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【100社以上支援したコンサル集団が語る】スタートアップ人事制度設計マニュアル-等級制度編-

今回より、複数回にわたって人事制度の設計に関する基本事項やポイントなどをまとめてご紹介していきます。まずは人事制度の骨格となる「等級制度」のご紹介です。

等級制度の概要やどのように等級制度を作成・検討していくかご説明いたします。

<人事基幹制度>

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他記事については以下よりご覧頂けます⇩

①スタートアップ人事制度設計マニュアル-全体像編-
②スタートアップ人事制度設計マニュアル-等級制度編-
③スタートアップ人事制度設計マニュアル-目標管理編-
④スタートアップ人事制度設計マニュアル-評価制度編-
⑤スタートアップ人事制度設計マニュアル-報酬制度編-

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1.人事制度の情報収集に関する注意事項

この記事をご覧いただいている方の中には、これから人事制度の具体的な検討を行っていくタイミングの方、今後検討することになるので事前の情報収集を行っているといった方がいらっしゃるかもしれません。

なので、いきなり人事制度に関する内容に触れる前にこういった情報収集におけるポイントにも少し触れておきたいと思います。

人事制度に関する情報は、調べると無数に出てくるため、何を参考にしたらよいのか、どれが正しい情報なのかが、わかりにくいと思います。

人事の領域は正解がないため、情報元によって内容や解釈にかなり差があります。
多くの情報に触れておくことは重要ですが、情報インプットする際には、以下のポイントを意識して内容を確認するとよいと思います。

①言葉の定義を確認する
人事制度といっても、人事基幹制度とよばれる(等級・評価・報酬)を指している場合もあれば、その他の福利厚生(Benefit)まで含めて指している場合もあります、

また、評価と報酬を混同しながら、人事制度のくくりで説明している場合もあります。
こういった定義が異なる情報を複数インプットしているとだんだん、全体像がつかみにくくなり、何が正しい說明なのかがわかりにくくなります。

なので、ここでいう●●はなにを指しているのかを意識してインプットすることが大切です。

②背景まで考える
なぜ、この制度になったのか、またはなぜこのワードを最近よく目にするのか。

他社事例を踏まえ、人事に関する意思決定する際には必ずその会社の事情(または社会的背景)が存在します。

その事情(その制度になっている理由)を理解しないまま、よさそうだから、話題だからといった理由でインプットした情報を活用しようとすると自社の事情にあわずうまくいかないという結果になることがあります。

なので、なぜこういう制度なのだろうかという企業側の背景を推察したり、ヒアリングする機会をつくって確認することが重要です。


2.等級制度の概要

では次に人事基幹制度の中でも、骨格となる「等級制度」についてご紹介します。

等級制度は、会社が社員に対する期待を言語化したものだといえます。

等級は評価や報酬を差分をつくる軸になっているので、何を満たすとどの等級に該当するのかというのは、会社が社員に何を期待しているのかを示すものです。(その期待値を満たすことで評価や報酬が高くなり、満たしていないと評価や報酬は低くなる)

一般的に等級制度の考え方は3つのパターンがあります。

<等級制度のパターン>

図9

厳密にこの3つのどれかしかないわけではなく、考え方が混ざっている場合などもあります。

ただ、日本の場合は職務等級をきっちり運用しきる難易度が高く(成功しているケースももちろんあります)、職能等級も曖昧で使いにくいと感じ、中間的な役割等級として運用されている場合が多いと思います。

とくに、創業間もない時期や組織の形や規模がみるみる変わっていく成長フェーズにある企業の場合、役職や仕事内容は状況にあわせてどんどん変化します。

なので、ジョブディスクリプション(職務記述書)を軸に設計していく職務等級に振り切ってしまうとその運用を適切に維持するためのコストが大きく、形骸化する恐れがあります。

一方で、職能等級も職種ごとに必要な能力が異なっていたり、集約して定められた職能の場合、それが直接成果や企業の成長に結びついているかを判断しにくいこともあるので、評価とともに柔軟に等級を設定しやすい役割等級をベースに考えると整理しやすいと思います。

なお、実際に検討する際はこの3つのパターンどれにするのかという議論を先にするよりも、自社は何を持って社員の階層を分けたり、期待値設定や昇格の機会を提供したいのかというイメージを具体化することが重要です。

抜擢人事などを通じて成長の機会を提供する、成果を明確に示し実績を出した人に大胆に報いるなど会社が社員に提供する体験を軸に、運用もイメージしながら形骸化しない制度設計を考えていきましょう。

3.等級制度・定義の作成手順

前段にて等級制度の概要について整理しましたが、最後に等級制度・定義の作成手順について具体的な内容に触れたいと思います。

まずは等級制度検討の手順ですが、
①期待値の言語化
②等級の種類と階層の設定(キャリアパス)
③等級定義の策定
が主となります。

①期待値の言語化
前段でも述べたとおり、まずは会社が提供したい体験や社員への期待を言語化します。
切り口は様々あってよいですし、意見を拡散させた上で最後優先度を設け重きをおくものを絞っていきます。

最終的には以下のような形で等級制度の方針をアウトプットし、「職能・職務・役割」どの等級を軸としていくかを検討します。

<言語化イメージ>

図10

②等級の種類と階層の設定(キャリアパス)
等級への期待値を言語化した後は、等級の種類と階層(等級のレベル数)を考えていきます。

等級の種類とは職種やキャリアパスに合わせた等級コースの数を指します。
イメージしやすい切り口だとマネジメントと専門職、セールスとエンジニア、総合職と一般職といったものがあります。

最近では、職種別に等級定義を分けたり通常コースとは別に専門コースを分ける企業が増えています。

スタートアップにおいては、セールス系とエンジニア系は大きく求められる役割が異なりますので、職種によって種類も分けるケースも多くなっています。

続いて、等級の階層(等級の数)を検討する際は、昇格までの滞留年数や組織規模の今後の拡大をイメージしながらどの程度の階段を設けるべきかを考えると良いです。

例えば、等級を5段階とし、等級1から5までの昇格を通常のパフォーマンスの社員であれば20年間かけて行うとすると、単純に計算すると等級が1段階あがるのに5年かかる想定となります。

5年間同じ等級に滞留していると、昇格実感が沸かずデモチベーションを促す可能性があるため等級の数を増やし、昇格の頻度をあげていく..といった形で考えていくイメージです。

また、組織規模の拡大状況によっては、非管理職から管理職に上がる場合、ポジションがなくて滞留してしまう可能性も考えられます。

そうなると想定していた滞留年数よりも多く滞留しデモチベーションしていく可能性も考えられるため注意が必要です。

一方で昇格実感を持たせるため、等級数を10個・20個と多くする企業もありますが、あまりに等級が多くなると、各等級の差異が分かりづらくなり、メッセージがぶれてしまうので注意が必要です。
基本的にスタートアップではそこまで多い等級数にはせず、5段階~どんなに多くても8段階までに治める方が良いでしょう。

図11

等級の種類と階層の最終的なアウトプットイメージは以下の通りです。

<等級の種類・階層のアウトプットイメージ>

図12

③等級定義の策定
最後は等級定義の策定です。

等級制度は社員への期待値と整理してきたとおり、等級制度の定義がもつメッセージはとても重要です。

なので、どのような等級定義にするかはわかりやすく明確にしていく必要があります。

また、どのような観点で階層ごとに違いをつくるのかもあらかじめ考えた上で等級定義の作成に進みましょう。

例えば、関与する範囲の違いなのか取り組む課題の複雑さや困難さによる違いなのかなど階層による尺度を考えておかないと等級がもつメッセージはわかりやすいものの、具体的に中身を見た際に違いがわかりにくかったり、評価制度に結びつけにくいという結果になります。

以下のような観点を用いたり、等級共通のレベルを決めた上で作成するとブレが少ないでしょう。

<等級制度を検討する上で用いられる主な要素>

図13

また、もう一つのポイントとして、定義を固めすぎないことが大切です。等級定義の浸透には、それを読んだ方が自身の行動に照らして内省し、自身の言葉で語れるようになることが理想です。

そのため、行動基準まで事細かに記載してしまうとその定義をそのまま受け取ってしまい、自身の行動を内省するきっかけを作りづらくなってしまいます。

特にスタートアップでは組織が拡大していく中で適宜ブラッシュアップが必要なことも多いため、作りこみすぎないようにしましょう。

定義に解釈の余地があると必ず具体的な行動を定義したい、指していることを教えてほしいという意見をもらうことになるかと思いますが、そこが理解浸透を深めるポイントになります。

定義として整理するのではなく、都度一緒にケースと照らして解釈を考えたり、対話を通じて全員の解釈を揃える場を設計するのが望ましいです。

最終的には以下のようなイメージで等級定義が作成されます。

<等級定義イメージ(一部抜粋)>

図14

4.最後に

今回は人事制度設計の中でも今回にあたる等級制度について、概要と設計時のポイントを整理しました。次回は評価制度や報酬制度に触れていきます。

【100社以上支援したコンサル集団が語る】スタートアップ人事制度設計マニュアル-全体像編-
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寄稿者:岸井隆一郎(きっしー)

自己紹介
メルカリ HR Evaluation & Compensation Manager。事業会社にて採用・育成・人事制度企画・企業文化改革(インターナルブランディング)など、人事領域の業務を広く経験。組織・人事領域のコンサルタントとして、Employee Experience設計、人事制度設計、Change Management、採用戦略策定、育成体系整備、職務評価、役員報酬設計、コーポレートガバナンス整備、退職金制度設計、HRDD・PMI・会社分割における処遇整備など幅広いテーマの課題解決に従事。
Fintech企業HRManager、デジタルマーケ企業人事部長を経て、現職。
People Analytics 関連協会上席研究員、他 社外人事、寄稿など。

個人note「人事について考える」

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