B面の日々

小学生の何ヶ月か分のこづかいをためて買った
黒く小さなポータブルプレイヤーで
すり切れると思うほど聴いたはじめてのCDは
縦長ジャケットの8センチ
律儀にジャケットを半分に折って枕元に置いて
B面は聴かずに一曲めだけリピートしてたっけ

初めての部活の遠征に持ってったCDプレイヤー
マイクロバスの揺れに音飛びまた音飛び
試合に向けて聴くお気に入りのアルバムも
あのシングル曲をずっとリピートしてしまう
B面なんてかえりみることもなく

新品のMDで録音してヘビロテしたアルバム
高校にいるあいだ知らないままだったけど
幕の内弁当みたいなアルバムとは思ってたけど
あれはB面集だったんだって
あとであの子から聞いてびっくりしたよ

同じ大学に進んだあの子からいきなり
聴いてほしいから貸してあげると
渡されたマキシシングル
でも好きになったのはB面集にもまだ入らない
カップリングの歌と そしてあの子だった

なにも二人でいっしょに
就職に失敗することないのに
同じ部屋からそれぞれのバイト先に行くぼくら
別々の時間に B面集をBGMに出勤する
たまに暇があると 二人であのシングルを
カップリングから再生してソファでまどろむ

ずっとB面のまま
メジャーデビューもできないままで
このままでいくのかな
アルバムの隠しトラックまでの長い無音みたく
待ちわびるように 身構えるように
ぼくら生きるしかないのかな
沈黙のように重い不安に背中くっつけあって
一人同士で聴いてたのはやっぱりB面集だった

ぼくらが別々の一人ずつになるはずの日
部屋の片付けでふいに見つけた
ぼくのはじめての8センチシングル
すり切れないはずのCDなのに
もう1曲めは再生できなくて
B面しか聴けないや

たどたどしい荷づくりの手をとめて
なじみのないカップリングを聴きはじめたら
気づかぬうちにぼくら二人とも
ぽろぽろ涙を流してた
何回かしか聴いたことのないB面には
不思議といまの気持ちがつまってて
へたったラジカセでリピート再生したまま
とぎれとぎれの愛の歌を聴きながら
ぼくらは苦労して梱包した荷物を
何も言わずにほどいていった

それは
ぼくらのB面の日々を
ほりかえすように

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