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加藤恵一先生「不妊治療に対する社会の認識が変わってきた今、新しいステージへ」【情熱大陸出演】

「健康」編集部が注目のドクターにお話を聞くドクター名鑑シリーズ。

今回は、8月11日放送の「情熱大陸」に出演した加藤レディスクリニック 加藤恵一院長のインタビューをお届けします。
排卵誘発剤を極力使わない「自然・低刺激周期」の体外受精など、これまでの常識をくつがえす不妊治療にとり組んできた加藤レディスクリニック。
開設から30年をへて、社会の認識が変わってきた今、新しいステージへと向かいます。

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【プロフィール】加藤恵一(かとう・けいいち)先生

2000年金沢大学医学部卒業。同大学医学部産科婦人科学教室入局。国立金病院、国立病院東京災害医療センター、NewHope Fertility Center(米国・ニューヨーク)勤務をへて、07年より加藤レディスクリニック勤務。診療部長をへて、13 年院長に就任。それぞれの患者の状態にこまかく目を配り対応しながら、一貫した治療方針で日々診療にあたる。

本来備わった妊娠する力、それをサポートするのが不妊治療

加藤レディスクリニックで行う自然・低刺激周期の体外受精は、自分自身がもともと持っている「妊娠する力」を手助けするものです。その人ごとのリズムで起こる排卵を大事にして、必要最小限の医療のサポートで妊娠をめざします。

妊娠のメカニズムは複雑で、一般的な不妊検査だけでは、妊娠しない原因を解明することは困難です。
ちゃんと排卵があって、精子の状態もよく、卵管にも問題がないのに、何度かタイミングをはかってみても妊娠しない。そんなときは、検査ではわからない不妊原因がひそんでいるのかもしれません。

たとえば、「ピックアップ障害」の可能性も考えられます。ピックアップ障害とは、排卵した卵子が卵管の先(卵管采)にうまくとり込まれない状態で、これを調べる検査は今のところありません。
この場合、精子と卵子が出会えないのが不妊原因ですから、精子と卵子を体外で出会わせる体外受精が適切な治療といえます。

このときに「必要以上に外部から手を加えない」のが加藤レディスクリニックの治療方針です。

強い排卵誘発剤を使って多数の卵子を育てるのではなく、自分のリズムに応じて育った排卵直前の卵子を採卵すること。精子と卵子に受精する力があるならば、1つの精子を卵子に注入する顕微授精ではなく、卵子の入った容器に多数の精子を入れて自然の受精を待つ体外受精をすること。
そうしてできた受精卵を1 個だけ子宮に戻すこと。

このようにできるだけ自然の妊娠に近い状態で、最小限の医療の補助をするのが特長です。また、体外受精を第一選択とすることは、タイミング法や人工授精を繰り返すステップアップ治療で時間を費やすのを防ぎ、妊娠への近道となります。

2022年4月から、不妊治療に健康保険が適用されるようになりました。これまでは、体外受精や顕微授精などの高度治療は全額自費負担でしたので、特に年齢が若い世代で、受診をためらっていたご夫婦も多かったでしょう。
保険が適用されると、助成金のときには必要だった一時的な持ち出しも不要ですから、高度治療に踏み切るハードルは下がったと言えます。

また、今回の制度では、治療開始にあたって、必ず夫婦同席で、治療内容を確認し、同意することが求められるようになりました。夫もきちんと治療に関わるように促すという意味でも、よい制度だと思います。

保険診療では、使える薬や超音波検査の回数などに一部制限がありますが、当院では、従来から薬剤や検査は最小限にしていましたので、保険診療になったからといって、大きな問題はありません。

これから初めて体外受精を考えるというご夫婦なら、まずは保険診療で治療をスタートすることをおすすめします。

この保険適用をきっかけに、不妊の当事者だけでなく、周囲の一般の人たちが、体外受精などの不妊治療に関する情報や知識にふれる機会がふえたのも、メリットのひとつと考えます。企業や雇用主が患者さんの仕事との両立に配慮するなど、治療に対する社会の認知や許容が、さらに広がっていくことを期待しています。

「不妊治療とはひかれ合った者同士の遺伝子を次の時代に継ぐこと」

「不妊治療とは、ひかれ合った者同士の遺伝子を次の時代に継ぐこと」。父である前院長は、そう話していました。説明会で講演を聞いた参加者の方が目頭を押さえる姿を、私も何度も目にしています。

「愛した人との子を持ちたい」というご夫婦の思いをかなえたい、そのために医療者としてできることを全力で支援する、という姿勢は、前院長から受け継いだことです。

できるだけ自然な方法で精子と卵子の出会いを助けるのが自然周期の体外受精ですが、なかでも前院長がめざしたのが、まったく薬を使わない「完全自然周期」を拡大すること。それを熱く語る前院長は、いわばロマンチストでした。

加藤修前院長。これまでになかった独自の治療方 針やそこに至る思いについては、著書『不妊治療は つらくない』(主婦の友社)にくわしい。

「不妊治療とはひかれ合った者同士の遺伝子を次の時代に継ぐこと」
前院長である故・加藤修の言葉。1990年に国内初の不妊治療専門施設・永遠幸(とわこう)マタニティクリニック(石川県小松市)、93年に加藤レディスクリニック(東京都新宿区)を開設。これまでの不妊治療に疑問を投げかけ、自然周期による体外受精など、独自の考え方で治療にとり組んできた。その治療法や技術は他施設にも広がり、日本の不妊治療を変革した。

夫婦の希望をかなえたい。
その思いで治療にあたる

一方、私はどちらかといえば、現実を重視するリアリストです。
生殖医療関係者から見向きもされなかった完全自然周期の体外受精を提唱し続け、みずからの理想を現実にした功績は大きいと思います。しかし、結婚年齢や出産年齢が上昇する現代、現実的にむずかしい面も出てきました。

もちろん、自然周期の体外受精ができればそれに越したことはありませんが、それだけを追い求めることはあまり現実的ではないと考えています。
年齢が高くなることがおもな要因で、採卵しても卵子がとれない、また、採卵前に排卵してしまったなどは、完全自然周期の治療では避けられないリスクです。

そうした点から現在、完全自然周期の体外受精は、女性の年齢が若く、月経周期が順調で、大きな不妊原因がない場合を基本に実施しています。つまり、比較的時間に余裕がある方向けの治療といえます。

患者さんは早期の妊娠を望み、1 周期もムダにしたくないと考えていらっしゃるでしょう。それに応えるためにも、自然周期にこだわりすぎず、飲み薬のクロミッド(クロミフェン製剤)やレトロゾールを使った低刺激の体外受精を行い、柔軟に対応しています。

不妊治療はつらいもの。
だからこそ負担を軽減したい

治療による肉体的な負担や経済的な負担、そして通院にかかる時間など、不妊治療にはさまざまな困難が付随します。「なかなか妊娠しない」というあせりや仕事との両立、また、周囲の声が気になることもあるでしょう。

不妊治療を続けるうちに、つらい気持ちになるのは当然のことです。ただ、それを「苦しい」と思うのか、「赤ちゃんをこの手に抱くために乗り越えよう」と考えるのかは、人によって、またそのときの状況によって違うのではないでしょうか。

不妊治療がほかの病気の治療と大きく異なる点が、「健康な人が治療を受ける」ということ。これから妊娠・出産をしようとする方ですから、基本的には皆さん、健康な状態です。そうした方が不妊治療によって健康を害することがないように、細心の注意を払って診療にあたっています。

カップルで治療する時代。
その後の人生も大切に考えて

当院ではWEBでの説明会を行っていますが、男性の参加が年々ふえています。初診が土・日曜日にあたる場合は、ご夫婦で来院される方が多く、また、最近は男性が先に不妊検査を受けるというケースも見受けられます。

「治療は夫婦ふたりで」という意識が浸透してきたのは、喜ばしいことです。
最近、男性不妊がクローズアップされていますが、WHO(世界保健機関)の報告によれば、不妊の原因の割合は男女半々です。昔からその割合は変わらないと考えられ、検査や治療をする機会がふえたので、男性不妊が判明するようになったといえます。かつては自分の遺伝子を持つ子どもはあきらめるしかなかったケースでも、現在は治療できる場合があります。ぜひ、一度ご相談ください。

最近は、基礎体温や排卵検査薬を使ってご自身でタイミングをはかる方が多いようです。「いつかは妊娠できるはず」と漫然と考えていては、妊娠のチャンスをのがしかねませんから、自分たちができることにとり組むという積極的な行動は素晴らしいことです。

それでも妊娠しないときには、次の段階として医療の手を借りることを考えてみてください。

また、現在治療中の方には、妊娠が最終目的にならないように、今までとこれからの人生を大事にしていただきたいと思います。

貴重な時間やお金を費やす不妊治療ですが、残念ながら子どもを授からないこともあります。ご夫婦でよく話し合いながら、「やるだけやった」と納得できる治療になることを願っています。
私たちは、それを全力でサポートします。


体外受精・不妊治療専門クリニック加藤レディスクリニック監修
『KLCメソッド入門 心と体にやさしい不妊治療』

累積出生児数は6万人以上、日本トップの治療件数実績を誇り、妊娠をめざす女性の「最後の砦」と呼ばれる東京都新宿区にある加藤レディスクリニック”KLC”。
KLCメソッドは「自然周期・低刺激周期治療」。排卵誘発剤の使用をかぎりなく減らし、排卵される1個の卵を大事に。赤ちゃんをはぐくむ体である母体を大切に治療が進められています。そんな加藤レディスクリニックのすべてがつまった1冊です。【購入する】

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