古代ブリテンの歴史とアーサー王


先般、「アーサー王」の物語はファンダジーになってしまい、叙事詩でも叙情詩でもないと書いた。アーサー王伝説を調べるため、ブリテンの歴史を知る必要が出て来たことが今回の背景である。
神話と叙事詩、或いは神話の類似性|kengoken21go (note.com)

英国の古代史は、①ストーヘンジがあったこと、②西ゲルマン民族のアングロサクソン人侵入が英米をアングロサクソンの国という由縁であること位しか巷間に多分広まっていないと思う(塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読んだ人ならカエサルのブリタアニア遠征はご存知であろう)。

一方、フランス・ノルマンディー公国ギョーム(英語ではウイリアム1世)による所謂「ノルマンコンクエスト」・・英国、フランスを跨がる領土を保有したプランタジネット朝の成立・・以降の歴史はシェイクスピアの史劇(10作)の題材となっており、世界史の教科書にもしばしば登場する。

ということで、ローマ帝国の属州化以降(属州ブリタニア以降)、ノルマンコンクエスト前までについて述べたい。


1.ローマ帝国時代

ローマ帝国が現在の英国の内、イングランド・ウェールズ(スコットランド、アイルランドを除く)を属州化して「ブリタニア」とした時代は、英国はケルト系民族人が大陸から来て住む島になっていた。細かいこと(ベルギーの語源になったベルガエ人も嘗て居たなど)を省略すれば、

●イングランド・ウェールズ・・ブリトン人

●スコットランド・・ピクト人

●アイルラド・・スコット人

と呼ばれるケルト民族が住んでいた。尚、ブリトン人はウェールズから大陸側、フランス・ブルターニュ地方にも移住したので、ブルターニュは小ブリテンとも言われる。現在でもフランス的ではない文化があり、仏語を話さない人もいる。


(1)英国とケルト人

ケルト民族は印欧語族でギリシア人は「ケルトイ」、ローマ人は「ケルタエ」と呼んでいた。ハルシュタット文化(オーストリア)、ラ・テーヌ文化(スイス)に代表されるよう東側から欧州に進出し西欧まで拡散した。カエサルの『ガリア戦記』で有名なガリアはその一部(主にフランス)。今はケルトと言えばまずアイルランド、続いてスコットランド、ウェールズを思い浮かべる人が多いのでないだろうか。

スポーツ好きの人なら日本選手が活躍中のスコットランド・フットボールリーグ「エディンバラ・セルチックス」、米国でアイリッシュ系移民が多いマサチューセッツ州のバスケットボール・チーム「ボストン・セルチックス」がケルト由来の名前であることを知っているだろう。音楽好きの人なら「ケルチック・ウーマン」も。ケルト由来で最も有名なものは以前書いたハロウィンだと思う。


(2)住人が入れ替わったスコットランド・アイルランド>

スコットランドはスコット人では?と思う方もいるだろう。元々スコット人はアイルランドに居て後からスコットランドに進出。逆に、ピクト人は追い出される形でアイルランドに移住。スコットランドという名称はアイルランド後で「荒らす」「略奪する」いう意味の「スコット」人が住むところという意味。今のスコットランドは元はアイルランド人の国、今のアイルランドは元はスコットランド人の国という見方もできよう。

 

2.ローマ帝国撤退~アングロサクソンのイングランド侵攻

この時代、AD4~AD6世紀は「暗黒の時代」と呼ばれている。ローマ帝国の撤退後、ブリトン人(イングランド・ウェールズ)は西ゲルマン系と言われるアングロサクソン人、北からのピクト人、スコット人、更にはバイキングの進出と戦わなければならなかった。戦う相手の主力はサクソン人で、一次的にではあるにしてもこの侵攻を撃破した伝設のブリトン人の英雄がアーサー王である。

ゲルマン民族の中のアングロサクソンとよくいうが、実際はアングル人・サクソン人・ジュート人からなる。主力はサクソン人。アングロサクソンといわずサクソンということも多い。一方、イングランドという呼称は「アングル人の土地」という意味。ウェールズはゲルマン人がブリトン人を「ウェアルフ(隷属民、異邦人)」と呼んだのが語源。

 

3.アングロサクソン侵攻以降

アングロサクソン人のイングランド侵攻((ウェールズは征服されていない、スコットランド、アイルランドも同様)以降、サクソン人のアルフレッド大王によるイングランド統一、デーン人(デンマーク系)のクヌート大王の北海帝国(注)などを経てノルマンコンクエストに至る。

注:イングランド王、デンマーク王、ノルウェー王を兼ねていたので北海帝国という


細かいことは省略するが、スコットランド、アイルランドはそれ以前もそれ以後も長い間イングランドとは一体でない時代が続いたこと、ブリトン文化が一番残っているのはウェールズであろうことが要点だと考える。ウェールズの国旗には赤いドラゴンが入っている。これはブリトン人(アーサー王の兜飾り?)の象徴とも言える。

英国国旗はイングランド、スコットランド、北アイルランドの国旗を組み合わせたもので、ウェールズは入っていない。国旗が制定された時ウェールズは既に一体化されていたからだが、国旗制定の時期に関係なく、昔からイングランドとウェールズは(スコットランド、アイルランドと違い)近い関係。

フットボール(サッカー)やラグビーは今でも英国が4チームの代表を出せるのは、独立意識の他に、発祥の地であることと嘗ての大英帝国の威信であろうか。

 

【アーサー王物語】

上に記したよう紀元4-6世紀の話だったものが中世の騎士物語にすり変えられ、また、当初は無かった話が色々な作家(英国・フランス・ドイツ人)の創作で追加されたのでファンタジーになっていると書いた次第。当初とはジェフリー・オブ・モンマスが書いた『ブリタニア列王伝』に書かれているものを指している。追加された登場人物、場所、物語の例は以下のとおり。

①湖の騎士ランロット、宮廷キャメロット(城)

②円卓(の騎士)、聖剣エクスカリバー

③聖杯探求

④トリスタンとイズー(イゾルデ)

⑤アーサー王の死と終焉の地アヴァロン


アーサー王ものは映画を始め欧米では今でも人気があるようだ。ディズニー映画の「王様の剣」もアーサー王ものである。ケネディ大統領(JFK)の家族はアーサー王の宮廷キャメロットに例えられ、ケネディ政権は円卓の騎士団に例えられてもいた。


●参考

アーサー王が実在したとして、それより古い時代のケルト人ブリテン王を題材にしたシェイクスピアの戯曲が『リア王』、『シンベリン』である。

 

バイキングとノルマン人(実は同じ)については、ロシア・ベラルーシ・ウクライナと関係があり、別の機会に書きたいと思う。


ウェールズ国旗はWikipediaより



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