見出し画像

「それっぽい話し方」がキライだった

「それっぽい話し方」がキライでした。

たとえばテレビで「◯◯コンサルタント」みたいな肩書きの人が、いかにも本質を突いた感じのコメントをしている。だけど内容をよく聞いてみると、すごく薄っぺらいことを言っていると「それっぽく話しているだけじゃん」と思っていました。

「それっぽく話す」をぼくなりに定義すると「期待値を作ること」なのかなと思っています。

話している内容が本当に意味あるものかはわからないけど、見た目や言葉づかい、振るまいによって「意味のあることを話してそうだ」という期待値を作る。それがなんだか虚像な感じがして、ネガティブな印象を持っていました。

だけど最近、考え方が変わってきたんです。

「期待値調整」したほうがお客さんのためになる

ぼくは社会人になってから、ずっとBtoBの事業に関わってきました。

BtoBの仕事場では、よく「期待値調整しよう」という言葉を聞きました。営業担当はノルマがあって売りたいし、サービスの導入担当者はお金を払ってでもすぐに解決したい課題がある。どちらも期待値を「上げすぎる」インセンティブが働いています。

そうやって上がりすぎた期待値を適切なラインまで下げるために「期待値調整しよう」という声が飛びかう。それっぽく話すのが「期待値を作る」行為だとすると、期待値調整は「期待値を下げる」ニュアンスで使われます。

ある意味で真逆に近い言葉です。

期待値調整をすることで、お客さんからの「ぜんぜん成果が出ないじゃん!」といったクレームが減るし「正直なコミュニケーションを取ってくれて信用できる」「期待していた成果を出してくれてありがとね」と最終的な満足度が上がることが多い。実際、ちゃんと期待値調整をしている営業やカスタマーサクセスのほうが、お客さんと長期的な関係を築いている印象でした。

「それっぽく話すより期待値調整するほうが、お客さんのためになるのでは?」と思っていました。

それっぽく話して、リピーターを呼びまくる焼肉屋の社員さん

考え方が変わり始めたきっかけは、焼肉屋でアルバイトを始めたことです。

ぼくは編集者の仕事をしつつ、1年ぐらい前から週末などに焼肉屋で働いています。(バイトを始めた経緯は、こちらのnoteにまとめてます↓)

バイト中、ある社員さんから「オレ、それっぽく話すのが得意なんだよね」と言われました。

その社員さんは、接客だけで何組もリピーターを呼んでいるすごいホールスタッフです。個人でやっているカウンターだけの居酒屋やスナックならまだしも、50人ぐらい入るレストランで「あの人の接客がいいからまた行こう」を何回も実現させているのって、めちゃくちゃすごい。

たとえば予約していたお客さんが来たとき、ぼく含めたほぼ全員のスタッフは「こちらの席にどうぞ」と案内します。

だけどその社員さんだけは、窓際の席であれば「夜景も楽しみながらお食事ができるこちらの席をご用意しております」と言ったり、ボックス席という広めの席なら「ゆったりとくつろいただける、こちらのボックス席をご用意しております」と案内したりする。

「夜景がキレイ」や「席が広い」といったアピールを通して、座席、ひいてはお店への期待値を上げているのです。

ぼくの感覚からすると「そんなのわざわざ言ったら、期待値が上がっちゃうじゃん。席の場所だけシンプルに案内して、座ってみた結果として『あ、夜景が見えるじゃん』とか『ここ広い席でいいね』とかって気づいてもらうほうが、元の期待値が低いぶん、満足度が上がるのでは?」と思っていました。

だけど実際は「それっぽく話す」社員さんがリピーターを呼びまくっている。「BtoBと飲食のこの反応の違いはなんなんだ?」と気になりました。

BtoBでそれっぽく話しても通用しない

「BtoB」と「飲食」の業界特性の違いを考えてみることにしました。その結果、違いは大きく2つあるんじゃないかなと思ったんです。

それが「成果が定量か定性か」と「お客さんとサービス提供主の情報格差の度合い」。

BtoBは成果が「定量」で、お客さんとサービス提供主の情報格差は「小さい」ことが多い。いっぽうで飲食は成果が「定性」で、情報格差は「大きい」ことが多いのではないかなと思いました。(あくまでも傾向で、ぜんぶのケースが当てはまるわけではないですが。)

たとえば飲食の成果って「おいしい」とか「楽しい」とか「幸せ」とか、すごく定性的なものです。情報格差でいうと、たとえば焼肉屋に食べにくるお客さんのなかで、ミスジやハラミ、ロースがどのあたりの部位かをぜんぶ正確に把握してる人は少ない。

あとお店のオペレーションに関しても、ほとんどのお店は初めて行くものなので、どういう席の案内のされ方をするのか、いつどういう順番で料理を出すのかなんてわかりません。店側が「うちはこういうやり方なんで」と言えば、たいていのお客さんは「まあそういうもんか」と受けいれます。

ようするに情報格差が「大きい」。

いっぽうで、BtoBサービスの多くは成果は「売上が何円上がった」「CVRが何ポイント上がった」「何人採用できた」と定量的です。情報格差に関しては、担当者であればそのサービスを導入して失敗したら自分の役職や給料が下がる可能性もある。だから比較検討の際にめっちゃ調べます。稟議を通すためにもめっちゃ調べる。経営者本人であれば、そのサービスを導入して失敗したら会社をつぶすかもしれないから、めっちゃ調べる。

そうやって調べまくるなかで、サービス提供主との情報格差はどんどん小さくなっていきます。

成果は定量で出るし、お客さんもいろんなサービスを比較検討して機能の違いなども把握している。だからそれっぽく話しても、通用することが少ないんじゃないかなと思います。

なぜそれっぽく話す社員さんに、リピーターが付きまくるのか?

社員さんの「それっぽい話し方」と、ぼくの「期待値調整する話し方」の違いがいちばん顕著に出たできごとがありました。

うちの焼肉屋では、ミスジをうす切りで出すときに「牛脂」もセットで出します。理由をストレートに書くと「うす切りだとお肉が網にひっついて破れてしまう可能性があるから、牛脂をひいて網をなめらかにすることで、お肉がひっつかないようにするため」です。

お客さんに説明するとき、ぼくは「牛脂を使って、お肉が網にひっつかないようにしてください」と言っていました。「お肉が破れっちゃったんだけど」というクレームを予防するためです。

だけどリピーターを呼びまくる社員さんは「ミスジは希少で繊細な部位のため、牛脂をひいてサッとあぶるように焼いていただくと、すごくおいしく召しあがれます」と言います。

実際、ミスジって牛1頭から2kgぐらいしか取れないと言われている希少な部位ですし、水分量が少なくて焼きすぎるとパサパサになってしまうという意味では繊細です。そしてサッとあぶるように焼くと、うちのミスジって本当においしいんです。

社員さんも「牛脂をひいて焼きすぎないように気をつけてほしい」のメッセージをしれっとまぜていますが、コミュニケーション全体が「期待値調整」のためではなく「こうすればお肉をおいしく味わえるよ」という期待値を高めるために行われている。

ぼくの「網にひっつかないように気をつけてください」という言い方だと、期待値を下げることはあっても上がることはありません。だからミスジをうまく焼けても「あのお肉おいしかったな」ぐらいの印象で終わります。

だけど社員さんの説明の仕方なら「へえ、ミスジって希少で繊細な部位なんだ。これは大切に味わって食べねば…! そしてサッとあぶるように焼くとおいしく食べれるんだな!」と期待する。そしてうまく焼けると「あ、本当に希少部位だけあっておいしいわ!」と満足度が高まるんです。

「それっぽく話すこと」の本質的な価値

社員さんのそれっぽい話し方は、なぜいいのか?

それは成果の「項目」を提示しているからだと思います。飲食のように成果が「定性」で情報格差が「大きい」と、お客さんは「そもそもなにを期待したらいいのか?」がわからないことが多いのです。

「席はこちらです」「お肉が網にひっつかないように気をつけてください」と、ただ事実を伝えて情報格差を埋めるようなコミュニケーションの取り方だと、お客さんは「なんとなく心地いい席だったな」「なんとなくおいしいお肉だったな」ぐらいの満足度で終わってしまいます。

だけどそれっぽく話して「この席は夜景を楽しめるのか!」「このお肉は食感を楽しむのか!」と期待値を作る。そして「実際に見える夜景」や「実際の食感」への満足度を上げる。

そしてそんなわざわざ期待してほしい「項目」を提示して、適切なラインまで期待値を上げてくれるホールスタッフなんてなかなかいません。だから「あの人の接客ステキだな」と印象に残る。

それっぽく話す社員さんがリピーターを呼びまくるヒミツが、すこしだけわかった気がしました。

それっぽく話すほうが、誠実でカッコいいときもある

「それっぽい話し方」がキライでした。

「それっぽく話すことではなく、成果を出すことで信頼されたいな」という気持ちがありました。そのほうが誠実でカッコいいなと思っていたんです。

BtoBの営業やマーケティングでいちばん有効なのは「結局、事例」なんていうふうに言われることがあります。商談でどれだけそれっぽく話しても「あんたのサービスのいいところはわかったから、結局どんだけ成果を出してるの?」が問われる。

だけど飲食の世界では「そもそもなにが成果なのかわからない」場面がたくさんあるのだなと気づきました。そういった場面では、それっぽく話すほうがむしろ誠実だしお客さんの満足度が上がる。

そして「期待値を作りにいくこと」は「その期待値を満たせなかったときの不満が大きくなる」というリスクを背負うことでもあります。それを迷いなくやっている社員さんがカッコいいなと思いましたし、いつも期待以上のお肉を提供してくれるキッチンスタッフの方々へのリスペクトも大きくなりました。

焼肉屋でのバイトを通して「それっぽい話し方」が本質的な価値につながる場面もあるのだなと学びました。

ぼくも「それっぽい話し方」をすこしずつ身につけて、使いこなせるようになっていきます!


この記事が参加している募集

はじめての仕事

仕事について話そう

最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!!!すこしでも面白いなと思っていただければ「スキ」を押していただけると、よりうれしいです・・・!