神話と叙事詩、或いは神話の類似性
神話と叙事詩、或いは神話の類似性
叙事詩という言葉それなりに広まっている。辞書やWeb等に色々説明・定義がある中で、自分に一番ピッタリくるのは「ある程度の長さを持ち、民族の英雄や神話など民族の歴史として語り伝える価値のある事柄を韻文、詩の形式で著したもの」である。下線を引いた韻文、詩の形式を取っているかは原文を見ないと本来分からないだろう。尚、詩の形式ではなく散文のものが叙情詩と理解している。
叙事詩とされているものはそれなりな数があるようだが、教科書等によく出て来るものは以下である。因みに日本に叙事詩はない(候補は古事記しかないと思うが、該当せず)。
①ギルガメッシュ叙事詩・・メソポタミア文明、世界最古の叙事詩
②イリアス(ホメロス)・・トロイ戦争
③オデュッセイア(ホメロス)
④マハーバーラタ(アーティガイヤ?)・・インド、世界最長の叙事詩
⑤ラーマーヤナ(ヴァールミーキ?)・・インド
⑥ニーゲルンベンの歌・・ドイツ
⑦ロラン(ローラン)の歌・・フランス
尚、世界史の教科書には⑥、⑦と並べて、中世の騎士物語として
⑧アーサー王の関するもの物語・・西欧全般
が書いてある。子細は省略するがこれは⑥、⑦と並べるようなものではない。叙情詩でも叙情詩でも単なるファンタジーになってしまっている。欧米人は映画のモチーフにするのが好きなようだが(古代ブリテン史として改めて触れるかも知れない)
物好き(暇?)なので①~⑧に一応目を通した(但し、長大なもの(例えば④は抜粋)。今回は①を取り上げる。
【ギルガメッシュ叙事詩】
ギルガメッシュの名前は昔から聞いたことがあったものの、実は古代ギリシア作家の作品にでも出て来るものかと長らく思っていた。従って、テレ東の前身の東京12チャンネルで「ギルガメッシュ・ナイト」という深夜番組があったが、意味が分からない儘であった。
<補足>
「ギルガメッシュ・ナイト」は男性向け低俗番組と思っていたが、ウィキペディアによればプロデューサーは寧ろ女性をターゲットにしていたそうで実際に女性視聴者も多かったとか。但し、ギルガメッシュを精力旺盛という意味で使ったようである。
さて、ギルガメッシュは、メソポタミアのシュメール地方の都市国家ウルクに居たことになっている半神の人物。発見された粘土版に欠落、読めないところがあるので完訳不能。内容の紹介はしないが、長文ではないので極短時間で読める。「ギルガメッシュは父親に息子を残さぬ。昼も夜も彼に横暴振りは収まらない。強く見目よく賢い。ギルガメッシュは母親に娘を残さぬ、戦士の息女、貴人の奥方をも」と書いてあることが、多分精力旺盛と思われたのだろうと推察する。
ギルガメッシュ叙事詩を日本人が知っておく価値は以下の二つであると思う。
【世界の洪水伝説のルーツ】
ノアの方舟の話は有名だが、インド神話に全く同じような話「マヌの洪水伝説」がある。要はノアがマヌ(=人類の始祖)に代わっただけと思えばよい。これら二つの話はギルガメッシュ叙事詩由来というのが定説である。ギルガメッシュは永遠の命が得られる方法を求めて彷徨いその秘密を知っていると思われたウトナピシュテムという人物に合う。この人は神(多神教なのでGodではない)のお告げで、マヌやノアと同じことをして洪水から唯一生き残った。洪水伝説は人が増えすぎ問題が起こったことが反映されているとも言われている。
関連することとして、人口増加のため多分人を減らすべく神々が二つに分かれて人をして戦争を起こさせたという物語はイリアス(トロイ戦争)、マハーバーラタである。
【冥界下りの元祖】
ギルガメッシュは豊穣の女神イシュタル(アッカド語でイシュタル、シュメール語でイナンナ)から交わりの誘いを受ける。イシュタルは不貞・ふしだらといってギルガメッシュは拒否。このイシュタルが冥界下りをする女神である。
ギルガメッシュ叙事詩に直接出てくる訳でないが、別の叙事詩として「イシュタルの冥界下り」があり、弟(又は配偶者)のタンムーズが冥界にいるので、連れ戻そうとして冥界に下る(冥界はイシュタルの姉、エレキシュガルが治めている)。この話はギリシア神話のアドニスの話の元になっている(アドニスはセム語なのでメソポタミア由来は明らか)。
ついでに言えば、日本神話でイザナギが死んだイザナミのいる黄泉の国にいく話は、ギリシア神話のオルペウス と エウリュディケの話に似ている(伝わったという説もある)。
今回対象にしたものに限らず、世界がどう創造されたかの話を始め、世界の神話にはよく似たものが多くある。その要因は以下に大凡分類される。
①伝搬
文明が早く起こった地域から他地域へ伝播(洪水伝説など)
②祖語を共通する民族の記憶
印欧語族からアーリア人(インド・イラン)と欧州人に分かれたので、イラン・インド・
欧州に似た神話がある
③人間の同一心理に由来(女神の機能など)
④自然の驚異に接したこと(卵から鳥や蛇の誕生、蛇の脱皮など。蛇に纏わる神話は多い)
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