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【自治体DX推進のためのフレームワーク】「3つのSmart」とは何か

はじめに

前回の記事で、「自治体DX」とは、「これからの急速な技術進歩や社会の変容を見据え、財政や人材などの経営上の困難の解決も併せて、自治体経営のあり方を根本的に見直すこと」を通じて、「あらゆる住民が幸せに暮らせる地域を作ること」と書きました。

自治体DXの話になると、どうしても「行政手続のオンライン化」とか、「AI・RPA」の話になりがちですが、この手の施策レベルの話だけでなく、上記の定義に照らせば「Transformation=変革」の議論をする必要があります。

しかし、あまりに広範な事項を扱うので、一定の考え方の枠組みが必要です。そこで、今回は、自治体DXを進めるための施策を整理するためのフレームワーク「3つのSmart」について書きたいと思います。

(このnoteにおける掲載内容は私個人の見解であり、会社の立場や意見を代表するものではありません。)

自治体DXを進めるために考えるべきこと

前回の記事では、自治体DXの要素を以下のようにまとめています。

①時代にあった組織のあり方、経営のあり方を考えること(デジタルに限らず、必要な改革を行う)
②最新の技術の登場に追いつき、それらを取り入れてどう社会課題解決を進められるかを考えること
③結果として県民の幸せが向上すること(これこそが究極の「住民目線」)

これらをフレームワークにまとめたいと思いますが、それぞれの項目をもう少しブレークダウンしましょう。


業務の生産性の向上

自治体経営を安定的に行うためには、安定した財源と、人的リソースの確保(質・量ともに)が必要ですし、こうしたリソースを活用して、地域の課題解決が進められているかどうかが重要になります。

まず必要な観点は、業務の生産性と行政サービスの質の向上です。
もともと、一人の職員でできることは限られていますが、労働人口の減少が予想されるなかで、頭数を増やす方法は現実的ではないため、行政ニーズに対応し続けるためには、業務の生産性を上げるしかありません。
生産性を上げるためには、RPA等のツール類の活用や、そもそもの庁内の情報基盤の刷新も避けては通れません。

一方、ツールの導入のみならず、そもそもの働き方についても、見直しの余地が多分にあります。
子育て等の関係で、時短勤務など、柔軟に勤務時間を決める制度ができつつありますが、大部分の職員は8時半に出勤し、17時15分を定時にする働き方が主流で、忙しい時も暇な時もとりあえず職場にはいる、というがデフォルトになっているはずです。

このままではそもそも行政ニーズに対応するための地盤が崩壊しかねません。
一人当たりでできる仕事の量を増やす(=生産性を上げる)ことは急務であり、それは目の前の非効率な仕事をやめたり、ツールの導入などで効率化することに加え、勤務制度を見直すこともセットで必要になります。
家庭とのバランスをとったり、出先で仕事をしてから直帰したりするなど、それぞれが置かれた状況に応じて仕事のやり方をカスタマイズした方が生産性は上がります。


行政サービスレベルの向上

サービスレベルの向上とは何でしょうか。

行政手続がオンライン化されれば、わざわざ役場に赴く必要もなくなりますので、利便性は上がります。
また、これまでは対面でなければ自治体に相談できなかった案件が、ウェブ会議でOKになったという事例も多いでしょう。これも利便性向上の一例です。
この手の、個別の案件での非効率や不便が解消されることを、私は「狭義のサービスレベルの向上」と呼んでいます。

一方、自治体業務の原点に戻って考えれば、自治体のミッションは「住民の福祉の増進」を図ることですので、これを実現することが究極の「サービス向上」です。
前回の記事に書いたように、この「住民の福祉」の定義は、時代や分野によっても変わるところがあるので、「皆が幸せに暮らせること」と捉えてはどうかと考えています。
これが「広義のサービスレベルの向上」です。

今は色々な理由で幸せに生きることができない人が多いですよね。仕事がない、孤独、病気、子育ての不安、学習機会が不足している等々。
こうした心配事を取り除き、皆が幸せに暮らしていける社会をつくることが、自治体が様々な施策を行うことの目的です。
自治体の総合計画を見ると、各論では概ね色々な心配事に対応するようにできています。
しかし、どうしても自治体では「そもそも論」を議論せずに事業を進めてしまいがちなので、改めて、職員一人ひとりがこの大目標を理解しているのか確認してはどうでしょうか。


課題解決できる組織

広義のサービス向上のためには、「課題解決できる組織」であることが必要です。

自治体は、長らく国から指示されることや法令で義務付けられた仕事をすることに慣れてきました。もちろん自主的な取り組みもあったと思いますが、人材育成の基本は「決まったことをちゃんとやる」ことに今でもあるように思います。
言うまでもなく、これからは前例を見ていては課題解決ができない時代になります。

技術の進歩のスピードに伴う、未知の課題にも対応しなければいけません。
三重県では「空飛ぶクルマ」の実現に向けた実証事業を進めていましたが、実際に空飛ぶクルマが頭上を飛び交うことについては、それを地域住民が受け入れられるのかという地域受容性の観点が非常に重要になります。
しかし、新たな技術の実装にあたり、地域住民とどのように会話をすればいいのか、これは前例がありません。

このためには、人材育成のあり方を根本的に見直す必要があるでしょう。
新たな技術はどのようなものが登場しているのか、活用のメリット・デメリットは何か、といった前提をよく理解しなければ、ソリューションありきの議論がされてしまいます。
例えば、AIについても、AIと名のつくソリューションを盲目的に導入しているなど、どこか「AIに使われている」事例が散見されます。

行政はとにかく内部調整にエネルギーを消費します。
しかし、本来やるべきことは内部調整ではなく、課題解決ですので、地域課題解決ファーストの組織にしていくべきというマインドセットの転換が必要なことも間違いありません。


まとめ

「住民の福祉の増進」という本来の自治体のミッションをこれからも果たすためには、仕事のやり方、働き方を見直しつつ、課題解決型の組織を志向することが必要です。

まとめると、自治体DXに必要なことは「3つのSmart」であると言えます。

①目の前の業務の効率化を進めつつ、自治体とのやりとりの非効率や不便を改善すること:Smart Government
②働き方を見直すこと:Smart Workstyle
③①と②を土台にして、課題解決できる組織を目指すこと:Smart Solutions

行政手続のオンライン化など、個別の施策を「自治体DX」として整理しても、その全体像がわからなければ職員もついてきませんし、何より住民から見た時に、役所がどう変わろうとしているのか伝わりません。手当たり次第進めるのではなく、まずは何を目指すべきなのか、落ち着いて進めるべきでしょう。

このフレームワークを使って施策を整理すれば、関係者にとって腹落ちしやすくなるのではないかと考えていますので、ぜひご活用ください。

次回は3つのSmartの詳細について説明したいと思います。

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