どろ

いつまで泥遊びをしてるんだおまえは
みんな手を洗って教室にいるんだ早くしろ
そんなことを言われつづけて 気づけば
できもしないストイシズムに飛びこんで
ルーティンを自らに強迫しつづけて
あるべき自分もかくある自分も
まるで てんで とらえられないまま
もう泥遊びしたいわけじゃないのに
わたくしという泥をかき分ける泥沼の日々
確かなのは重く重苦しい今の自分だけ
見えるのは狭窄したトンネルビジョンだけ
期待に応え全力で100%やりきるだけ
それができたことがない以上成果は0%
隣の芝生は青く見えるというが
隣の芝生まで何マイル
泥濘のさなかにいるのはわかっていても
できやしないストイシズムに拘泥されて
見えやしない彼方の青い芝生へ泥を漕ぐ日々

根拠レスすぎる自信を右手に
根拠ありあまる自虐を左手に
両の手で描く出鱈目で曖昧なドローイング
自分というものがいまだによく見えなくて
想像といびつな自覚で描く自画像はグロテスク
見かねた先生は言いました
必要なのは自信と自虐のペンでも
手先の器用さでも小手先の技術でもなく
あなたの眼にあった眼鏡と
あなた自身をうつす手鏡です
そんなアドバイスをもとに描いた
自分的に正確な自分の姿は でも
パステルカラーのぼやけた点描
先生 あとは何が足りないですか

自分対自分 時間無制限1本勝負の結果は
いつだって両者リングアウト
泥沼の泥仕合にすらならないドロー
どんなに泥を漕いでも自画像を書いても
けっきょく自分と向き合う度胸と
自分と自分とで折り合いをつける冷静さ
その両輪が最後に必要
先生はそんなことを言ったけれど
向き合う自分に頭ごなしだめ出し目をそらし
他方自分を甘やかすなあなあさで折り合わず
フィフティフィフティとんとんの行って来い
もってけ泥棒売るほどある自意識過剰さが
飴とムチで自分を自分で軟禁するのです

せめてどこかのこそ泥が過剰な自意識を
ひとつ残らずぜんぶ持ってって
ついでに泥のなかから自分を
連れ出してくれたら
それともいっそ誰かを引きずり込もうか
泥のなかで踊ろうか だなんて
まあそんな幻想なんて抱いてたら
底なし沼にどろどろとドローされちゃうし
泥船を夢見ることなく
泥を漕ぐしかないんですけどね

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