【100社以上支援したコンサル集団が語る】スタートアップ人事制度設計マニュアル-目標管理編-
目標管理制度とは?作成の方法からポイントまでを解説
企業の組織づくりにおいて必要不可欠な人事制度。各企業様々な評価軸で評価を行いますが、多くの企業が「成果評価」を取り入れていると思います。
成果評価を行う上で、運用のカギを握るのが「目標管理制度」であり、OKR・MBO・KPIなど様々な手法があります。
一方でどれが最適な目標管理の手法なのか悩まれる方も多いのかと思います。
そこで、今回は特にスタートアップに適した目標管理制度についてご紹介します。
他記事については以下よりご覧頂けます⇩
①スタートアップ人事制度設計マニュアル-全体像編-
②スタートアップ人事制度設計マニュアル-等級制度編-
③スタートアップ人事制度設計マニュアル-目標管理編-
④スタートアップ人事制度設計マニュアル-評価制度編-
⑤スタートアップ人事制度設計マニュアル-報酬制度編-
1.目標管理制度とは
目標管理制度とは、経営戦略実現に向けて組織・個人が達成すべき成果や業務を定義し、達成度を測定していく仕組みとなります。
また、目標管理制度を活用することで、人事評価(成果評価)の決定や目標設定時に個人や組織の実現したいWillを組み込むことで、エンゲージメント向上にも寄与することができるようになっています。
完全なジョブ型企業であれば、各人が職務を全うすることを前提に処遇が決定されるため、目標管理制度を導入しないケースもあると思いますが、多くの場合では仕事の内容だけでなく成果を評価軸に取り入れることが多いため、成果を明確に定義していくためにも目標管理制度はマストとなります。
また、企業によっては成果以外の観点でコンピテンシーやバリューなどの行動目標を据えることもありますが、今回の記事では主に成果に関わる目標管理制度について取り扱っていきます。
2.選定の観点
目標管理制度を選定する観点としては、大きく3つあります。
<目標管理制度を選定する上での3つの観点>
1つ目は事業の特性です。
新規事業やスタートアップなどスピード感が求められるものか、既存事業で安定的な成長を求められるのか?といった点を考慮し、事業に適した目標管理を選ぶべきだと考えています。
2つ目は従業員の心理的安全性・エンゲージメントへの影響です。
前述のように目標のフォーマットによって、従業員の意思を反映できる度合いが変わってくるため、会社が心理的安全性・エンゲージメントにどの程度重きを置き、従業員自身が意欲を持って取り組めるように促していくかを考慮する必要があります。
最後に、目標管理制度を取り入れる目的との合致度です。
人事制度について話を伺うと、「OKRはボトムアップだからMBOの方が良い」、「ムーンショットな目標を追っていきたいからOKRが良い」、など、特徴の一部だけを切り取り判断してしまう企業も少なくないように思います。
しかし、実際に各社で目標管理制度を設計する上で、ベースのフォーマットからグラデーションもかけて導入すること(例:MBOをベースにしているが目標は公開する等)も可能です。
そのため、自社が目標管理によって何を成し遂げたいのか、その上で何をベースのフォーマットとし自社に合わせてグラデーションを賭けていくかを検討することが重要です。
また、従業員の自己管理能力の高さも選定の観点に入れるべきかというご相談をよくいただきます。
例えば、「OKRはボトムアップ形式だから目標の設定や修正、進捗を自主的に行うため管理能力が高くなければいけないのでは?」という考えは大きな誤りです。
MBOやKPIでもきちんとPDCAを回していかなければならないので、きちんと運用するには自己管理能力が必要です。
どのような目標管理でも自己管理ができるように運用サポートしていくことが重要なため、選定の観点として自己管理能力の高さを入れる必要はないと考えています。
3.目標管理制度の作成方法
続いて、目標管理制度の作成方法について述べていきます。
目標管理制度は以下のステップで検討を進めていき、検討の時間は1ヶ月程度で終えていることが多くなっています。
<目標管理制度作成のステップ>
以降、各ステップの詳細について述べていきます。
①フォーマットの設定
前述の通り、目標管理制度は主にOKR・MBO・KPI3つのフォーマットが存在します。
どれも最終的には成果を追うために活用されていますが、フォーマット毎に特徴があるため、自社の目標管理の目的や特性にあったものを選ぶ必要があります。
<OKR・MBO・KPIの概要及びメリット・デメリット>
まずOKRについてです。
OKRは、生産性の向上・コミュニケーション促進に重きを置いている仕組みです。
ムーンショットと呼ばれるチャレンジな目標(オブジェクティブ=目的、キーリザルト=追うべき結果)を立て、それらが組織図ツリーのように連携し全社員が互いに状況を確認できるようになっています。
その上で、四半期など比較的短い単位で目標を設定し、期中で追うべき指標が変わった場合には柔軟に変えていくことを推奨しています。
また、OKRは他の2つの目標管理制度と比べるとボトムアップの要素も多く、単に会社としてすべきことのブレイクダウンだけでなく、個人・組織が成し遂げたいことも目標に組み込めるようになっています。
OKRについての詳細は以下にもまとめていますので、是非ご参照ください。
【2022年最新版】目標管理におけるOKRとは?できること、MBOやKPIとの違いなど徹底解説
このような特徴があるため、OKRはスピード感があり変化の激しいスタートアップや大企業の新規事業に向いている手法といえます。
また、チェックインやウィンセッションと呼ばれる会議体を活用して運用し、リアルタイムに目標の進捗確認や支援のコミュニケーションを行っていくことも特徴です。
MBOは多くの企業で導入されているもので、目標管理といえば意識せずともMBO的になっていることが多いです。
元々ドラッカーがMBOを提唱した際はOKRに近い概念でしたが、日本においては報酬の決定(達成度=報酬に連動)や業務として達成すべき事を設定することに重きを置いています。
設定内容としては、業績などに加えて従業員の課題や業務課題なども含まれており、必ずしも会社全体の目標と関連している訳ではない(各組織の最適になる)ことが特徴といえます。
MBOは半年や1年程度の周期で設定するようになっており、かつ報酬と直結するため期中での変更は原則行わないことから、すでに安定している既存事業など、継続的に伸ばしていくような事業に向いているため、大企業で多く選ばれる目標管理制度となっています。
日本においてはOKRの理解が進んでないがために「目標管理制度といえばMBO」といった理由で選ばれることも多いのですが、スタートアップで採用する際には目的をしっかり確認していくことが重要です。
KPIにはプロセス管理の意図が強く、人事評価に使わずとも管理されているケースも多いと思います。
KPIは数値目標のみのため、より成果や管理の意識が強い企業で採用されるケースが多くなっています。
利益や売上といった最終的な結果に対してブレイクダウンした目標・数値を割りふる形となるため、トップダウンの思想が強くなっているのも特徴です。
基本的には会社で目指すべき目標から割りふられるため、KPI達成に向けた個人の動機付けが難しく、人事評価の中で取り扱うにはその点注意が必要です。
また、それぞれの目標例は以下となります。
<各目標の設定イメージ>
②目標管理ルールの設定
目標管理制度のルールに関しては、以下を事前に決定しておくとスムーズでしょう。また、ルールを決める際にも目標管理制度の目標と照らし合わせて考えていくことを忘れないようにしましょう。
<フォーマット別目標設定のルール(推奨)>
●目標設定の個数
OKRは、1つのポジションに対して、Objective(O)は1個、Key Result(KR)は特に優先度の高い結果指標を3-5個設定します。
MBOは1個以上設定することになりますが、網羅性を意識しすぎて目標の個数が多くなると形骸化しやすくなるため、5個以内が推奨です。
KPIは会社・組織が求める最終結果を細分化していくため、指標が多くなりやすいですが、こちらも多すぎでも目標を追えなくなってしまうため10個以内が推奨です。
●目標設定の内容
OKRを設定する上では、自身や組織の目的・ありたい姿(定性)を表したOと、Oの達成に必要な結果を定量的なKRとして設定するのが基本となります。
一方で、バックオフィスやエンジニアなど定常業務が発生する部門では定常業務内でありたい姿を設定するのか、定常業務外も含めて設定するのか検討する必要があります。(OKRの思想からは定常業務外での設定が理想)
MBOについては、成果・業務・キャリア・行動目標など幅広い目標を設定できる余地があるため、自社としてはどの内容について目標設定すべきかを検討する必要があります。
KPIについては、追う指標の粒度をどこまで細かく見るべきか(どこまでブレイクダウンするか)が検討ポイントとなります。
●目標の期間
OKRは四半期~半年、MBO・KPIは半年~1年間が一般的ですが、各企業の事業特性や目標作成にかかる工数負荷を考慮し、自社に適した期間を設定する必要があります。
●目標の達成基準
OKRは6割~7割達成、MBO・KPIは100%達成が基準となっていることが一般的です。
一方で、OKRにおいてはムーンショットな目標を立てづらい部署(バックオフィス等)もあるため、部署や特性に応じた基準設定を検討する必要があります。
●ウェイト(優先度)の設定
設定した目標毎にウェイトをつけ優先度を決めるかどうかも論点となります。
OKRについてはそもそも優先度が高い目標のみを設定するためウェイトをつけないことが推奨されます。
MBO・KPIについては、設定する目標の個数の中で明らかに目標の優劣がつきそうな場合にはウェイトを設けるのが良いと思います。
一方で実際の運用の中で、目標の個数が多すぎて、1つの目標当たりのウェイトが5%や10%と低すぎる設定となり、各目標の重みづけがうまく機能していないケースも見られます。
あまりにも低すぎるウェイトの目標がある場合には、設定する個数の最大値の見直しも検討する方が良いでしょう。
③評価・処遇への反映方法の検討
続いて目標管理制度の評価・処遇への反映方法の検討についてです。
論点は大きく3点です。
<目標管理制度の評価・処遇へ反映させる上での論点>
①そもそも評価・処遇へ反映させるか?
多くの場合、目標管理制度を導入するのであれば評価・処遇に反映させることを考えていると思いますが、こちらも目標管理制度の目的に応じて異なります。
例えば、目標管理制度はあくまでも組織の方向性のアライン(意識づけ)することを目的とし、評価・報酬は職務や役割で決める方式であれば評価・処遇には反映しない形にするのが良いです。
そのため、導入目的と照らし合わせてどちらにすべきかを判断します。
②目標の結果をどの処遇に反映させるか?
次はどの項目に反映させるかを検討します。
具体的には、賞与・基本給のどちらに反映させるかを検討します。
報酬設定の考え方について詳細は以下記事で触れていきますが、目標達成はあくまでもプラスαとして還元していきたい場合には賞与、コンスタントに結果を求めていく上では基本給または両方、といった形で報酬を支給する思想に合わせて決めていく必要があります。
【100社以上支援したコンサル集団が語る】スタートアップ人事制度設計マニュアル-報酬制度編- ※近日公開
③目標の結果をどのように評価・処遇に反映させるか?
最後に反映の方法です。
MBO・KPIの場合は、達成度=評価結果となるのが通常でシンプルかと思います。
ウェイトを設けている場合は、各目標の評価結果×ウェイトで点数を算出し合計点に応じて処遇が変動する形が良いでしょう。
OKRにおいては、達成度はあくまでも参考値として達成度なども踏まえて、期待通りの成果を超えたか?を上司が判断するケースが多くなっています。
達成度の目安はありながらも5段階で中央を期待通りとし、期待以上の結果であれば最高評価、そうでなければ最低評価といった形で評価を行い、評価結果に応じて処遇の上下を決めていきます。
例えば、60%達成の人でも外部環境などの変化が大きくその中ではきちんと成果を出せていればA評価、といった形で一定上司に裁量が与えられる形となります。
そのため、評価会議などの目線合わせの場を設定することも重要となります。
④目標設定シートの作成
続いて目標設定シートの作成方法についてです。
②・③でルールをきちんと決めていれば、後はそれらを形にするだけで、目標の設定内容・達成度が記入できるようになっていると良いです。
あまりに項目数が多いと複雑になってしまい現場の負荷もかかりますし、スタートアップにおいては適宜見直しも発生することから、シンプルなシートとするのが望ましいです。
以下はOKRのフォーマットになりますが、他フォーマットにおいても以下のようなイメージでシートを作成します。
または、人数が多い場合などは目標管理・評価ツールを用いることも管理負荷を下げる上で良いと思います。
<目標設定シートイメージ>
⑤運用方法の検討
最後に目標の運用方法の検討です。
運用方法を検討する上での論点は以下の通りです。
<運用方法の論点>
①各自の目標設定・目標設定面談のフロー・完成までの期間
目標設定を行う上で、部下が作成した目標を誰がどのように承認しいつまでに完成させるべきかを検討する必要があります。
基本的には、目標設定をどのぐらい精緻に行うか、目標期間(3か月・半年)の長さに対していつまでに終えるべきか?、③の変更の余地がどの程度あるか?がポイントとなります。
スタートアップにおいては、変化が激しく目標が変わる可能性も高いため、あまり長く時間をかけすぎず、期初~2週間以内には確定した方が望ましいと思います。
また、完成までのフローは以下のイメージです。
(より作業をイメージしやすくするため、目標以外のスケジュールも載せています)
<目標設定および関連タスクのスケジュール>
②進捗確認・サポートのための会議体の設定
チーム単位での進捗確認や1on1などどのように目標達成をサポートしていくかも検討が必要です。
こちらは、変化の大きさや現場の業務負荷が検討する上でのポイントとなります。
スタートアップにおいては、変化が激しいため、可能な限りタッチポイントを多くし、軌道修正をしやすくしていくことが重要と考えられます。
例えば、以下はOKRで推奨される運用方法ですが、OKRを採用せずともスタートアップにおいては適した会議体の設定だと思います。
<目標達成に向けた会議体イメージ>
③目標の変更ルール
最後に変更をどの程度まで許容するかを検討する必要があります。
こちらも目標期間の中で変化がどれだけ激しいかがポイントとなります。
特に目標期間が半年以上の場合、スタートアップだと期初と期末で全く状況が変わっているケースも多々あると思います。
その場合は、上長の承認の上で変更できるようにしておくことが望ましいでしょう。
また、変更した場合に評価への反映方法も考慮する必要があります。
目標を期中に変更した場合、達成度は期初から始めているよりも低くなる傾向が多いと思います。
変更の場合は外部要因が影響していることも多く、その上で達成度が低いと評価が悪くなるのは不公平感を強めてしまうため、変更した場合は必ずしも達成度だけで判断しないような仕組みを作っておく必要はあります。
また、運用は始めてみてから分かる事も多いため、細かな運用ルールの見直しは四半期に一度ぐらいの頻度で行うのが良いと思います。
4.まとめ
目標管理制度の作成方法については以上となりますが、目標管理制度は評価や処遇(報酬)とも大きく関連してくるため、人事制度全体の目的やそれぞれの思想も踏まえながら適切に決めていく必要があります。
また、目標管理に限らず人事制度全体に言えますが運用してみないと分からないことも多いです。
そのため、特にプロジェクトのオーナーである人事担当は、設計よりも運用のPDCAを回す努力をしていくことが大切です。
一度作って終わりではなく、時には従業員の声を取り入れながらPDCAを回し各社に合った制度にしていくのが望ましいと思います。
また、運用ではツールを活用することで効率化する部分も多くなっていますので、人数規模によってはツールの導入なども行いながらうまく運用していけると良いでしょう。
等級・評価など他記事で触れていますので、是非こちらもご覧ください。
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ハイマネージャー
OKRや1on1、フィードバック、人事評価などハイブリッドワークのマネジメントに必要な機能が全て揃ったピープルマネジメント・プラットフォーム「HiManager」の提供、及びマネジメント・人事評価に関するコンサルティングを行っています。
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