ジョブ理論

ジョブ理論から採用を考えてみる。~製品スペックではなく、ジョブスペックによる採用活動~

▼目次
・顧客はなぜミルクシェイクを買うのか?
・人口統計学的な候補者情報によるセグメンテーションの限界
・【候補者】は【人生/生活/キャリア】において【ジョブ】を解決したい

これまでのnoteでも繰り返し述べてきているように、採用像と訴求メッセージの明確化は、採用活動の最重要項目の1つです。(※そして、それらの明確化が適切かつ十分にできているケースは極めて稀だと思います。)

そうした状況において、イノベーションのジレンマで有名なハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が提唱している「ジョブ理論」の考え方が、非常に参考になるなと思ったので、まとめてみました。

▼顧客はなぜミルクシェイクを買うのか?

ジョブ理論とは、以下のような概念のものです。

顧客が「商品Aを選択して購入する」ということは、「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用(ハイア)する」ことである。

詳しくは、ジョブ理論の原本やイノベーションコンサルティングを手がけるINDEE Japanの津田 真吾さんによる、以下の解説記事を読んでいただくと理解が非常に深まると思いますが、ジョブ理論で必ず出てくる「顧客はなぜミルクシェイクを買うのか?」という事例は、顧客の意思決定に関して、非常に重要な示唆を与えてくれます。

普通、ミルクシェイクを買う理由としては、食後のデザートやおやつといった目的が主に浮かびますが、実はアメリカのあるファーストフード店では、「車での通勤時間の退屈しのぎ」や「休日に子供に買い与えて、優しい父親気分を味わう」ために購入されるケースが多いことがわかったそうです。

そして、上記の記事の中でも引用されていますが、特にポイントだと思うのが、ジョブ理論の中に出てくる以下のセンテンスです。

すべての回答をまとめ、客の人物像を分析したところ、新たなことが判明した。ミルクシェイクを買う人たちのあいだに、人口統計学的な共通要素はなかった。

実際、ミルクシェイクについての顧客アンケートを実施し、新フレーバーやトッピングを追加したり、顧客情報からセグメンテーションを行って対策をしようとしたものの、ほとんど効果が出なかったそうです。

人口統計学的な候補者情報によるセグメンテーションの限界

このミルクシェイクの例で効果が出なかった取り組みは、以下のような形で採用活動にも当てはまると思います。

▼採用活動での取り組みと、ミルクシェイクの例で効果が出なかった取り組みの比較

・新フレーバーやトッピングの追加→「今年から新たにサマーインターンをやろう!」
・顧客情報からのセグメンテーション→「MARCH以上の学生にターゲットを絞ろう!」「難関企業のサマーインターンに行った人限定の企画をやろう!」

もちろん上記のような取り組みが完全に無意味ということではありません。実際、私も採用をご支援する中で、インターンや学歴の話は当然しますし、ペルソナを作る上でも様々なバックグラウンドを考慮しており、実際にそうやって作成したペルソナはかなり効果的です。

ここで言いたいのは、詳細なバックグラウンドまで考慮した採用ペルソナである場合を除き、学歴やインターン参加実績といった思いつきやすいセグメンテーションは、競合ひしめく明らかなレッドオーシャンであることに加え、ミルクシェイクの例が示すとおり、採用においても人口統計学的な候補者情報によるセグメンテーションでは、一般的な認識よりも相当手前で限界が訪れるのでははないか、ということです。

・「頑張っていろいろ活動しているのに、良い候補者にであえない」
・「以前よりも良い候補者に会えているが、自社への引き付けができない」
・「採用過程では高評価だったのに、ミスマッチで早期退職してしまった」

といったお話をよく伺いますが、その原因の1つとして、ジョブ理論が示す「人口統計学的な顧客情報によるセグメンテーションの限界」があるのではないでしょうか。

【候補者】は【人生/生活/キャリア】において【ジョブ】を解決したい

先述のINDEE Japanの津田 真吾さんによる連載の「顧客の解読手法「ジョブスペック」を使おう」では、ミルクシェイクの例を用いて、「ジョブ定義文」という形で顧客のジョブを明文化することが説明されています。

そして、例として、以下のような優れた製品における、「製品スペック視点」「ジョブ」「ジョブスペック」を説明されています。

ここでいう「ジョブ」と「ジョブスペック」を中心とした考え方を、以下のような採用におけるジョブ定義文で、自社の採用活動でも取り入れてみると、自社の採用像と訴求メッセージの明確化の大きなヒントが見つかると思います。

▼採用におけるジョブ定義文
【候補者】は【人生/生活/キャリア】において【ジョブ】を解決したい

そして、この記事の最初に記載したジョブ理論の概念を、採用に当てはめると以下のような形になると思います。

▼ジョブ理論の概念
顧客が「商品Aを選択して購入する」ということは、「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用(ハイア)する」ことである。

▼ジョブ理論の概念を採用に当てはめたパターン
候補者が「企業Aを選択して入社する」ということは、「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAに入社する」ことである。

このようにジョブ理論の概念を採用に当てはめて考えてみると、"製品スペック視点"を中心とした採用活動では、上手くいかないのは明らかです。

以前「会社説明スライドから今すぐ削除するべきスライド5選」の記事で、会社概要や詳細な事業内容のスライドは削除したほうが良いと書きましたが、まさにこれらのスライドは"製品スペック視点"になってしまっている代表例です。

また、「◯◯というランキングで1位を獲得」「Googleの認定パートナーに選出」といった事業上の素晴らしい実績をアピールするケースもよく拝見しますが、これも"製品スペック視点"の話です。もちろんランキング圏外よりも1位であることに越したことはないのですが、こういった話が候補者の志望度を大きく向上させたケースは聞いたことがないです。
※仮に、"製品スペック視点"の話で候補者の志望度が上がったとしても、自社がベンチャー企業の場合は、同業他社の大手企業から更に優れた"製品スペック視点"の話をされて、候補者をひっくり返されるのがオチでしょう。

なかなか一筋縄ではいかない考え方だと思いますが、自社の採用を強化する非常に有効な観点だと思うので、ちょっとした思考実験のような感じで取り組んでみると、良いヒントが見つかるんじゃないかと思います。
※ジョブ理論に関しては、この他にもかなり採用での活用余地があるので、引き続き追加でnoteを書いていく予定です。


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