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IPOにおける主幹事証券の選び方

僕は過去、国内投資銀行および外資系投資銀行にいたことがあり、かつ、上場事業会社 / 非上場のスタートアップで証券会社と接する機会が多かったことから、たまに、友人のCEO / CFOから、IPOを検討しているが、いつ証券会社を主幹事に選ぶのが良いか、どう選べば良いか、どこが良いか?などと聞かれることがあります。

結論から言うと、万人にとって良い証券会社はありませんし、状況によって適切なパートナーは変わると思いますが、とはいえ確かに、各証券会社から話を聞くだけですと、なかなか客観的な意見がわからないと思いますし、情報があまりない領域だと思います。センシティブな領域でもあるので、なかなか触れにくいところもありますが、なるべく皆様にとって参考になるよう、書ける範囲で自分の考えをまとめてみたいと思います。

主幹事証券はいつまでに選ぶ必要があるか?

一義的には、N-2期(直前前期)中に選んでおくことが安全だと思います。つまり、上場したいタイミングの2年前までです。N-1期(直前期)でもぎりぎり間に合うとは思いますが、1年半~1年9ヶ月前くらいまでには選んでおかないと、相当バタバタすることになると思います。

主幹事証券の任せ方パターン

主幹事証券の任せ方として、① 単独主幹事 / 共同主幹事という概念、また、② 単独推薦証券 / 共同推薦証券 という概念があります。

単独主幹事 / 共同主幹事:IPOにおいて、エクイティストーリーの作成や、マーケティング戦略の策定、バリュエーションやオファリングストラクチャーの確定を、1社に任せるか、2社以上に任せるかというもの。例えば、JGC(ジョイントグローバルコーディネーター)などと言う時は、この共同主幹事の方式を取っていることを意味します
単独推薦証券 / 共同推薦証券:東証に審査書類を出す為の準備、および推薦書の作成を、1社に任せるか、2社以上に任せるかを意味します

まず、単独主幹事 / 共同主幹事についてですが、オファリングサイズが一定以上あり(原則100億円以上)、証券会社の方が許容して頂けるのであれば、原則として共同主幹事の方が発行会社にとってメリットが大きいです。各証券会社の強みを持つ部分(販売力であったり、エクイティストーリーの構築力、審査力など)を分けて、強いところに強いところを任せることができますし、バリュエーションなどにおいて、良い意味の牽制効果を働かせることもできます。ただ、その分、2社以上の証券会社への配慮、取りまとめなどは必要になります(CFOの頑張りどころです)

次に、単独推薦 / 共同推薦ですが、こちらは、従前は圧倒的に単独推薦が多かったものの、近年共同推薦案件も少しずつ増えてきているという印象です。審査を2社から受けることになる為、コーポレートの事務負担が増えるほか、お互いが譲れない審査ポイントが違った時に、むしろ1社の引受審査を受けるよりも審査が厳しくなってしまうリスクがあるのが、共同推薦のデメリットですが、単独主幹事 / 共同主幹事の話と同様、良い意味の牽制力を働かせられるところ、また、万が一どちらかの会社とスタックしてしまった場合も、残りの1社との間で東証審査を進めることができるというのがメリットです。

主幹事証券の選定基準

主幹事証券を選ぶに当たり、何を気にすべきなのか(また、何をあまり気にすべきでないのか)について、僕が考えている事をまとめてみたいと思います。

①:我々の領域への事業理解、およびエクイティストーリーの構築力

IPOを行うに当たっては、最終的に、投資家に対して自分達の魅力を伝える為に、IM(インフォメーションミーティング)の実施、カンファレンスへの参加、ロードショーの実施などを行っていくことになります。もちろん最後は発行体自身が自分達の魅力を十分考え、伝えなければならないのですが、この際に、どの程度証券会社が自分達の事業のことをわかっていて、強調すべきところを強調する / 足したほうが良い観点のアドバイスをくれるか、により、エクイティストーリーの魅力は大きく変わります。主幹事証券を選ぶに当たり、各社から、現時点で自社のエクイティストーリーをどう考えるかについては、まず聞くべきポイントになるかと思います。

例えば、SaaS業界のエクイティストーリーについては先日こんな記事を書きましたが、こういうことをどこまで一緒に考えてもらえるかが重要だと思っています。

②:我々が関連する投資家の理解、およびバリュエーションロジックの構築力

バリュエーションについて、高ければ良い、というものではありません。証券会社によっては、主幹事提案の際に出す想定バリュエーションと、最終的にIPOの際に提案するバリュエーションが、担当する部署が変わり、全然当初より引き下がってくる、というものもあります。仮に、コミットしろ、と詰めたとしても、「貴方達が出している事業計画、そして、マクロ環境が変わらない前提においてコミットします」というのが限界で、それは正直あまり意味がないものだと思います。

ただ、バリュエーションロジックは、聞いておくと、後でのコミュニケーションに役立ちます。①ともリンクしますが、バリュエーションにおいて参照する競合会社、類似会社をどことするか(あるいはどこを避けるべきか)。PER / PSRなど、なんの指標を用いて、何期先の倍率を使うのか。より高いバリュエーションを享受するために、どのような戦略を用いるのか。しっかり考えている証券会社の提案には、これらの要素が必ず入っています。

例えばSaaS事業のvaluationについて、先日このような記事を書きましたが、こういった観点について、ディスカッションしながら詰めていけることを想定しています。

③:国内個人投資家、国内機関投資家、海外機関投資家への販売力

証券会社としての販売力もそうですし、アナリストがしっかりしているか、なども評価のポイントになるかと思います。同規模/同領域の案件を行っていれば、投資家のホットな情報が入りやすいですし、過去の案件の実績を元に評価することになると思います。ただ、この分野は、何社かの話を聞くとわかりますが、色々とデータをいじって、どの会社に聞いても、その案件が、自分達が最も成果を出したように見せることも多いので、より中立的に聞きたければ、同じ質問を各社にして、各社によって定義が変わらないようにすることも大事だと思います。

④:グループとしてのサポート力

その証券会社として、例えば営業協力やIRサポートなどをどの程度してくれるのか。また、銀行、信託銀行、その他グループ会社などある場合、グループ全体においてどのようなサポートをしてくれるのか、というところは一つ大きな違いになるかと思います。例えば、一定期間における営業協力およびその実績数を点数化している会社などもありました。ここは、口だけでなく、どれだけ本気でやってくれているか、かつその実績が出ているかで測ることが良いのではないかと思います。

⑤:誰が担当してくれるか

例えば、その証券会社として、同業種の極めて近しい案件・シンボリックな案件を行っていた場合でも、中には、そのエース担当者が転職してしまっている場合もあります。そうすると、その会社としての実績はあっても(もちろん最低限の情報共有はされているでしょうが)、同じ効果を我々で期待できるかというと微妙です。会社としての力もそうですが、それと同じかそれ以上に、誰が担当してくれるか、というのが大事です。その為、各社が提案の時に、本件は誰が担当します、と言うか、また、資料に書いてあるだけでなく、本当にその人が提案に出てくるか。また、MTGに同席しているだけでなく、ちゃんとその人が案件を担当してくれそうであるか。これらを冷静に見極めることが重要です。また、直感としてその証券会社のメイン担当者が信頼できるか。これは、最後は一番大事になるのではないかと思っています。

最後に

冒頭でも書いたとおり、ややセンシティブであり、なかなか書きづらい分野でもありますが、その分情報も少なく、困っているCEO / CFOも多いのではないかと思います。是非、皆さまの参考になれば幸いです。より生々しい話が聞きたい方は、是非個別にご相談ください(笑)

いつものとおりですが、twitterも頑張っていますので、宜しければ是非フォローを宜しくお願いします!


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オープンエイトの取締役CFO。VIDEO BRAINが主力サービス。名古屋大学卒、大和証券SMBC、Mercer Japan、UBS証券などでM&Aや資金調達を担当した後、メドピアの経営企画部長を経てオープンエイトに入社。コーポレート領域全般を担当。