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私的詩手帳

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2021年5月の記事一覧

清濁

清濁

清濁併せ呑んだら
それは清濁分かちがたく
ていうかもう濁ってるって
ことにならないですか

飲み干した清濁を
胃袋でこねくり回して
腹をこわしては
トイレにかけこむ

清濁の中で呼吸して
清濁にまみれまみれて
いつの間にか併せ呑まれて
清と濁のはざまできりきりまい

みんな清濁併せ呑み
等しく濁って生きている
みんな清濁のまま吐けないのは
吐くのも気持ち悪いからです

清濁を清濁のまま吐ける人

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アナログ細胞

心の奥のほうの
てざわり しっとり
二の腕みたく
ずっと ぎゅっと もんでいたい
あまりに人なつっこすぎる
親密な気持ちのこんがらがり
そのまんまるいまんなかに
ひっそりアナログ細胞

茶匙いっぱいのゆううつを
はぐらかし たぶらかし
指先のささくれみたく
はっと ふと 気になって
ささいなひっかかりの
導く裏口の突破口
心と身体のさかいめで
うごめくアナログ細胞

身体のいつくしみを
くりかえす

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鮭とばとバラ肉の日々

なにもないけど憂鬱な日には
きつい日本酒をのみながら
鮭とばをもそもそと味わう

なにもないけどいい日には
安いチューハイをのみながら
焼いた豚バラ肉をもりもりとめしあがる

なにもないけどなにもない日には
ビールをのみながら
ビーフジャーキーをじわじわかみしめる

なにもないけどなにもしたくない日には
白ワインをのみながら
かっぱえびせんを口の中でおどらせる

なにもないけど
酒かっくらいなが

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ヒーローじゃないから

男の子はだいたい
だれかを みんなを守る
ヒーローになりたいと思ってる
ぼくだってそう
でも それがただの自己満足なのは
みんなどこかで気づいてる
悪の組織も 侵略する帝国も
脅かされる市民も 助けられる女の子も
ヒーローのためにあるわけじゃない
それに女の子だってみんな
ヒーローに守られたいわけじゃない

なんのためにヒーローになるのか
かっこいいから モテたいから
役に立ちたいから 男ならなる

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サビオの下と むらさきの残像と

好きな子の名前を
手の甲にマジックで書いて
サビオを貼って隠したら
いつか恋はかなうはずだった

「むらさき色のかがみ」を
二十歳になるまで覚えてると
絶対に死んでしまう
そんな恐怖を大事に抱えてた

サビオのことを内地ふうに
「絆創膏」と呼ぶようになっても
むらさき色のかがみの話を
二十歳をすぎてふと思い出したり

そんなことを懐かしんで
笑ってるぼくらは
あのころのぼくらを
しらずしらずに突き

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午後十一時の魔境

子供のころは
特別なことがないかぎり
夜十一時まで起きてると
紫色に光る細い線をまたいで
ひとり魔境に踏み込んだような
心細さを味わった

昼間と違う神妙な顔のテレビは
今日あったことを語りだす
店々は非常口の緑の光で寝息をたて
孤独な街灯たちが
人が寝静まるのを待ちわびて
ささやきあうのが聞こえてきそう

昼間見えてたものが
透き通った闇の布で静かに沈められ
光の下では見えなかったものが
しっと

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どろ

いつまで泥遊びをしてるんだおまえは
みんな手を洗って教室にいるんだ早くしろ
そんなことを言われつづけて 気づけば
できもしないストイシズムに飛びこんで
ルーティンを自らに強迫しつづけて
あるべき自分もかくある自分も
まるで てんで とらえられないまま
もう泥遊びしたいわけじゃないのに
わたくしという泥をかき分ける泥沼の日々
確かなのは重く重苦しい今の自分だけ
見えるのは狭窄したトンネルビジョンだけ

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上り坂をみると切なくなるのは

上り坂をみると切なくなるのは

上り坂を見ると
上り坂を上ると
すごく切なくなるのです
どこか懐かしいような
まだ見たこともないような
そういったあいまいなものを
目隠ししてなでているようで
不思議であたたかくて
不安なてざわりを
感じてしまうのです

飛び立つような傾斜の地面
自分の影を引きずるように
後ろ髪を引っぱるように
地面とわたしのあいだを結ぶ
いびつな万有引力
筋肉はささやくように
わたしの中で衣擦れをたてながら

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B面の日々

小学生の何ヶ月か分のこづかいをためて買った
黒く小さなポータブルプレイヤーで
すり切れると思うほど聴いたはじめてのCDは
縦長ジャケットの8センチ
律儀にジャケットを半分に折って枕元に置いて
B面は聴かずに一曲めだけリピートしてたっけ

初めての部活の遠征に持ってったCDプレイヤー
マイクロバスの揺れに音飛びまた音飛び
試合に向けて聴くお気に入りのアルバムも
あのシングル曲をずっとリピートしてしま

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止まり木の嵐

止まり木の嵐

ぼくは止まり木から落ちた
君は飛びたった
それだけのことさ
ぼくのことは忘れて
そのまま飛んでいってくれ

ぼくをぼくから解き放つ
君が君を脱ぎ捨てる
この小さな止まり木の上で
何者でもない二人になれた気がした
君は知らない国の言葉をささやき
ぼくは遠い世界の歌を謡った
飴色の陽を溶かしこんだカーテンの中
何をするでもない逢い引き
互いの羽をつくろいながら
昨日と今日と明日を一緒くたに
こねくり回

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エナメル

エナメル

ていねいに琺瑯びきされた
あのころのこわばった感情を
わけもなくひっぱりだしては
そんなことしなくても
いいはずなのに
ひとり泣く日々です

かたくつややかな光沢に
つつまれたそれは
痛々しさも生々しさをたたえたまま
なかなかひしゃげたり
ひび割れたりしないのです
大事にしたいわけでもないのに
ずっと棚の目立つところに
置いてしまうのです

思い出すのもつらい感情の記憶も
わたしの一部になりはてま

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びびりをせんとや生まれけむ

やる理由はスルーするくせに
やらない理由は二秒で見つけるいくつでも
確たる意志もないのに動きたくなさが
かたい石のように足腰をかためてしまうのです
石の上にも三年とはいうけれど
わたし自身がもう石です

やる気がないんじゃないんです
失敗したらどうしようどうしようもない
そんな不安と出不精が
うっかりはちあわせた結果です
予期せぬものぐさ太郎の印籠ひかえおろう
自家薬籠中の化学反応なら
自家中毒の

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girl

ぼくがこの世界に落ちてきたときには
ぼくは半分こでしかなく
この世界にはあらかじめ どこかに
ぼくのかたわれが用意されている
もしそれが本当なら そのかたわれは
ぼくなんかといっしょにならなくていい
そう思ってぼくは書く
まだ見ぬ 顔すらわからないあの子のために
世界一なさけないラブソングを
宇宙一はずかしいラブレターを
キモいかもしれないけど
たとい人の抱くすべての望みが
キモいものであろうと

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続ける

一瞬と一瞬をとぎれなくつないで
あの日々とまだ見ぬ日々を
見えないくらい遠いかなたを結ぶ
そんなありふれた行為のなかでめばえる希望
はじめは豆粒くらいのサイズなのに
感情の何もかもをも吸いこんで
六畳一間のハートをいっぱいに満たす
その圧力にきりきりまいしながら
不思議な力に背中を押され
右手を引っぱられ
今のこのいとおしさ やさしさが
熱を失って消えないうちにと
左腕と頬でやんわり ぎゅっと抱き

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