読書記スクラップ[震災・災害]04_巨大津波は生態系をどう変えたか
04「巨大津波は生態系をどう変えたか」永幡嘉之
副題として「生きものたちの東日本大震災」と付いており、これにはっとさせれて本書を手に取った記憶がある。
2012年4月に出版されている。
「復興」が急務で、中でも被災された方々の生活の再建が最優先事項だった頃だ。
さて、この津波の中で動物たちはどうなったのだろうか。
そんなことが、この副題で呼び起こされた。
被災後、津波の被害に遭った各地をまわり生態系の確認・記録が丁寧に綴られている。
中でも印象的だった部分を少し引用させていただく。
大きく崩れた生態系が回復する過程では、多くの場合、いくつかの生きものが大発生する。
その生きものの天敵が数を減らしたり、競争相手が不在になるためだ。
そして、ある生きものが大発生すれば、今度はその点滴が大発生する。
したがって、大発生は植物を食べるような食物連鎖の下位に位置するもの者から始まり、次第に肉食の昆虫へと進んでいく。
しかし、食物連鎖の上位に立つような大型で肉食の種類、例えば鳥類や哺乳類にまで順番が回ることはあまりなく、昆虫などの段階で終息することが多い。
こうして、生態系は食物連鎖の下位から順送りに回復してゆき、やがては安定に向かう。
本書内では、津波被災地でのアブラムシ→テントウムシの順で大発生したことが伝えられる。
この他、
・地中の種子が数十年を経て蘇ったミズアオイ
・名取市広浦での思いがけないメダカの繁殖
などのエピソーが印象に残る。
それから、塩害。樹木の枯損についてが興味深かった。
海岸公園や居久根(屋敷森)などの樹木では、黒木の枯損が特に目立った。
先に書いた通り、生活再建が優先事項で、そのための復興整備が計画され、進められていた頃。
どれだけ浜や湿地、緑地などの環境を考えることができたか、思い返す。
例えば、防潮堤についての薄ぼんやりした疑問は、既成事実のようにあれよあれよと決まり、進んで行った。
震災から10年。本書で綴られた内容は、地域の生態系はどう変化したろうか。
自然環境の「豊かさ」が回復したかどうかは、単に生きものが増えたかどうかではなく、歴史時間の中で形成された地域独自の生態系にどれだけ戻ったかという尺度で判断されるべきものだ。
本書ではそう述べられている。
東北の沿岸部には「豊かさ」は復活できるのだろうか。あるいは、できたのだろうか。
ニセアカシアが繁茂する仙台沿岸部の新浜地区の貞山運河沿いでの草刈り作業を思い出しながら読み終えた。
2014年、8月の暑い日だった。
すぐそばには、湿地帯が復活し、鳥の声が響いていた場所があった。
今は、どうか。
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