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【本要約】AIの雑談力

本記事は、2021年2月に刊行されました『AIの雑談力』(東中竜一郎著/角川新書)の要約・解説の記事です。著者は日本における対話AI研究の第一人者である東中竜一郎氏。マツコデラックスをAIロボットで実現するマツコロイドやAIを東京大学に合格させるプロジェクトである「東ロボくん」にも関わっていた方です。
本書は人間と雑談を行うAIについて書かれた本です。
 「なぜ、世界中の企業で雑談をするAIが研究されているのか」
 「雑談するAIはどのように作られるのか」
 「雑談するAIができると世界がどう変わるのか」
こんな疑問に答えてくれる1冊です。

▼アウトライン

本書の結論です。
・AIが雑談を始めたのは社会一員として機能し始めたからである
・雑談は人間社会を形成する上で欠かせないものである
・雑談するAIの実現には高い技術的な課題があり、実現はまだ先にある
・実現すればAIと価値観の共有などが可能になり信頼できるパートナーになる

本書に限らず、AI研究についての本は「人間をよく知る」ことに繋がります。
我々はどのように考え、どのように社会を作っているのかなど、AI研究を通して人間について深く知る事ができ、知的好奇心を刺激してくれます。
また、AIを知ることは全人類にとって今後の人生戦略上マストになっていきます。
しっかりと動向を追っていくためにもぜひご一読ください。

▼なぜAIは雑談を始めたのか

まず初めに、GAFAを初め世界各国の企業がなぜ雑談できるAIに注目しているのかについて解説します。
一言で言うと、「AIが人間社会に浸透するのに雑談が重要だから」です。

人間の会話について調べたある研究では会話総数の60%程度が雑談です。
性別や年齢などによって差はあるみたいですが、それでも会話の半数以上は雑談をしていると言われています。人は多くの時間を雑談に費やしているのです。

▼なぜ、人間は雑談するのか

では、なぜそれほどまでに人は雑談をするのか。
一言で言うと、「雑談が人間関係に重要な役割を果たしているから」です。

雑談の効果をまとめると以下です。

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人間は社会的な生き物であり、人間関係を築くことであらゆることを成し遂げてきました。雑談は人間関係を築く上で重要な役割を果たしております。

最近はこのことを痛感している方も多いのではないでしょうか。
リモートワークなどが当たり前になり、直接会う機会が減りました。初めての方でも、WEB上で会話することが多くなり、なかなか関係性を築くのに苦労している方も多いと思いますが、その一つにこの雑談機会の減少があります。

雑談では、多種多様な会話が行われます。雑談の種類をトピックごとに分けると、「旅行」が最も話題に上がるトピックになります。ただ、それでも全体の0.7%程度に留まっており、いかにバリュエーションに富んでいるかが分かります。

その中には、共通点がたくさん含まれており、相互理解や自己開示の手助けをしてくれます。相手を理解し、理解されるという人間関係における「信頼」の根本に雑談が大いに関係しています。

▼AIはより身近な存在になる

ここまで人間関係の構築に雑談が必要な理由について見てきました。そのままAIにも同じことが言えます。

つまり、AIは社会の一員として信頼され、活躍するために雑談を始めたのです。

今後、AIとの協働は確実に増えていきます。その中で、AIがより社会に認められ、我々の良きパートナーとなれるかどうかは信頼できるAIであるかどうかにかかっています。

これはAIに限らず、人でも同じですが、仕事を安心して任せるには「こいつはこういうやつだ」という”人となり”の理解が重要です。

ある研究ではAIに”AIとなり”とも言うべき背景設定を行い、その背景に沿った発言をさせると、より良い対話になることが知られています。
今後はより個性を持ったAIが現れ、我々はそれをあたかも一人の人格者として扱う日が来るかもしれません。

▼雑談AIの普及ロードマップ

では、雑談AIを含む対話AIはどのように普及していくのか。ロードマップをまとめると以下になります。

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対話AIは大きく分けると、「雑談AI」と「タスクAI」に分かれます。
タスクAIはあるタスク(仕事)を遂行することができるAIです。アップルの「Siri」やアマゾンの「Alexa」、最近だとコールセンターなどでも普及しているものがタスクAIです。

タスクAI、雑談AIでは対話の目的が違うため、必要とされる要素や、それを実現する技術も異なりますが、現状実現できているのは2〜3のレベルの間です。

▼これからのレベル発展のために必要なもの

これからのレベル発展には「共通基盤の構築」が必要になります。
共通基盤とは、自分と相手の両方が理解していると信じている内容のことです。会話はこの土台があって成立しています。文化や年齢が違う人たちで話すと、会話が破綻することがありますが、それはこの「共通基盤」がないからです。

共通基盤の実現には以下の技術が必要です。

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これらの技術を進歩・統合していく必要があります。
今、音声認識界隈では、まだ要約機能が不十分とされていますが、このあたりの技術が発展すれば、自然な要約も可能になってくると思われます。

▼意図・欲求をもったAI

共通基盤と並んで、必要なのがAIの「意図・欲求」です。なぜなら、将来的に人間と協働するためには価値観を共有していく必要があるためです。

価値観を共有するためには、「お前は何がしたいの?」に答える必要があります。そのため、システムであっても意図や欲求が必要になります。

ただ、意図や欲求を持ったシステムが街中に溢れると、人間が意図しないことや問題が発生する可能性があるため、法整備や倫理面の問題なども議論されています。

▼まとめ

今回は、「AIの雑談力」を要約・解説して参りました。

人間社会を作る上で雑談がいかに重要で、AIが社会の一員になるためにも非常に重要な点であることが分かりました。
また、技術面や実際の社会に浸透していく際の課題など、問題は多々ありますが、実現すれば、信頼できるパートナーとして大いに人の役に立つものであることも分かりました。

まさに、「のび太くんにとってのドラえもん」「アイアンマンにとってのフライデー」のような映画やアニメの世界に向けて、歩んでいる状態です。

最後に、総括した感想と補足としては、
【AIを学ぶことは人間の能力を向上させること】
ということを挙げさせていただきます。

【AIを学ぶことは人間の能力を向上させること】
私がAI分野に関わることや知っていく上で面白いと思うのが、「AI研究の進歩が人間の解明に繋がっている」ということです。

そもそも、AI研究という分野は「人間とは何か」に向き合う分野です。

そして、AI研究のおもしろいところが「観察や分析」から解き明かすのではなく、「作ってなんぼ」で解き明かしていくことです。これを構成論的アプローチと言います。人間の脳は今、分析的にアプローチする「脳科学」の分野と、構成論的にアプローチする「AI研究」の分野によって、解き明かされています。

まだまだ、解き明かされていないことが人間にはたくさんあります。今回の本では、人間の言葉とコミュニケーションについて深く考察されております。

人間の対話能力というのは凄まじく、相手の表情や身振り手振り、雰囲気などで感情を読み取ったり、相手の状況やバッググランドを理解して、相手の発言の「意図」を汲み取ります。

これには認知系の能力(聴覚、視覚、嗅覚、触覚など)を統合し、さらに自身が持つ過去の経験知や相手の情報が必要になりますし、加えて、”自身が発言すべきか”というような自分の状況やキャラクターまで加味して発言します。

これをAI的に実現しようとすると、途方もない高度な技術が必要です。それを何気なくやってのける人間の凄さに驚かされます。

しかしながら、雑談のようなものはそれゆえに体系化が難しく、ノウハウ本などが毎年刊行され、その度にベストセラーとなっています。これは雑談の重要性を感覚的には理解しているものの、どうすればいいか分からないという悩みを持たれた方が多いからだと思います。

雑談AIの実現に向けた研究が進めば、雑談の構造や”正解”がもう少し判明されていくのではないかと私は思います。今、最もホットな研究分野はAIなので、最新の情報を追っていけば、自身の雑談力を向上させるためのヒントもあるのではないかと思います。

つまり、下手な雑談ノウハウ本よりも、雑談AIの理解の方が自身の雑談力を向上していくためには役立つのではないかと思います。

このように、AIを理解することは人間を理解することであり、それが人間の能力を今後高めていくものではないかと思いました。

補足は以上です。

今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。

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