ヒーローじゃないから

男の子はだいたい
だれかを　みんなを守る
ヒーローになりたいと思ってる
ぼくだってそう
でも　それがただの自己満足なのは
みんなどこかで気づいてる
悪の組織も　侵略する帝国も
脅かされる市民も　助けられる女の子も
ヒーローのためにあるわけじゃない
それに女の子だってみんな
ヒーローに守られたいわけじゃない

なんのためにヒーローになるのか
かっこいいから　モテたいから
役に立ちたいから　男ならなるべきだから
困ってる人をほうっておけないから
でも　みんかヒーローに
なれるとは限らない
それに　ヒーローがつねに
ありがたられるとは限らない

そのうち　もう一度の気づき
ぼくらはヒーローになんかなれない
ヒーローになるのに障害になるのは
ステロタイプな悪なんかじゃなく
ごくありふれた運の悪さと間の悪さ
名前のない意思と道具で
いつの間にかならされてしまった地平で
独りよがりの英雄的行為など
もういらない時代に生まれてしまい
ヒーローどころか他人にも頼るなと
誰にも助けられずに生きるしかない

そうして
強い者はヒーローなど目指さずに
とにかく今立っている場所から
ひたすら突き落とされないように
現実のきびしさを盾に
高い塔にたてこもる
そうでない者たちは
生まれもった無能と愚鈍をやりくりして
時代の流れに飲まれた人々を
どうしようもならない
見なかったことにしよう
ほら見たことか弱いやつは
必死にしがみつきなからやりすごす

とはいえ
どうせ運さ　我らは何にもなれない
強さだけが必要だ　と
リアリストやニヒリストを気取って
できることすらせずにいるのも
ぼくはがまんできないんだ
できるのは小さな問いを
子供の壁打ちみたく
世界に投げつづけることくらいだけど

ヒーローでもないのに
無駄にあきらめが悪いから
自分以外のだれかをたすけるには
どうすればいい　なにをすればいい
一騎当千のスーパーパワーもないのに
暇を見ては問うて悩んで
はたから見たら無駄な抵抗を
おつりの小銭を貯金箱に貯めるみたく
細々とつづける日々

何の助けもなく　困りごとの領域に
放りこまれることもあるのに
そんななかでも
とりあえず自分を救おうとするとき
同じように放り投げられた人の手を
探って探りあててひっぱって
なんとかできないか
だって人を救えるのは
ヒーローだけじゃない
ていうかヒーローだって人じゃないか
そんなちっぽけな善意と意地
たいがいなやせ我慢をかかえ
そんな状況で少しでも
勇気が出せるかどうか
身構える　身構えつづける

別に何のためじゃない
ヒーローなんて信じてない
ヒーローになろうなんて考えてない
女の子に　だれかに　いいところを
見せたいわけじゃない
そんな意地をはらなきゃ
人でなくなってしまう気がするから

ヒーローの乱暴さや
ニヒリストの諦念や
リアリストの冷酷へ
落ちそうになる自分と
隙あらば牙むく世界に
ぼくはそうやって抗ってるんだ

ヒーローじゃないけど
ぼくはあきらめない
ヒーローじゃないから
ぼくはあきらめきれない
ぼくが伸ばした手がつかんだ手の
この先で
別のだれかの手が
救われることを夢みて