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ユニクロの編集とLifeWear

2018年5月1日、雑誌『POPEYE(ポパイ)』元編集長の木下孝浩氏がユニクロなどを運営するファーストリテイリングに執行役員として入社したと発表した。

その時、駆け出しの書店員だった自分でも衝撃を受けた。POPEYEの編集長を退任したときに衝撃を受けていたけど、マガジンハウスからファーストリテイリングに移籍だなんて考えてもなかった。

その後、木下さんは何をユニクロでやっているのかわからずだった。
そんな中、2019年に飛び込んできたのが、ユニクロがバイリンガル雑誌『LifeWear magazine』を創刊するというニュース。

もちろん木下さんが指揮を取り創刊された雑誌で、ユニクロの店舗と蔦屋書店にて約100万部を無料配布したほか、Kindleやウェブサイトでも配信された。
この『LifeWear magazine』を見たときは本当にユニクロは変わったと実感した。
オウンドメディアでも、ルックブックでもなく雑誌という媒体を選び、それを全世界の店頭で無料配布した。普通だったら新作コレクションを載せた写真のみで構成されるルックブックを配るところを、あえて雑誌というフォーマットでユニクロの"LifeWear"という価値観を伝える構成で雑誌が作られた。ただの自画自賛の企業宣伝誌とも違う、企業の根底にある理念や想い、ウェアからカルチャーへの寄り添いみたいなのが本当に詰まってたものだった。
クリエイティブディレクターは木下孝浩さん、誌面ではPOPEYEの読者にはお馴染みだったフォトグラファー白川青史さんとスタイリストの長谷川昭雄さんのページがあってスタイリッシュかつ、過去のユニクロの野暮ったいイメージを覆す意思がしっかりと打ち出されていた。

そんな『LifeWear magazine』を2号出し、木下さんの存在感が高まってきた中での『ユニクロ 原宿店』が原宿駅前の商業施設『ウィズ原宿』内にオープンした。
原宿は1998年にユニクロとして首都圏初の都心型店舗を出店した街であり、UTも2007年に1号店を出店した場所。『UTストア』は12年に営業を終了。自分も上京したてのときUTストアにいって、「東京のユニクロってこんなにかっけぇことしてる…」となった記憶がある。
そんな原宿に再び出店するので、気合の入りようが凄かった。

若者をメインターゲットにし、リアルとバーチャルを融合した体験型の店舗を目指しているそう。デジタルとファッションの融合を伺わせるものがあったけど、個人的に一番驚いたかつ、気になったのが、本と雑誌の存在。

まず、ユニクロなのに本が売っている!!!
しかも、選書されファッションや原宿、表参道、UTに関する本が並んでいる。キャプションもしっかりとしたもので、街の本屋さん以上に選書に対してこだわりのあるものだった。

本の販売の他にも、原宿や表参道に関連する書籍やヴィンテージマガジンの展示をされているスペースもあった。その展示は、ユニクロの社内ライブラリー『READING ROOM』にある蔵書を使用しており、本から得れる知識や気づきをフィジカルに体験して欲しいという理由で展示用の本棚が置かれた。ユニクロがセレクトする"本のLifeWear"と表現している。
その本棚の中でやはり目立つのがPOPEYEやオリーブ、ananなどのマガジンハウス発行の雑誌の存在。そこには木下さんの影を感じるし、このマガジンのセレクトは本当に秀逸だと思った。

この棚以外にも、マネキンが置かれている足元には、メンズクラブとPOPEYEが置かれ、マネキンが「AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語」を読んでいる。

先程説明した『LifeWear magazine』も、関連する商品のページを開いて店頭に置いてあり、服とスタイリング、その服にまつわるストーリーを店頭と雑誌にて伝えようと試みていた。

ただ、ユニクロ製品を売るだけではなく、"LifeWear"というユニクロの根底にある理念を消費者へ、今後大人になって消費を牽引していく若者へ伝えるお店になっていた。

昔のように少し野暮ったいフリースを売っているユニクロではなく、生活とともにある洋服を売っていく、生活の中で必要とされ、選びたくなる服を売るブランド、服だけはなくユニクロのある生活・ライフスタイルを消費者へ提案するお店へ変化、進化を遂げている。

やはり、これは木下さんであったり、グローバルクリエイティブ統括を務める元Wieden+Kennedyのジョン・ジェイ氏だったり、UTのクリエイティブ・ディレクターのNIGOだったり。こういった才能あふれる人を起用していって、ユニクロを揺るぎない存在にスマートに進化させた賜物だと思う。

"ユニクロでいい”から"ユニクロがいい”へ。
ユニクロばかりの世界は嫌ではあるけど、ここまで徹底的に進化をして、攻め姿勢で企業からライフスタイルやカルチャーに関する発信や提案をされると、日々の暮らしの有力な選択肢のひとつにユニクロが入ってくる。

「WWDジャパン」4月27日&5月4日号がユニクロ特集で、これが結構興味深いものなので、ぜひユニクロ研究に読んで欲しい。電子版もあるし、蔦屋書店の一部店舗ではバックナンバーも取り扱っているはず。

ちなみに、6月19日(金)に銀座にオープンするUNIQLO TOKYOも面白そうなので、原宿とあわせて行くといいかも。
トータルクリエイティブディレクターに佐藤可士和、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞し、プラダ青山店などの設計を手掛けているスイスの建築家ユニット ヘルツォーク&ド・ムーロンをデザインチームに迎え、 LifeWearを体現する店舗を作ったらしい。

中村勇吾さんのロゴ回し案件も話題になっている笑

藤本壮介デザイン監修の横浜のUNIQLO PARKもだし、本当にユニクロのやることから目が離せない。

アパレル業界では生産現場の話や労働問題など様々な事象が問題視されている。ユニクロもそこに含まれている。もちろんそこを無視できないけど、そこの改善とともにどんどんLifeWearを確かなものにしていって欲しい。ユニクロの今後の展開が本当に楽しみ。


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