「売り方」の哲学
「売れてるから、買おう」とブーム的に購入されるのがいやで、「好きだし見たいから、買おう」と思ってほしいんです。
だから、関わったものが世に出ていくときも「プロモーションで売らないでください」と言います。
(『理系に学ぶ。』/川村元気)
川村元気さんが、理系分野で活躍する15人と順番に対談する『理系に学ぶ。』を読みました。
きょうはその感想、第2回です。
きのうのnoteはコチラ↓
きのうに引き続き、きょうも元電通で、いまは東京藝術大学教授を務める佐藤さんとの対談の感想です。
冒頭の引用箇所は、佐藤さんがメディア露出しないことについて、川村さんが触れたときのコメントです。
川村
佐藤さんは表には出ないけど、実はものすごいヒットメーカーなんですよね。
佐藤
でも、そう言ってほしくないんですよ。そこを誇りたいなとか、ないんです。
『ピタゴラスイッチ』のDVDブックも経済の本も、かなりの部数に達してますが、「売れてるから、買おう」とブーム的に購入されるのがいやで、「好きだし見たいから、買おう」と思ってほしいんです。
だから、関わったものが世に出ていくときも「プロモーションで売らないでください」と言います。
受け手のインタレストだけで数字が伸びていってくれたらいいと思っています。
(『理系に学ぶ。』/川村元気)
これを読んだとき、ぼくはハッとしました。
というのも、数日前に佐藤さんの志向する方向と、真逆の売り方について、noteで書いていたからです。
上のnoteでは、佐渡島さんの動画を取り上げて、『まずはブームを起こせば、そのブームに気づいた人たちがやってきてくれる』ということを書きました。
しかし、佐藤さんは引用したコメント中で、そういったやり方に対して否定的なコメントをしています。
結論から言ってしまうと、これはもうどっちが良い悪いじゃなくて、なんの優先順位が高いのかの違いだなと、思いました。
どういうものの売り方をしたときに、自分が気持ちよく感じるのかという、売り手側のエゴが顕著に出るところだなと。
ちなみに、どっちかと言うと、いまは佐渡島さんの言う『まずはブームを作ってしまって、そのブームで人を呼ぶ』やり方に勢いがあるんじゃないかと感じています。
テクノロジーやSNSの発達によって、作り手側のものを作って売るハードルが下がりました。
それによって多種多様な作品、商品が世に出てきましたが、佐渡島さんは動画中にて『自分の趣味嗜好を正確に把握している人は意外と少ない』という趣旨の発言をされています。
つまり、受け手側は作り手側の細分化に実はそれほど対応できていないではないか、という見方もできます。
コンテンツの数や種類自体だけが爆発的に増えていて、受け手側はもう何を選べばいいのか分からない状態です。
そうなったとき、『こういうコンテンツだから読む/観る/買う』ではなくて、『流行っているから読む/観る/買う』という理由も、立派な動機のひとつになるという考え方が、いまの『まずはブームを作る』という流れの根底には流れているのではないでしょうか。
両者の考え方を端的に言い表すなら『中身を理解したうえで買うかいなか』ですね。
ただ、例えば『まずはブームを作ろう』と言ってる佐渡島さんだって、たぶん理想を言えば『中身を理解したうえで買ってもらったほうがうれしい!』と思っていると思います(予想)。
でも、ここまでも触れてきたとおり、中身を理解してもらったうえで買ってもらうことは、とてもハードルが高いのです。
別に『ブームを作ること』が簡単なわけではなくて、最終的に『中身』にまで行ってもらうためにも(=まずは間口を広くするためにも)、まずはブームを作ったほうが良いという判断なんだと思います。
理想論だけ言えば、そりゃ全員に中身を理解してもらったうえで買ってもらったほうがうれしいかもしれないですが、ブーム作りたい派の人たちにとっては『そんな呑気なこと言ってられねえ』が本音なのでしょう。
特に佐渡島さんの場合はクリエイター本人ではなくて、エージェントとしてクリエイターをサポートする側にあるので、自分の理想とする売り方が仮に『全員に中身を!』だったとしても、まずは売れる仕組みを作って、クリエイターに作品作りを続けてもらう環境を続けることのほうが、優先順位が圧倒的に高いはず。
逆に言うと、佐藤さんは『中身を知ったうえで』というエゴを貫いて、そして実際にたくさんの商品をヒットさせているので、これまためちゃくちゃすごいです。
ちなみに、次に出てくる任天堂のゲームプロデューサーである宮本 茂さんも、佐藤さんと同じようなことを言っていました。
宮本
売るときに出ていくのはいいんですけど、作ることが自分の名前ありきになってしまうと、何か追われるみたいに作るようになってしまうんじゃないですかね。
川村
「宮本さんが作ったゲームだから買った」じゃなくて、「遊んできたゲームを作った人を調べてみてたら、全部宮本さんだった」みたいな仕事のあり方は、僕も一番理想とするところです。
(『理系に学ぶ。』/川村元気)
最初にも言った通り、こればっかりは正解不正解ではなくてそれぞれの優先順位と好き嫌い(=ブームで買ってくれる人を増やすことそのものに喜びを感じる人もいるはず)の話ですね。