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【仕事の流儀】権限移譲がチームを動かす

今回のエントリは以下の話の続きです。併せてお読み頂ければ幸いです。
チーム運営を主題として書いています。

上場してから3年余り。新たな戦いが始まった。
あれほど大変な思いをして成し遂げた上場を廃止して、より大きな別の会社と経営統合するという。
常に大きな動きのある業界。いちいち驚いていたら身がもたない。ざわつく感情は一旦棚上げして現実世界に身を投じる。


合併と経営統合の違い

上場時に右往左往していた、もうあの頃の素人ではない。

会社法の視点からすると、「合併」は分かるが「経営統合」という言葉は馴染みがなく、何か大事なことをぼやかしているような違和感があった。

「合併」とは、複数の会社が1つの法人格になる会社法上の手続き。合併する場合には、複数の会社が1つの会社になる、つまり存続会社と消滅会社が明確に存在することになり、人事制度や組織体制も1つにする必要がある。もちろん、社内システムの統合も不可欠だ。
1つの会社でありながら人事制度が2つあるということはあり得ないし、新たな会社の理念に沿って社内規程類、決裁権限基準、組織体制、評価基準といった仕組みや決めごとはもちろん、人事システム、財務システム、決裁システム、様々なITシステム群も原則として統一される。

これに対して「経営統合」とは、それぞれの法人格は残したまま、持ち株会社の傘下に入る(子会社になる)手続きを指す。この場合、各法人の人事制度や組織、社内システムは変更なく維持することができる点で、現場の混乱が少ないのが特徴といえる。

上記の差異を見比べて考えるに、恐らく長期的には合併を視野に入れている可能性が高いものの、いきなりそれをすることはハードルが高いと経営陣が判断し、まずは経営統合の形をとる選択をしたのだろう。

さて、今回は経営統合とのことなので法人自体は存続する前提であるはずだが、どうやら今までと同じ法人ではなくなるらしい。
新会社を設立して、従来の会社から新会社への吸収分割を行うという。
一連の手続きとしては、まずこれまで運営してきた会社の上場を廃止する。その後、一部株式の消却を経て株式併合。これにより少数株主の株式を強制的に買い取って少数株主を排除した上で、改めて株式分割。
その会社をあらかじめ新しく設立しておいた法人に吸収分割して全事業をそちらに移管した上で、株式交換することで新会社の株式は新たな株主に、旧会社の株式は別の株主に譲渡することで経営統合を実現するスキーム。

ゴールが見えているなら、そこに至る道は作れる

組織再編における一連の対応においては、最終的なゴールを見据えた上でそこに至る道筋を考えた。テクニカルな話はこのエントリにおける本旨ではないので規模感だけ端的に言うと、経営統合に至る最後の4ヶ月で、関連する登記が15件、公告が7件必要となる手続きだ。
スケジュールを組んでみて、あまりに遠く複雑な道のりに一瞬気が遠くなる。それでも気を取り直して、タスクの整理をし、メンバーの配置を考え、これまで築いてきた関係部門との信頼関係をベースとして、それぞれの領域を漏らさぬよう複眼で網の目を張り巡らせ、目を凝らし、状況を日々確認し、分からないことは遠慮なく質問する。
ゴールが見えているなら、そこに至る道は作れる。マクロとミクロの両面から攻めていく戦略。

大プロジェクトで権限移譲の重要性を知る

チーム内で権限移譲を大胆に進めたことは、今回のプロジェクトの特徴のひとつ。
僕自身はもともと自分自身で全部やりたいタイプ。
いちメンバーの立場だった頃は、他部署との連絡や調整のやり方から、こまかい書類のやり取りや記載の方法まで自分の考える理想のやり方を追求していた。そして、マネジメントを行うべき立場になったら、今度はそれをメンバーに対しても押し付けがちだった。
(これを僕は「マネジメントの失敗」と呼んでいます。詳しくは以下のエントリをご参照下さい。)

かつては、重要なプロジェクトであるほど、もしくは重要なタスクであるほど、メンバーに任せずに自分でやろうとしてきたきらいがある。大事なことだから自分でやる。進め方の理想型が見えていて人に全部説明しきれないから自分でやる。かつてはそういうことが多かった。

でも、このやり方は本当によくないし、しかも追求すればするほど逆効果。メンバーは育たないし、AでもBでも構わない進め方にまでメンバーは上長の顔色を窺い、いずれ自ら考えることもしなくなってしまう。
個々のタスクをメンバーに任せず自分でやるということは、つまりはメンバーを信頼していない証でもある。このことは、逆にメンバーからの信頼も得ることができないことにも繋がる。
プロジェクトが大きくなり、タスクが多くなると、自分で捌ききれないことも多々出てくるし、自分がボトルネックになって急ぎの案件が進まなかったり、落としてはいけない事象がこぼれ落ちることも出てくる。

結局、ゴールが明確に共有されていて、適切なコミュニケーションが取れているのであれば、途中の方法論は各メンバーを信頼して任せるほうが何倍も高い成果が得られ、さらにメンバーの納得感も得られると気付いた。
自分の役目は、全体を見渡し、メンバーに目配りしながら交通整理と情報集約を行い、一覧性をもって、日々変わりゆく状況を可視化することと定義した。
これによってメンバーそれぞれの役割が明確化され、チームが組織として動き出した。実は、これをできてみて初めて権限移譲ってこういうことかと体で理解できた。

情報がないストレス

さて、自分がメンバーとして仕事を進めているときに、最もストレスになるのは情報がないことだ。
必要な情報がどこかにはあるのに、もしくは持っている人がどこかにいるのに知らされなかったり、一部の人だけが知っているのに自分のもとには届かない、共有されない、そういうことが大変なストレスになる。自身の経験上においても、そういうときになんだか自分だけが置いてきぼりにされたような、大切に扱われていないという感覚があったし、尊厳を傷付けられるような気持ちを多く経験してきた。
自分は少なくともチームメンバーよりも多くの関係者から情報を得られる立場にある。自分がかつて感じたストレスは、今のメンバーが感じることのないようにしたい。そのため、手持ちの情報はすべて共有し、情報を必要とする関係者はアクセスできるようにした。

とはいえ、実際に情報がないストレスは今回も日々常に感じていたところ。
経営統合のタイミングは外部に公開している情報であって日程は動かせないのに、効力発生日の2カ月前になってもその手続きに必要な情報が存在しない。ワーワー騒いでいると少しずつ情報が出てくる。これだけ大きな再編なのに、1カ月前になっても新会社の取締役の情報がない。重要な情報だから秘匿性を重視して現場に知らされていないのではなく、実際に決まっていないらしかった。

最後の数か月とチームへの感謝

最後の3,4ヶ月は特に激務の日々が続く。
その中にあって、ギリギリだけれど完全に張り詰める少しだけ手前の状態で、少なくとも自分が見るべき領域にあっては全体を見渡して整理しながら進めていく。

年末年始を挟んだものの、年末年始に効力発生日となる事案が複数あったこともあり、仕事納めの日が過ぎてもひと区切りという感覚はまったくなかった。頭の中はひとつも休まることなくアイドリングしたまま年始を迎え、仕事はじめと同時にアクセルを踏み直す。
経営統合の対象となる法人本体以外にも子会社の解散や吸収合併等の再編もあり、ここまで詰め込むかというくらい濃密なスケジュール。

それでも、これまで重ねてきた経験を踏まえてチームの役割を果たし、総力戦で進められたことはよかった。強いメンバーのおかげでここまで来れたし、チームとしても成長することができた。
チームを超えた関係者との連携も常に取り続けることで、それぞれの領域をプロフェッショナルとして全うしながらお互いをフォローし合うことができて、より強いバックオフィスとして機能したと思う。

さいごに

経営統合というひとつの区切りを迎えたものの、それによっておめでたいということは何もない。今回の経営陣の判断が正しかったかというのは、現時点では分かりようがない。いつかこの日を振り返った時に、あの時経営統合してよかったよねと言えるよう、一層気を引き締めて日々活動していく以外にない。

サービスとしては大きなキャンペーンが始まるなど対外的にはお祭りのような雰囲気を出していたが、感染症拡大の影響で在宅勤務が推奨されていたこともあって、社内は何事もなされていないかのように、驚くほど静かだった。打ち上げは企画すらされなかった。
登記や株式交換は手続き的なものであり、直接その手続きに携わっていなければ目に見える形がない。登記完了後に法務局で登記事項証明を入手してみて初めて、その結果が印字されていると分かるだけだ。

権限移譲にあたって大切なことは、メンバーに任せたら本当に任せること。進捗確認はきちんとしつつ漏れがないように気を付けることは必要だが、横から勝手に口を出したり手を動かしたりはしないよう我慢するのも仕事。
次に何をするかはメンバーが自ら考え、動ける環境を整えるのが権限移譲にあたっての要諦。ただし、このバランスは本当に難しく、日々チューニングしていく必要があります。

続き(次の組織再編)はこちら。お読みください。


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