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半側空間無視の概要

半側空間無視は注意障害の一種であると言われており、日常生活にさまざまな支障をきたす疾患です。
ここでは半側空間無視の概要について説明していきます。
半側空間無視の説明をする前に注意機能について簡単にまとめます。

注意の種類
注意は、持続的注意、選択的注意、分配的注意、転換的注意の4つに分類されます。
持続的注意は、言葉通りある物事に対して一定期間注意を持続することを言います。
選択的注意は、さまざまな感覚情報の中から自らが選択して注意を向けることを言います。この選択的注意の代表例がカクテルパーティー効果です。例えば、パーティーに出席すると多くの人が会話をしている騒音の中でも自分が会話をしている相手の声を判別できます。これは、多くの騒音の中から自分と話している相手の声に選択的に注意を向けていることになります。
分配的注意は、例えば車の運転には、アクセルを踏む強さにも注意を向ける必要や外界に注意を向ける必要やハンドル操作に注意を向ける必要があります。このように、2つ以上の作業を同時に行う注意のことを指し、最も複雑な注意機能と言えます。
転換的注意は、例えばパソコン作業をしているときに誰かから話しかけられたときにパソコン作業を中断して、話しかけてきた人に対して注意を向けます。つまり、注意がパソコンから話しかけてきた人に注意が移動(転換)したことを意味しています。

トップダウン的注意とボトムアップ的注意
図1の左を見て仲間外れを1つ探して下さい。
このように能動的に仲間外れを探索することを能動的注意(トップダウン的注意)と言います。
すなわち、トップダウン的注意は、能動的にバイアスをかけることによって目的とする刺激を選択する注意のことを指します。
一方で、図1の右は意識しなくても見ただけで仲間外れが分かります。
このように受動的に仲間外れに注意を向けることを受動的注意(ボトムアップ的注意)と言います。
すなわち、ボトムアップ的注意は、複数の刺激の中で1つの刺激が周囲の刺激と顕著に異なる場合や視覚刺激が突然出現した場合など、受動的に惹きつけられる注意です。

スライド1

全般性注意と方向性注意の障害注意には全般性注意と方向性注意があり、全般性注意は全般性注意障害で、方向性注意障害は半側空間無視です。
全般性注意障害は、上記の注意の種類で説明した4つの注意の全ての機能が低下します。
一方で、半側空間無視は4つの注意の中でも選択的注意と転換的注意が特に障害されます。

半側空間無視の定義
半側空間無視 (Unilateral Spatial Neglect : USN)とは、損傷半球と反対側の空間の刺激に対する反応の低下や欠如がみられ、それらは感覚障害や運動障害では説明がつかない病態であると定義されます1)。

出現率
半側空間無視の出現率は、右半球損傷の50%の患者に出現し、3か月後も17%の患者でUSN症状が残存すると報告されています2).
また,左半球損傷の30%の患者で出現しますが,左半球損傷の場合は急性期のみで慢性期までは残存しないと報告されています3).
なぜ、半側空間無視は右半球損傷に多いのでしょうか。
その理由の1つにKinsbourneの注意障害説があります(図2)4)。この説は、右半球は左右の空間のどちらも監視しているのに対して、左半球は右の空間のみを監視していると報告されています。そのため、左半球損傷でも右空間は右半球で補うことが可能ですが、右半球が損傷すると左空間を監視できなくなってしまいます。

スライド2

半側空間無視の見え方
図3は健常者、盲視患者、半側空間無視患者の外界の見え方を示しています。
半側空間無視患者の見え方は、視野障害はないが左側がぼやけて鮮明ではない状態であると報告されています5).

スライド3

一方で、盲視患者は第一次視覚野を損傷することで図のような見え方になります。しかし、盲視患者は、盲視側への刺激に反応できるとの報告があります6)。
半側空間無視とは関係ないですが、なぜ盲視患者が盲視側への刺激に反応できるかを簡単に解説します。

以下には、意識に上る経路と上らない経路の説明、半側空間無視の症状、分類、運動機能と入院期間、在宅復帰と引用文献について書いてあります。

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