サビオの下と むらさきの残像と

好きな子の名前を
手の甲にマジックで書いて
サビオを貼って隠したら
いつか恋はかなうはずだった

「むらさき色のかがみ」を
二十歳になるまで覚えてると
絶対に死んでしまう
そんな恐怖を大事に抱えてた

サビオのことを内地ふうに
「絆創膏」と呼ぶようになっても
むらさき色のかがみの話を
二十歳をすぎてふと思い出したり

そんなことを懐かしんで
笑ってるぼくらは
あのころのぼくらを
しらずしらずに突き放してる

あのころのぼくらは
すきかきらいかフツーの三つだけ
そしてみんな だれかの
「すき」に入ろうと汗と涙を流した

あのころのぼくらは
同類項に入れるかで
なにかが違っていった
だれの同類項にもなれないという怖さ

サビオに名前を隠したあの子から
嫌われたことで
親のいないすきに
枕を涙と鼻水まみれにした

むらさき色のかがみを
怖がってるのをばかにされ
享年二十歳とか
そんな渾名をつけられた

おまえらも嫌われるのが
怖かったくせに
おまえらもむらさき色のかがみが
怖かったくせに

みんな忘れてく
怖かったものなんて
悲しみだって痛みだって
あいつも ぼくだったあんたも

そんなことがあったことすら
かってにうやむやにして
思い出のおいしくて
やわらかいとこだけ持っていくなんて

サビオの下に隠されて
むらさき色の残像だけ残って
おいてけぼりにされた
幼い痛みの記憶

懐かしさの中からたちあがって
いたたまれない ひりひりした
言葉と感触のはざまのような跡を
なぞってゆく

サビオに名前を隠したあの子だけが
女の子じゃない
むらさき色のかがみを覚えてても
絶対に死なないから安心して

そんなことを言っても
ぼくのなかに残されたぼくは
聞く耳を
持たないだろうな

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