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日本に馴染みのある?ケルトの話

ケルト人とは何か、ケルトの歴史はどうかということは、よほどケルト好きの人以外は関心が無いだろうからその話は後回しにする。

現代において、ケルト文化が残っているところ(端的に言えば、ケルト語系の言語が大なり小なり残っているところ)は以下であることは世界的な共通認識である。
英国
スコットランド、ウェールズ、イングランドのコーンウォール、マン島
アイルランド
全域

フランス
ブルターニュ
(スペイン北西部にも一部あるようだが省略可能なレベル)

現代でケルト語系言語が残っている地域。括弧内はケルト的地名)
原聖(2022)『ケルトの解剖図館』エクスナレッジより転載

ブルターニュ人は英国(主にイングランド)を大ブルターニュと呼び、英国の人はブルターニュを小ブリテンと呼ぶ(自国は大ブリテン=グレートブリテン)。ケルトの一派、ブリトン人が英仏を跨がり住んでいたからである。
<余談>
マン島を知ったのはF1レースであった。天才レーサーと言われたブラジルのアイルトン・セナの同僚レーサーだったナイジェル・マンセルがマン島出身だったからである(ウイリアムズ・ホンダ全盛時代)。マン島は英国王室領=領主は英国王という特種なところで自治政府がある。

この内、ケルト色を最も強く打ち出しているのはアイルランドである。これは英国から独立したこと、英国と一線を画したいということから来ていると思われる。日本でよく知られているのは、歌手のエンヤ、コーラスグループのケルティック・ウーマン、アイルランド移民の多いアメリカ・ボストンのNBAチーム「ボストン・セルチックス」、バンドのU2、リバーダンス(実は歴史は古くない)、小説家ジェイムス・ジョイス、オスカーワイルド、更に詩人のイェーツ、ギネスビールなどだろう。尚、スコットランドにも日本人選手も在籍している「グラスゴー・セルチックス」というケルトに因む名前のサッカーチームがある。
<オマケ>
映画「タイタニック」の音楽はアイルランドのそれで覆われている。タイタニック号は北アイルランド・ベルファストの造船所で造られたからか?
映画「風邪と共に去りぬ」ではアイルランドの「タラの丘」に因んだ「タラのプランテーション」が出てくる(アイルランド移民の映画)。米国大統領
ではアイルランド系のケネディ、アイルランド系・スコットランド系の両親を持つレーガンがいる。

アイルランドは、公用語をケルト系のゲール語(エール語)としているにも関わらず、日常会話で使用している人は約500万人の人口中7万人程度。最もケルト系言語が日常的に残っているのは、イングランドに最も早く同化したウェールズで28%の人が日常的に使っているそうだ(ウェールズのケルト語はカムリー語という)。また、バグパイプはスコットランドの名物であると一般的に思われていると思うが、一旦、ケルト社会で廃れた後、復活したのはアイルランドが先である。嘗てイベリア半島にイベリア・ケルト人がいたいたので、スペインの北西のガリシア州(サンチャゴ・デ・コンポステラがある州)にもバグパイプ系の楽器がある。

国としてではなく「ケルト由来」で日本人に馴染みのあるものは、以前紹介したハロウィン、ワグナーの楽曲で有名な「トリスタンとイゾルデ」の原話「トリスタンとイズ-」、ケルト系パリシー族由来のオリンピックの開催地パリがある。「アーサー王」は中世にキリスト教色の強い騎士物語に変えられてしまったが、元はケルト系のブリトン人の伝説の王である。
以前紹介したもの↓
古代ブリテンの歴史とアーサー王|kengoken21go (note.com)

塩野七生『ローマ人の物語』(またはカエサル『ガリア戦記』)を読んだ人ならケルト人に包含されるガリア人も知っているだろう。フランスの国名はゲルマン民族フランク人から来ているけれど、フランス人はガリア人の末裔だといっている。ベルギーの国名はケルト系のベルガエ族からきている。

原聖(2022)『ケルトの解剖図館』エクスナレッジより転載


【地名のケルト由来の主なところ】
カンタベリー(ケント族の砦)
テムズ(暗い川)
ジェノバ(河口)
ボローニャ(町or基地)
ボヘミア(ポポイ族の地)

【ケルト系の人名】
○JFKこと故ケネディ大統領のKennedyはアイルランドの公用語ゲール語由来
○スコットランドに多いイメージがあるMc、Macのつく姓(マクドナルド、マッキントッシュ、マグレガー、マッキンゼー、マッカーサーなど)。
Mc、Macは後述のQケルト語の「息子」という意味。
○姓ではなく名前にKが付くのはケルト系が多い(Kent、Kevin、Kyleなど)

<意外な名前の由来>
読んだことはないが、ケルト人の英雄叙事詩があり英雄の名前をとり「オシアン」物、というものがある。欧州で大変人気がありナポレオンやゲーテの愛読書で漱石も読んだそうだ。このオシアンに因んでオスカル/オスカーという名前をつけるのが流行したそうだ。アカデミー賞のオスカーやベル薔薇のオスカルのルーツはここと言える。

日本で一時ケルトブームがあった際(自身は記憶がない)、人気が出たのは恐らくケルト模様・・渦巻き模様と網目模様が代表・・ではないだろうか。ケルト十字も有名かも知れない。数十年前小田急ハルクでケルト展をやっていた時に指輪を買った(銀製・非高級品)。当時ケルトファンだった訳ではなくデザインが気に入っただけである。

以下の写真(除く指輪)は鶴岡真弓訳『ケルズの書』より転載

渦巻き模様
網目(水引的な)模様


ケルト模様を転載した図書
鶴岡真弓訳『ケルズの書』より転載


ケルト展で購入した指輪

ここから先は少し専門的な話なので、興味がある人だけ向け:

●(現代の)ケルト語の分類

Qケルト語ではPケルト語のPの音がK(綴りはk、c、gなど)に、Pケルト語ではQケルト語のKの音がP(綴りもpが基本)に変わる(対立的に表れる)ため、このような分類がされている。
例)息子  Qケルト語:mac(マック) Pケルト語:map(マップ)

●よく分かっていない古代のケルト
ケルト人とはケルト語系の言語を話す人々のことで、「ケルト民族」と言える集団がいたのか定かではない。歴史書への初出はヘロドトス『歴史』で「ケルタエ/ケルトイ」と書かれたものものである。ヘロドトスは古代ギリシャ北方でスキタイより西側の人々を呼んだようなので、ケルト人だけではなくゲルマン人も含んだ可能性もあるようだ。

カエサル『ガリア戦記』・・中倉玄喜翻訳・PHP研究所・・冒頭で「ガリアは全体が三つの地域に分かれている。そしてその一つにはベルガエ人、もう一つにはアクィタニー人、またもう一つには自らをケルタエ人と称するいわゆるガリー人が住んでいる」と書いている。

現代からみるとガリアとケルタエ=ケルトを混同して使っており、実際は、ケルトの中にベルガエ人、アクィタニ人、ガリー人が居るということだ。
何れにしても、『ガリア戦記』には、この三区分に関係なく数多の部族名が出てくる。尚、カエサルはゲルマン人とガリア人をちゃんと区別していて、ゲルマン人のことをゲルマニー人と呼んでいる。「ガリア人とゲルマニー人の風習は大きく違う」と書いている。

ケルト人が最大でどの範囲までいたかの参考図を二つ付けておく(同時期に広がっていたとは限らない)。両図共に正確とは言い難いところも若干あるように自身には思えるが、イメージで捉える分にはいいと思う。時期を無視すれば、ゲルマン民族が居た南側の東欧~中欧~西欧、現在の英国・アイルランド、イベリア半島、アナトリア(現トルコ)、イタリア北部に居たことになる。

濃い緑・緑・黄緑がケルト人がいたところ
https://www.reddit.com/r/MapPorn/comments/19ex1l8/celtic_colonialism/


ケルト人関連地域
鶴岡真弓 、松村一男(1999)『図説 ケルトの歴史』河出書房新社より転載

従来、欧州大陸→ブリテン島(英国)にケルト人が渡ったという説だった。しかし最近、欧州の大西洋岸→ブリテン島→欧州大陸だったという説も出ているようだ。

原聖(2022)『ケルトの解剖図館』エクスナレッジより転載
原聖(2022)『ケルトの解剖図館』エクスナレッジより転載

英国に世界遺産になっているストーンヘンジがあるのは周知のとおり。前者の説の立場なら、ストーンヘンジはケルト人が来る前に住んでいたし人々(新石器時代~青銅器時代の何らかの人々)が造ったものとなる(これまでそう言われ続けた)。後者の立場なら、ケルト人がストーンヘンジを造り、この流れでブルターニュのカルナック巨石群も造った可能性もある。しかしまだ学者の共通認識にはなっていないと思う。
ケルト語が属するインド・ヨーロッパ語族の原郷(祖語が生まれた地域)がどこか、諸説がある(大袈裟に言えば数多ある)・・アナトリア、南ロシア~ウクライナ、スカンジナビアなど・・が、少なくとも欧州の西側という説はないので、東→西=従来説の方が納得感があるように思える。印欧語族の原郷は今までカスピ海~黒海に挟まれた地域が有力だった。サイエンスには近年アナトリアという説が出ている。

ストーンヘンジ
カルナック巨石群

オマケ:
先般、今年生誕120周年になる小泉八雲こと、パトリック・ラフカディオ・ハ―ン(ヘルン)のことを書いた。八雲はケルト人の血が流れていることをかなり意識していた。
今年は小泉八雲ブームか?(その2)|kengoken21go (note.com)

フランスに世界中で人気があるといわれる(除く、米国・日本)『アステリスク』という漫画があるそうだ。映画もある(日本未公開の模様)らしい。ガリア人対カエサルのことなどが載っているとのことで、この漫画のテーマパーク(ガリア人主体)が人気のお陰でパリのディズニーランドは他国ほどの人気がないという話もある(真偽のほどは?)。
アステリックス - Wikipedia

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