見出し画像

【元三重県副CDOが語る】 改めて考えたい「自治体DX」の本質

コロナ禍が始まって2年以上経ち、どの自治体もDXに邁進しています。

よく聞くのは、「行政手続のオンライン化を進めています」とか、「高齢者がスマホを使えるように研修会をやっています」とかですね。

もちろんそれぞれ必要なことですが、一方で、「自治体DXとは本当にこういうことなんだろうか」と疑問に思ったことはありませんか。

例えば、行政手続のオンライン化は、一昔前に一度チャレンジされてあまりうまくいかなかったのは周知の事実ですから、昔からの議論の延長という気がしてなりません。
高齢者がスマホを使えるようにすることも、それをすることによって何を実現したいのか、という大上段の議論が置き去りになっています。

私は、三重県で2年間、自治体DXの責任者を務めましたが、自治体DXとは「自治体経営がこのままでいいのか」を考えることに他ならないという結論に至りました。

(このnoteにおける掲載内容は私個人の見解であり、会社の立場や意見を代表するものではありません。)

自治体経営の観点から見た自治体DX

自治体経営は、「カネ」と「ヒト」の両面で苦しい状況に陥っていますし、今後益々厳しい状況になることが想定されています。

自治体DXを進めることの背景には、コロナ禍以前から、自治体は経営面に多くの課題を抱えていたことがあると考えています。自治体経営の観点から見た、自治体DXの定義とはどのようなものになるのでしょうか。

カネとヒトの両面で厳しい自治体経営

自治体といっても、東京都から小さな村まで千差万別ですので、一概に経営が厳しいとは言えないかもしれませんが、お金の面(税収減と歳出増)と、組織の面(職員の人数や能力)の両面で、それほどポジティブな要素がないのが実際のところでしょう。

そもそもの人口減少に加えて、日本経済自体が新しい展望を見いだせていないなかで、税収減が予想され、歳出は社会保障関係を中心に増加が続きますし、南海トラフ地震をはじめとした大きな災害がいくつも想定されています。高度成長期に整備されたインフラの更新費用も重くのしかかっています。

自治体行政を支える人材の面でも不安要素を抱えています。
私がかつて在籍した三重県庁では、45歳以上の職員が全職員の約7割を占め、今後退職による大幅な職員数減が予想されていますが、同様に職員の高齢化が進んでいる組織は多いでしょう。

昨今は、公務員人気も陰りが見えます。労働環境が問題視されている中央省庁のみならず、昔なら安定して人が来ていたはずの自治体の採用倍率も下がっています。倍率の低下は、端的に人材の質の低下につながります。

「ヒト」と「カネ」は、自治体経営の根幹を成すものです。そもそも、コロナ禍が始まる以前から、その両面が不安定な状況にあり、自治体経営を根本的に見直す時期に来ていたのですが、コロナ禍を機によりこれらの課題が白日の下にさらされたということでしょう。


自治体DXとの関係

DXの定義については、検索しても色々なものが出てくると思いますが、背景にあるのは、今後急速に進む技術進歩です。

民間企業であれば、技術進歩に伴い変化する市場に対応しないと淘汰される危険があることが、経産省のレポートで指摘されています。

自治体も、こうした環境変化を踏まえて、あるべき姿を模索しないといけないことに変わりはありません。

ここまでを踏まえると、「自治体DX」の定義は以下のようになると考えています。

「これからの急速な技術進歩や社会の変容を見据え、財政や人材などの経営上の困難の解決も併せて、自治体経営のあり方を根本的に見直すこと」


自治体の本来のミッションに立ち戻って「自治体DX」を定義する

自治体経営の観点からの自治体DXの定義を見てきましたが、重要なことは「何のためにやるのか」です。

この大上段の目的を忘れてしまうと、ツールを入れたり、スマホでちょっと手続ができるようにしたりすることばかりが注目され、議論が小さくなってしまう恐れがあります。
そもそも論を押さえ、自治体DXの定義を完成させましょう。


自治体の本来のミッションとは

さて、少々教科書的な話ですが、そもそも自治体の役割とは何でしょうか。

地方自治法によれば、「住民の福祉の増進」とあります。

(地方自治法)
第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。

「住民の福祉の増進」が何を意味するかによりますが、私は、「住民が幸せに暮らせること」ではないかと考えています。

「幸せ」の定義も人それぞれですが、どんな形であれ、皆が幸福に暮らせることに勝るものはないでしょう。自治体は大規模なものから、小さな村までありますが、どんな地域であれ、住民が幸せに暮らしている状況を作り出すこと、これが突き詰めた自治体のミッションであると考えています。


自治体DXの本質

以上を踏まえると、「自治体DX」とは以下のような定義になるのではないでしょうか。

「これからの急速な技術進歩や社会の変容を見据え、財政や人材などの経営上の困難の解決も併せて、自治体経営のあり方を根本的に見直すこと」を通じて、「あらゆる住民が幸せに暮らせる地域を作ること」

この定義からは、デジタルの要素が全くないと思った方も多いでしょう。

そもそも、デジタルはツールでしかなく、裏方です。自治体経営を根本的に見直す際に、RPAなどの新しい技術の活用が必要になりますが、いずれも導入時には多少注目されながらも、「知らないうちに便利になっている」ものが多いはずです。

確定申告においてマイナポータルとの連携が進むなど、徐々にデータ連携による利便性向上が図られていますが、いずれは当たり前のものとして、特に意識せず使われるようになります。

つまり、自治体DXを考える際には、デジタルは裏方で当たり前のように使われるものであることを認識しつつ、「なぜDXを進めないといけないのか」という大上段の議論をすることが何より重要であると考えています。

この議論が抜けていると、どういうツールを導入するかといったソリューションありきの議論が先んじてしまう懸念があります。


まとめ

今回まとめた自治体DXの定義から、必要な要素をまとめます。

①時代にあった組織のあり方、経営のあり方を考えること(デジタルに限らず、必要な改革を行う)
②最新の技術の登場に追いつき、それらを取り入れてどう社会課題解決を進められるかを考えること
③結果として県民の幸せが向上すること(これこそが究極の「住民目線」)

これらの要素は相互に関係します。
まず①を考え、その上で②をどう実現できるかを考えるという順番になるでしょう。①と②が揃って初めて、③が徐々に実現できるようになります。
これからは、③が確立した地域でなければ存続できないでしょうから、こうした自治体には人材も還流し、①・②が維持強化されていくはずです。

民間企業の場合は、DXを進めなければ市場から淘汰されるわけですが、これは実は自治体も一緒です。長期的に見れば①〜③に対応していない自治体は、地域が衰退し、ゆくゆくは自治体組織も崩壊します。

「DXで大事なことは住民目線だ!」と自分も以前から講演の場で言っていましたが、実際のところ、この要素だけでいいのかと腑に落ちていませんでした。
住民目線の話ばかりすると、どうしても「添付書類が減って便利である」とか、「同じ書類を出さなくていい」とか、手続論ばかりになってしまいます。

上記①〜③をセットで理解して初めて、なぜDXをやらなければいけないかが分かります。
実際に時代に合った組織に生まれ変わるためには、複雑に絡み合った課題に対して、一つひとつ立ち向かわなければいけません。

私の記事では、今後各課題について、概要や対応方法などをお伝えしていきたいと思っていますので、ぜひご意見いただければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?