エッセイ_嘘みたいな本当の話_

嘘みたいな本当の話

ペンネーム Mr. K
 
 嘘みたいな本当の話。
私が通っていた、安全運転指導すべき自動車教習所の教官が
交通事故で亡くなった。

 長距離トラック運転手経験者のその教官の学科講義は、
車の話はもとよりタメになる実学的な話まで展開し、
その内容はいつも深く興味をそそられるもので、
いつもわくわくしながら講義が始まるのを待ったものだった。
 
 曰く、
女性ほど大きな車に乗ったほうがいい。
なぜなら、数多くの人を教習した経験からいって、
多くの女性は反射神経の面において優れておらず、
ハンドルの操作・ブレーキの踏込に遅れが出やすく、
それに伴い事故に遭う確率が高い。
だから事故時の安全度が高い大きな車(中古でもいいから)を
選ぶほうがいいという話。
 女性が「かわいい」「安い」「燃費がいい」という理由で
軽自動車を選ぶのは、
女性の車選びにおける優先順位をはき違えており、
「まず安全」ということを考えて車選びするべきだと。
軽自動車に乗るのは運転上級者なってからの話であると。

 そして、その教官は断固とした口調で語られた。
「安全をさしおいて、値段・燃費ばかりにこだわり、
 金に執着するなら、はなから車なんて乗るな。
 車は金のかかるものなんだ。
 金を惜しんで命を危険にさらすのか」

 曰く、
シートベルトは自分から積極的に着用すべき。
なぜならベルト着用をするのは、
「ベルトをしてないのが見つかったら罰金を取られるからする」
のではなく、「自分の身を守るためにする」のだから、
たとえ毎回ごとの着脱が面倒くさかろうが、
締付けられる装着感が鬱陶しかろうが、
むしろすすんで着用するべきなのだと話された。
 そしてその話題の最後に、シートベルト着用にまつわる
教官自身の怖い実体験の話を加えたのである。

 それは、教官が自分の車を運転していた時のことだそうだ。
飛び出してきた車を避けようとして急ハンドルを切ったのだが、
そのため車が路肩を越えて崖下に落下し、勢いで
もんどりうってひっくり返り岩場に逆さに叩きつけられた。
岩への衝突打撃で大きく陥没してきた天井板によって、
教官の首は「くの字」にまげられたのであるが、
逆さ宙吊りの体勢になりながらも、
シートベルトで体が席に固定されていたおかげで、
体は傷を負うことなく、事なきを得たそうである。
 教官はじっと見据えるような目で教習生に向きあい語りかけた。
 「シートベルトをしていなかったらどうなっていたと思う?
  間違いなく頭も潰れていたよな。
  シートベルトはしたほうがいいよ。」

 この話は、シートベルトの着用効果について、
数値で示された高邁な教義を聞くよりも説得力がある気がする。

 だから、車の安全を指導する自動車教習所の、中でも
こんな安全志向の強い教官が、よりにもよって ”交通事故死” との、
嘘みたいな話を聞いたときは、本当に驚き、信じられなかった。
 その事故原因についてはなぜかつまびらかにされていなく、
教官を知る人は一様に、亡くなったことは知っていても
その事故原因が何なのかは知らなかった。
 もしや、教官が交通事故死したとなっては、
営業上、立場上、面目立たないと考えた教習所・関係者が、
事故原因・状況を隠蔽したのだろかとも邪推されたりもした。

 しかし、教官をまでも事故死させたケースを公開すること
こそが同様の事故の再発防止となると思われるのだが、
それは遺族・教習所に酷すぎるであろうか。

 事故から25年経った今となっては事故は風化し、
もはや私にその由を知る術はない。

 さらにまた、嘘みたいな本当の話。
実家が氏子になってる神社の神主も交通事故で亡くなった。

 交通安全を祈願する神主が交通事故死では、神社への
安全祈願依頼者が激減したのは言うまでもないだろう。

 その神主が毎週土曜開催するボーイスカウト隊活動に、
小学生の頃の私は参加していた。
 よく神社の広場でテントを張ったり、ゲームしたり、
ときにはキャンプファイヤーなんかもしたりした。 
 隊長である神主は指導力があり、冷静沈着で、
人柄は温厚かつ真面目で人望もあった。

 事故状況は、かなりの違反スピードで無理な追越しをかけて、
反対車線対向車との正面衝突事故。即死。
 いくつかの周囲の話によると、
かねてからスピード狂であったらしい。
 事故により神主の意外な一面を知った。

 彼をスピードに駆りたてていたものは何だったのだろうか。

 最後に、嘘みたいのではなく本当の話。
  「 車は非常に危険な乗り物なのである。」
それは年間の事故死者数・事故数をみても明らかである。
そして誰しも「ヒヤッ!」とした経験はおありだろうから、
みんなそのことを十分にわかってるはずなのである。
それでも事故は起き続けているのである。
 
 せめて私は、教官が講義中に語った言葉をあらためて
 自分に言い聞かせる。
  「 安全確保は、まず自分から 」

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