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【1月号】ぼくの本棚

 本が好きである。ジャンルを問わず、1年間にだいたい200冊程度。いつもはインスタグラムで紹介しているが、ちょくちょく友達からオススメ本を教えてほしいと言われる。その人の読む傾向によってオススメする本は大きく変わってくるから難しいのだけど。

 ただそうは言っても知りたいと聞かれて、何も答えないのもなんだか寂しい。だから月ごとに自分が読んで、特にこれは読んでほしいなと思うものを紹介していこうと思う。紹介する本は3冊、順位はつけない。どれも比較にならずオススメだよ。

ー【1月号】の目録はこちら ー
・詩と出会う詩と生きる(若松英輔)
・暮らしのつなぎ方(内田彩乃)
・小林秀雄 美しい花(若松英輔)
・言葉にできるは武器になる(梅田悟司)
・貨幣の新世界史(カビール・セガール)
・ファウスト 第一部(ゲーテ)
・POPEYE 部屋とシティーボーイ(マガジンハウス)
・&Interior 暮らしを整える(マガジンハウスムック)
・世界の中にありながら世界に属さない(吉福伸逸)
・思えば、孤独は美しい。(糸井重里)
・千年後の百人一首(最果タヒ 清川あさみ)
・文字逍遥(白川静)
・星空の谷川俊太郎質問箱(谷川俊太郎)


1.小林秀雄 美しい花(若松英輔著 / 文藝春秋)

記念すべき最初の1冊目は、『小林秀雄 美しい花』である。批評家の若松英輔さんの本がとても好きで、今回の本は600ページの大著ながら、どうしても残しておきたい。

ここで書かれる「小林秀雄」という人も、批評家だ。批評というと批判と混同して、どこか悪くものをいうことだと勘違いされやすい。

ただ批評は全く意味が違う。

小林にとって批評とは、読み、書くことによって論じる相手の生涯を生き直してみようとすることだった(p11)

論じる対象自身よりもその人の心に近づこうとすること、こうした一見不可能な試みに身を投じること(p27)

それがはじめにあり、全てだった。

自分が、一番自分のことをわかるというのも、はっきりとは言えない。わからない自分というのをわかろうとし続けることが生きることかもしれない。

そうしたとき、わかろうとし続ける人が他者だとしても不思議はない。その言葉に、なんだかグッと惹きつけられる自分がいた。

小林秀雄をわからないという人も、この本から読んでみてもいいかもしれない。繋がる人が、本が、次の読書を刺激してくれる。

2.千年後の百人一首(最果タヒ著 清川あさみ絵 / リトルモア)

「百人一首」といえば、小学生の頃、ひたすら覚えて、百人一首大会で取り合ったのを覚えている。あの時は、ただただ覚えるだけのもので、意味もなにもよく考えていなかった。

ただ文章の仕事に接するようになって、言葉をよく見るようになってみると、改めて知りたくなったのだ。千年も昔の人が感ずることと、そこから生み出される言葉を。

そんな時にフラフラと、栄の丸善書店を巡っていたときに目についた本がある。『千年後の百人一首』は、詩人最果タヒさんが、百人一首のそれぞれに詩をつけていく。それは解説、とも違う。

言い表してはいるけども、そこに寄り添うように、見開きでみると全く新しい文章に感じる。あわせて清川あさみさんが絵を描いている。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の大型本のイラストでよく書店では見ていた人だ。幻想的で、美しいイラストはそれぞれの歌を、より引き立て色づける。

「百人一首」のできた千年後に、2人が新たな命を吹きこんだ、今しか読めない一冊となった。何度もパラパラと読み返したい。

3.文字逍遥(白川静著 / 平凡社ライブラリー)

『文字逍遥』とは、文字論を軽やかに飛び回るような、そんなイメージだ。僕らは日本語を学びながら、知らないことが多すぎる。それを文字の始まりから、歴史を辿り、宗教や精神と生活に寄り添ってつくられた漢字を眺めていく。

僕は特に、日本の戦後教育から漢字の教えを薄めてしまったことに興味を持った。

いまのわが国の国語政策では、われわれは「思ふ」こと以外には、「念ふ」ことも「想ふ」ことも「懐ふ」ことも「憶ふ」ことも、みな制限されている。しかも念願、想像、懐古、追憶することは許されているのである。しかしすでに訓読みを失ったこれらの字を、学習者はどのようにして理解することができるというのであろうか。(p205)

「おもう」といえば、僕らは"思"や"想"くらいしか使うことがない。ようやく、最近"念"という言葉も「念う」と知ったくらいだ。

日本人はかつて、訓読みの一つから数多くの繊細な感情を表現した。その表現力は漢字を制限され、失われていくかもしれない。

若松英輔さんの著書でも書いてあった。「かつて古の歌人は"かなし"を"悲し"や"哀し"だけでなく、"愛し"や"美し"とまた"かなし"とよんだ」と。

歌をよむという、この"よむ"も、字面を追う"読む"や歌をつくる"詠む"、声に出して"誦む"がある。それぞれの細かい表現にも漢字をあてたかつての日本人のことを、この本からより深く知りたくなった。

僕らは日本という国について、どこか自信をもてていない。海外の人が日本を愛せていないことに対して本を出版するぐらいだ。それは、一つ「知らないから」ということがあるかもしれない。知れば知るほど、日本というのは良い意味でおかしくて、面白い。それをこの本は教えてくれる。

◇◇◇

『【1月号】ぼくの本棚』はこの3冊。無意識に選んでいたけど、3冊を並べてみると、「どこか過去のものをすくい上げる」ようなテーマになった。

来月【2月号】は何を選ぶのか、またじっくりと感じ考えたい。

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