者ゼロ
・IPO支援コンサル無し
・IPO関係者が途中で約半分入れ替わる
・有価証券報告書作成経験者ゼロ
・IPOチーム責任者が上場エントリーとほぼ同時に胃痛かつ鬱でダウン
・IPOチームの約半分が審査期間中にインフルエンザに罹患
・外出自粛と機関投資家向けロードショーがもろ被り
・上場日に東証の鐘を鳴らすイベントが3密回避で無くなる

経験ゼロやトラブルが沢山あり無理をしたように見えますが、振り返ってみれば、上場準備関連領域の経験だけがゼロで、経理や労務といったコーポレート領域の各プロフェッショナルはちゃんと集まっていました。だからこそ上場の日を迎えられたのだと思います。

さいごに

私は東証マザーズで1社IPOを経験しましたが、たった1社のIPO経験というのは汎用性に欠けており、本来誰かに偉そうに講釈を垂れることができる立場では無いと思っています。IPOはそもそも一人の実力者がいれば成功する類のプロジェクトではなく、会社全体の業績への執着、内部管理体制やコーポレート・ガバナンスの整備への強靭な意思、一人ひとりが強い管理本部チーム、そして現実的には一定の運が必要な長期プロジェクトです(運を引き寄せるのも会社の努力の範疇です)。ただ、未上場スタートアップの経営陣やスタートアップCFO、管理本部長、VP of Financeなどの立場からすれば、無料でアクセス可能な実務経験者のIPO体験談は非常に稀であり、そして貴重であるというのも事実です。私自身、もっと早く知っていれば避けられたトラブル、やり直さなくて良かった作業が沢山あったと痛感しています。私は、「ただ知っているだけで失敗を回避できる情報は、誰もがアクセスできるべきだ」と考えていることから、IPOを目指す人達の何かしらの参考になれば、あるいは励みになればと思い、この記事を書きました。

上場準備は、少なく見積もって期間3年以上、費用4000万円以上かかる超大型プロジェクトです。見切り発車でスタートすると、メンバーのモチベーション低下やリソース不足といった様々な要因により高確率で頓挫します。実際に沢山の会社が毎年IPOを諦めています。IPO中止は、会社に大きな損害を与えます。予定通りのスケジュールでIPOに到達する算段をつけて、総額4000万円以上の準備コストを見越した上で、代表が強い覚悟を持ってスタートを切ることを勧めます!

おまけ

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