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身近にあった探しもの

僕らは、どこかにほしいものを探しに出かける。色んな場所に出かけたり、新しい方法を試したりして。必死になればなるほど、見つからないことはざらだけれども。皮肉なのか、そういうものなのか、ほしいものほどすごく身近にあることに気づくのだ。

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4月末に後期のクラスが終わると、夏休みがやってきた。林業学校の夏休みは、4月末から8月末まで。夏季クラスはないし、校舎も寮も空っぽだ。クラスメイト達は、既に地元に戻ったり、サマージョブ(夏休みのアルバイト)の職場に移動している。友人のカイル、キーガン、ヤーム、モージャーの仲良し4人組は、バンクーバー近くで仕事を決めたらしく、4ヵ月間一緒に住むらしい。今は車で西側まで数日かけて移動している最中で、Facebookには移動中の写真がアップされている。羨ましいことこの上ない。親友のジムは、植林のアルバイトをするため、地元に戻っている。
カナダでは、夏休みに植林のアルバイト求人が多く出される。森林や林業を勉強している学生だけでなく、多くの人たちが身体を使って森林に触れる森づくりの機会は、日本でももっと取り入れられないだろうか。植林の求人では、夏の間、シェアハウスに皆でワチャワチャしながらの写真が掲載されていて、それを見ると楽しそうだなといつも思う。楽しいだけでなく、木を植えるためにしゃがんだり立ったりを繰り返すので、腰が痛くなったり、フィジカル的に相当しんどいらしい。
他のクラスメイトも、野生動物に関わる仕事ということで、ウナギ漁(America Eel)のアルバイトをするって言ってたな。留学生である僕だけが、一人寮に残っている。好き好んで4ヵ月間寮に残るのではなくて、この夏休み、僕は(夏だけど)クリスマスツリー農園で働くことになったのだ。


僕らの学校では、夏休みにはクラスがない代わりに森林に関わるサマージョブをすることが必須となっている。学期中は忙しくて、「夏休みに入って時間ができれば、仕事なんてすぐに決まるさ」とたかをくくっていた。しかし、ふたを開ければ、何とやら。上手くいかないものだな。もう5月に入っているのに、仕事が決まっていないのは僕だけだ。求人票を見てレジュメを会社に送るを繰り返しているが、一通も返信がない。地元の会社だけでなく、ブリティッシュ・コロンビア州やアルバータ州などの西海岸エリアの会社にも応募してみたが、全然返信がない。(カナダでは、面接がある場合のみ返信があるが、それ以外は基本的に連絡がない)ない、ない、ない。夏休みに仕事することも学校のカリキュラムの一つだから、仕事が決まらなければ卒業が危うくなる。


50通ほどレジュメを送ったところで、4社から返信が来る。その内、2社は不採用の返信で、残りの2社からは面接のお知らせが届く。一社は、測量会社でLIDARを用いて飛行機でデータ収集を行うオペレーターの仕事。もう一社は、地元の森林所有者の森林管理を行う仕事。どちらもGIS(Geographic Information System)関連の仕事で、将来カナダで働くことを考えたら、自分の得意なプログラミング要素が入ったGIS関連の仕事で経験を積めるかもしれないのは有難い。それに英語が第二言語の僕にとっては、他の森林関連の仕事に比べて、GISがメインになる仕事は相性も良さそうな気がする。現代のカナダでの森林管理において、GISの知識と経験はなくてはならないものなのだから、この2社のサマージョブは願ってもないチャンスだとひとり息巻く。
まずは一社目の測量会社の面接だ。ウォルマートで買ったワイシャツにネクタイをギュギュと締めて気合を入れ、タクシーで空港近くにある測量会社の事務所に移動する。僕らの学校の卒業生も面接官として参加してくれて、面接官2人と学校の話しもしながらリラックスした雰囲気の中、面接が進む。
「車運転出来る?」
「時間不規則だけど大丈夫?」
などの質問されたが、仕事を何がなんでもほしい僕は「大丈夫です」と全ての質問に対して力強く頷く。すると、もう1人の面接官から
「数年前にBalsam Fir(もみの木、クリスマスツリー)の森でWitches Broomという病気が広がったんだけど、知ってる?現在の状況と対策をちょっと説明してもらえる」
といきなり質問される。全く知らなかったので、しどろもどろになって「次までには勉強しておきます」とだけ答える。面接が終わり、緊張を引きずりながらも事務所を出て、隣接する空港にタクシーを求めて走り出す。汗びっしょりだ。何とかこの仕事がほしい。サマージョブよ、決まってくれ。

次の日、メールで結果が届く。駄目だった…へこむ。落ち込むな、すぐにもう一社の面接がある。ここでへこたれている場合ではないのだ。次の面接に全てをかけよう。

森林管理会社の面接当日、車がないのでタクシーでインターネットで調べた事務所の場所に移動すると、事務所がない。なんでだ。ネットでは、ここの住所が書いてあったはずなのに。急いで事務所に電話してみると、ネットの住所が古い住所のままになっていて、新しい事務所はなんと学校裏にある施設に移転したとのこと。面接の時間も迫っていて、思わず泣きそうになる。
タクシー運転手のおっちゃんがまだ待っていてくれて、
「あきらめるな。学校まで戻ろう。大丈夫、急げばまだ間に合うから」
と言ってくれる。(カナダにいる間、車は買わなかったのでタクシーをよく使った。タクシー運転手は、優しくフレンドリーな人たちが多かった)
大急ぎで学校まで戻って、タクシーのおっちゃんから
「学校までの戻りの料金は払わなくていいから、面接頑張れよ」
と優しい声援を受け、面接に臨む。ありがとう、ベストを尽くして頑張るよ。何だか力が湧いてくる。面接では遅れたことをまず謝り、自分のできることをアピールし、この夏はここで仕事がしたいことを下手ながらも懸命に伝える。面接は40分ほどで終わり、ドタバタした一日だったけど、やることやったぞと満足感に浸る。今度こそ、仕事が決まってほしい。

2日後、結果が届く。駄目だった…夜が明けない。

既に5月も半ばにさしかかり、仕事がない宙ぶらりんの状態が続いている。部屋にこもりっぱなしでメールをチェックするが、応募の返信はゼロ。最終手段で、環境系NGOがインターンのような形で学生を募集している夏のプログラムがあり、コンタクトをとってみる。プログラムの内容も、植林と苗木の栽培と悪くはなさそうだ。ただ、このプログラムに参加するには費用が掛かかり、宿泊や食費も含めて20万円ぐらい支払わなければならない。お金をもらうどころか支払うのか。だけど、背に腹は代えられない。仕事がなければ、卒業ができないのだ。
手続きを進めて、後はお金を振り込むだけという段階になって、ふと思い出す。2月ぐらいに元学長のジェリーと廊下で会った時、「サマージョブ探してる?うちのクリスマスツリーの農園でも今年の夏にアルバイト募集しているから、もし興味あったら連絡してくれよ」と言っていたのだ。だいぶ時間がたっているけど、まだ大丈夫だろうか。ダメもとでいいからジェリーに電話をかけてみよう。
「まだアルバイトって募集してる?」
「募集してるよ。6月初めぐらいから働ける?」
「農園かなり広いからATV(All Terrain Vehicle、四輪バギー)乗れる?」
「クリスマスツリーの手入れで、チェンソー使う機会もあるけど、資格持ってる?」
と矢継ぎ早に質問が飛んでくる。幸いにも日本で自伐型林業のワークショップを受講した際にチェンソーの資格を取っていたし、大丈夫だろう。僕らの学校で、5月末に外部向けのATV資格講習があるはずだし、6月初めにチェンソーの講座もあったな。何とかいけそうだ。ジェリーには、両方とも大丈夫そうだからと状況を伝えると6月の2週目からよろしくねと言ってくれる。
電話を切ると、ほっとして、嬉しくてたまらない。灯台下暗し。探していたものが、こんなに近くにあったとは。だいぶ遅れたけど、ようやく夏が始まりそうだ。

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