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(新刊)考える経営学

有斐閣ストゥディア社の新刊『考える経営学』。

  前半で経営学や経営戦略論の基本的なフレームワークを「図」ではなく「ストーリー」で解り易く解説した後、後半ではマネジメントやリーダーシップ、組織変革など、人と組織にフォーカスして、組織心理学、組織行動論、人的資源管理論などのセオリーが簡単な例をもとに記されています。

  第9章「よい出会いをどうデザインするか 〜採用と心理的契約」(服部泰宏氏著)では、人材採用に関する“考え方”と“実務”の大切な要点が記されています。
特に大切な点は、企業と従業員(求職者)の心理的契約のあり方の変化です。
すなわち、「雇用の保証」と「異動・転勤命令への服従」といった従来の最大公約数的な契約条件が、今後は個人が抱える様々な制約や希望に応じて多様化していくということです。

  様々なライフイベントに伴う労働時間の制約のほか、地理的条件や個人のキャリアプラン、時に宗教上の生活習慣など様々な事情を抱える従業員(求職者)に対し、「何を実現してもらい、何を提供するか」という契約条件を明確にできなければ、優秀な人材から選ばれる企業にはなり得ません。
  そして、採用時点での契約が相互にきちんと履行されているかどうかを確認しあう作業は優秀社員を繋ぎ留める上で不可欠な「メンテナンス」であり、それは一方的に評価点を伝える旧来型のフィードバックとは別物です。

  本章1項のタイトルは「ともにものごとを成し遂げる仲間を探す」。これこそが人材採用の意義を最も端的に表す言葉ですが、その作業の半分は「自社が提供できる価値は何か」を探し、創り、伝えることであることを忘れてはなりません。

  また、企業とヒトとを結び付ける人材紹介コンサルタントが行なうマッチングも同様に高度で個別性の高いものになっていきます。単なる業界や職種の知識をもとにした旧来の機械的なマッチングから、まさに本書の視覚である経営戦略論や組織心理学など幅広い学術知識に立脚した高度な知的作業へと進化させなければ、“ワンクリックで転職”という価値観のもとに駆逐されてしまうことは避けようがありません。


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