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社会人の米国経済学Ph.D.受験記〜出願準備編〜

八下田聖峰(やげた・きよたか)
カリフォルニア大学バークレー校経済学部博士課程


1. はじめに

本稿は、2021年に一般的な企業でフルタイムの正社員として(つまり社会人として)働きながら、米国の経済学博士課程(Ph.D. in Economics)に出願をした際の経験をまとめたものです。

過去にも先輩方が有用な情報を残しておられますが( たとえば「経済学PhDに関する有用なリンク」)、本稿では特に以下の情報をまとめている点で、少しばかりの貢献ができるのではないかと考えています。

  • 2019年度から2021年度の間に出願された方々からの情報

  • 出願に必要な各種書類や手続きや一般的な準備、有用な情報源

 海外の大学院(MBAやTerminal Masterなどの修士課程のみで終えるプログラムとの混同を避けるため、以下では「海外Ph.D.」と表記します)を目指すにあたって、成績が大事なのはもちろんですが、出願や奨学金に関する情報が大事であることも間違いないと考えています。自分は幸運なことに、周囲の出願経験者や先生方から比較的簡単に情報を収集できる恵まれた環境にいましたが、そうでない場合は情報が集めにくいことでハンデを被ってしまうことになります。

決して海外Ph.D.に合格すること自体がゴールではありませんが、私は周囲の方々の多大なサポートのおかげで無事合格することができたので、その恩返しの意味も込めて、少しでも将来の受験者の皆さまに還元したいと考え、本稿を執筆することにしました。

ご留意点

なお、本稿は「一般的に、出願の際に合格率を上げるためにはどうするのがよいとされているか」を中心に、私の経験に基づいてまとめたものです(あくまで個人の意見であり、所属機関等の代表的意見ではないことにご留意ください)。また、情報提供のみを目的としており、決してこれらを推奨するものではありません。当然のことながら、本稿で紹介した方法は海外Ph.D.の合格を保証するものではありませんので、この点はご留意ください。

なお、出願後から実際に渡米するまでのさまざまな準備については、続編となる以下の記事にまとめています。本記事とあわせて、ぜひご覧ください。

2. 自己紹介

私は、2021年に海外の経済学大学院を受験し、2022年夏からカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley;以下「UCバークレー」)の経済学Ph.D.に進学することになりました。

 2018年に東京大学経済学部を卒業し、2020年に同大学大学院経済学研究科修士課程を修了しました。その後、2020年4月から2022年3月までの2年間は、平日はフルタイムで社会人として働きながら、同大学大学院経済学研究科の博士課程に在籍して研究していました。さらに詳しい情報は私のホームページに掲載していますので、もしご関心があればご覧ください。

3. 出願の記録と結果

私は、図表1に示した8つの大学の経済学Ph.D.コースを受験し、アリゾナ大学(Arizona)とUCバークレーの2校から奨学金付きの合格オファーをいただきました。

図表1 出願校と結果

 私の場合は行動経済学に関心があり、Ph.D.での研究分野をそれに定めていたことから受験校は比較的少なかったのですが、10~20校程度に出願するのが一般的なようです。出願準備を始める前から、周囲の友人や先生方からは「出願の結果は運による部分も大きい」と言われていましたが、自分で出願してみて改めてその言葉を実感することができました(すでに圧倒的によい成績、優れた研究業績を持っている場合はその限りではないと思いますが)。また、準備段階では3校くらいは合格できるかなと甘い見通しを立てていました。

以下では、私の出願時のスケジュールや各種書類等の準備、出願を終えて感じたことなどを具体的に述べていきたいと思いますが、正直なところ何が合格につながったのか明確にはわかりません。ただ、自分としてここは良かった、ここは悪かったなど、振り返っていろいろと感じていることはあるので、それらの点が将来受験を考えている皆さまに少しでも参考になれば幸いです。

4. 出願までのスケジュール

2020年3月に修士課程を修了してから2021年末に出願するまでの約1年半のスケジュールを、図表2にまとめています。ただし、以下の2点にご留意ください。 

  • 会社勤務を始めてから1年後の2021年4月に海外Ph.D.出願を決意したため、2020年は出願準備とは無関係です。そのため、2021年4月から出願準備を開始という形でご覧いただければと思います。

  • 2020年から博士課程で毎学期1コマの授業を履修していますが、これは会社から学費を一部サポートいただく条件として、毎期2単位 以上(評定B以上の成績)を取得する必要があったためです。

 図表2 出願スケジュール

5. 出願に必要な各種準備について

5-0. 筆者の出願時情報

5-1項からは話が長くなるので、出願に関する情報の概要はすでに知っていて、私がどういう背景で出願に臨んだかのみを知りたい方は本項をご参照ください。なお、履歴書(Curriculum Vitae: CV)とエッセイ(Statement of Purpose: SoP)については個人情報が多いため、ここでは割愛します。
 
英語や学部の成績についてはここに明記するのはかなり恥ずかしいのですが、ご覧いただいた方の中のどなたかの希望になればと思い、公表しています(とはいえ、早いうちからしっかり勉強した方がよいと思います)。

  • 学部・大学院の成績: 

  • Writing Sample修論の一部(出願前にJapanese Economic Reviewに掲載済み。詳しくは後述)

  • 推薦状:以下の先生方に推薦状をお願いしました。

    • HI先生:学部ゼミ、学部指導教員、「計量経済学II」受講、「計量経済学I、II」のティーチングアシスタント(TA)、1~2年生向けオムニバス経済学講義の企画など

    • YS先生:学部ゼミ、修士指導教員、トピックスコース受講、リサーチアシスタント(RA)やTA複数など

    • AM先生:学部ゼミ、「ミクロ経済学II」「経済学のための数学」受講など

  • TOEFLスコア:トータル 99(Reading 28、Listening 25、Speaking 21、 Writing 25)

  • GREスコア:Verbal Reasoning 142(上位84%)、Quantitative Reasoning 170(同4%)、Analytical Writing 3.5(同63%)

  • 外部奨学金

5-1. 授業と成績

出願において重要なのは、やはり成績です。そこで、ここでは出願時に特に重要とされている順番、(1) 修士課程:コア科目、(2) コア科目取得以降:数学、(3) 学部、に沿って詳しく述べていきたいと思います。

(1) 修士課程:コア科目
学部卒業後に海外Ph.D.に直接進学される方もいらっしゃいますが、少なくとも経済学の分野ではかなり少数派です。基本的には、修士課程を修了してから海外Ph.D.に出願するという流れが最も一般的だと思いますので、本稿ではこれを前提にお話しします。

経済学の修士課程では座学が基本です。修士1年(M1)でミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学を中心とする、その後の学習・研究の基礎として位置づけられている「コア科目」という授業を受講し、修士2年(M2)ではその他授業と修士論文の作成を進めていきます。

東大のコア科目については、以下のホームページに詳しくまとめられています:KoHarada氏ブログ「東大経研(経済学コース)に入学する方への情報提供」。

最近は、トップスクールのPh.D.入学を目指す場合には、コア科目オールAは当たり前であり、そのうち何個A+があり、成績がクラスで何位かというところで競争が発生しているようです(もちろん、コア科目の成績が悪かったら留学ができないなどということはありませんのでご安心ください)。

また学部から東大に在籍している場合、最近では学部在籍中に大学院のコア科目を履修する人も多いようです。私が学部生だった頃は、特に優秀な学部生数人だけがコア科目を受けているという印象でしたが、最近では結構一般的になってきているという話を聞きます。コアを早く受ければその分だけ早く留学できる可能性があったり、東大では「先端経済国際卓越大学院プログラム」という奨学金制度もあるので、学部生のうちから受講するメリットはありますが、そうしたメリットが特に大きくない方々にとっては、周囲に流されて早いうちにコア科目を履修すると痛い目に遭ってしまう可能性もあるので、急いで履修する必要はないのではないかと考えています。

とはいえ、私の経験としては、可能ならば授業を聴講する、あるいは得意な科目だけ学部のうちに受講することはかなりプラスだと思います。私の場合、学部在学時は計量経済学に興味を持っていたため、周りの友人に流されるままに学部4年春学期に「計量経済学I」と「マクロ経済学I」を、秋学期に「計量経済学II」と「ミクロ経済学II」の授業を履修しました(「ミクロ経済学I」と「マクロ経済学II」は難しく、早々に撤退してテストを受けませんでした)。その結果は、「計量経済学I」がA、「マクロ経済学I」がB、「計量経済学II」がA+、「ミクロ経済学II」がB、というものでした。当時は計量経済学以外の科目の成績が良くなくて凹みましたが、大学院進学後にもう一度受講するチャンスもあるので、よい予習になったと思います。

そして、修士1年のときに学部時はテスト未受験あるいは成績Bだった「マクロ経済学IとII」、「ミクロ経済学IとII」を受講し直し、「マクロ経済学I」と「ミクロ経済学II」はA+に塗り替えることができました(運が良かったという要素もあると思います)。また、学部時にテスト未受験だった「マクロ経済学II」「ミクロ経済学I」の成績はAでした。
 
学部生の時点でA+をとる、あるいはクラス内で高い順位をとる自信がある場合はまったく問題ありませんが、そうでない場合は、個人的に「学部時A<修士時A+」だと思っています。そのため、戦略的にコア科目を受講するという選択肢を頭に入れておくとよいのではないかと考えています。

とはいえ、授業を通じて先生方に優秀だと思っていただければTAやRAの仕事が得られるなど、よい機会をいただける場合もあります。そのためには、授業でよい成績をとるというのが基本的に一番手っ取り早いと思うので、得意な科目で早めに良い成績をとっておくのが望ましいかもしれません。実際、私は「計量経済学II」がA+だったことから、HI先生の計量経済学の授業のTAをすることになりました。

(2) コア科目取得以降:数学
コア科目を終えた修士2年以降は、基本的には自分の興味に関連する専門分野の授業(トピックコース)を受講していくことになりますが、海外Ph.D.出願において合格率を上げるためには、数学の授業で良い成績をとることが望ましいと言われています。

実際、スタンフォード大学やハーバード大学などのトップスクールでは、成績証明書(Transcript)とは別に、数学の授業の成績のみをExcelなどにまとめたものの提出を求められました。また、ペンシルベニア大学では図表3のように、ホームページ上で数学の前提条件について明記しています。


図表3 数学の前提条件について:ペンシルベニア大学
(「Admissions Information to the Ph.D. Program in Economics」、ペンシルベニア大学ホームページより)。

そのため、出願を検討している人は数学の授業を受講することも多いです。分野間の関連は考慮せず、私の周囲の方々がよく受講していた例としては、(1) 微分積分 (Multivariable Calculus)、(2) 確率論(Probability Theory)、(3) 統計(Statistics)、(4) 線形代数(Linear Algebra)、(5) 集合位相論(Set Theory and Topology)、(6) 実解析(Real Analysis)、(7)測度論(Measure Theory)、などが挙げられます。(1)~(3) は学部の必修などで履修済みの場合が多いと思うので、学部レベルの必要最低限の内容は理解している必要があります。(4)~(6) は必須というわけではないですが、線形代数と実解析は出願にあたって大学から求められている場合が多いです。(7) はプラスアルファという位置づけになるかと思います。

(3) 学部
よく、「学部の成績は出願後の合否にどの程度影響しますか?」という質問をいただきます。私自身もどの程度重視されるのかは定かではありませんが、コア科目や数学の成績ほどは重視されないのではないかと考えられます。

恥ずかしながら、学部生当時の私は大学入学をゴールだと思ってしまっていたこともあり、学部1、2年生の間は勉強に身が入らず、その結果1、2年時のGPAは3.07/4.00でした。理系で入学したのですが、理系の多くは修士課程に進学する人が多い一方、私は大学院進学を希望していなかったこともあって、学部3年時に経済学部に文転しました。しかし、そこで経済学がおもしろいと感じるようになり、本腰を入れて勉強し始めたのですが、1、2年時の成績の影響で、学部トータルのGPAは3.29/4.00という結果となってしまいました。この結果を見れば、学部時点の成績(GPA)が良くなくても受からないことはない、ということはおわかりいただけるのではないかと思います。ただし、良い成績をとっておくに越したことはありませんのでご注意ください。

とはいえ、学部1、2年のうちから海外Ph.D.進学を意識して一生懸命に勉強するのは、いろいろとしんどいと思うので、必ずしもおすすめはしません。勉強以外のことも含めて、幅広い見聞を得るのも重要だと思います。ただ、英語、数学、プログラミングについては、早い段階からしっかり勉強しておけば後でもっと楽だっただろうなと、今になって友人とよく話しています。

5-2. 論文(Writing Sample)

出願時には「Writing Sample」という項目で、"任意" で論文を提出することができます。ただし先ほども述べたように、経済学修士課程ではコア科目などの座学がメインとなるので、出願する時点で学術雑誌に掲載された論文を持っているケースは非常にレアだと思います。また、経済学では、学術雑誌掲載の可否を審査する際の論文の査読に時間がかかることで有名です。そのため、自分の論文を学術雑誌に投稿している最中であったとしても、出願までに結果が出ていないケースも多いでしょう。そのため、基本的には修士論文や学部の卒業論文を改訂したものをWriting Sampleとして提出する方が多いです。

ただ、私のように修士課程修了後に国内の博士課程に進学して出願までに時間が空くような方は、修士を終えて半年から1年程度かけて、修論などを学会で発表しながらコメントをいただき、論文を改訂しつつ学会経由で経済学雑誌に投稿するという手があります。私の場合は、2020年3月に修士課程を修了した後、同年5月に日本経済学会でポスター発表を、同年12月に行動経済学会で口頭発表を、2021年3月にInternational Workshop for Lab and Field Experimentsで口頭発表をしました。当初は3つ目の学会に参加する予定はなかったのですが、この学会では、"Selected papers will be published in Japanese Economic Review" という文言が記載されていたので投稿してみることにしました。すると非常に幸運なことに、2021年9月に修論の一部がJapanese Economic Review(JER)に掲載されることになりました。

 Yageta, K. (2022) “Watching, Being Watched, and Human Interactions: Evidence from Trust Games,” Japanese Economic Review, 73(1): 61-82.

https://link.springer.com/article/10.1007/s42973-021-00087-7

出願時に単著のパブリケーションを持っていることは出願の際にプラスになると思いますし、JER以外の学術雑誌の場合でもこうした可能性はあるようなので、探してみるのもよいかもしれません(ただし、たとえばトップの学術雑誌掲載を希望している場合はその限りではありません)。

5-3. 推薦状

「推薦状が最も重視される」と言われる方がいるくらい、推薦状は非常に重要な要素です。私は幸いなことに、5-0項に挙げた3名の先生方に推薦状の執筆をご快諾いただくことができましたが、先生方はいつも非常に忙しくされているので、推薦状をお願いする際は可能な限り早い段階で相談するようにしましょう。もし、執筆をお引き受けいただけたとしても、先生によっては提出できる学校数の上限にかかるケースもありうるので、この点などについても事前によく確認しておく必要があるでしょう。

どの先生に推薦状をお願いするかを考える基準としては、自分のことをよく知っていただいていることは前提として、その方の授業でよい成績をとっていたり、RAなどの機会で自分の優秀さをアピールできているような方がより望ましいと思います。経済学分野の場合は、推薦状の内容を私たちが確認する機会は基本的にありません。体裁や力点の置き方など、どのように書かれるかは先生によって異なるようで、成績を重視される方もいれば、成績をまったく見ない方もいるようです。奨学金の応募や実際の海外Ph.D.出願時など、推薦状が必要となる場面はたくさんあります。先生方は非常にお忙しいので、ご迷惑をおかけしない程度にリマインドすることも大切です。

5-4. TOEFL

はじめに断っておくと、私は英語に関して自信がなく、偉そうなことを言える立場ではありません。そのため、私のことを反面教師に皆さんには頑張っていただきたいと思います。

というのも、修士課程出願時(2017年夏)にTOEFL iBT(以下、TOEFL)のスコアを提出する必要があって受験したのですが、その際のスコアは確か60点台だったと記憶しています。確かに、あまり準備をせず受験したのですが、特にListeningは10点だったと記憶しており、とても苦手意識がありました。また、TOEFLは非常に高額です(1回約3万円弱)。後で詳しく述べますが、私は出願にあたってかなり頻繁に複数回受験をしたのですが(「TOEFL ガチャ」と呼んでいます)、そうすると多額の費用が必要となります。私の場合、社会人時代は家賃の次にTOEFLにお金をかけることになってしまいました(出願時の費用については5-10項でまとめています)。

また、海外Ph.D.出願にあたって必要なスコアは、暗黙の了解として「100点以上」とされています。さらに最近は、「100点では足りない、110点は欲しい」と言われることもあるので、最低ラインは100点、できれば110点以上を目指すという意気込みで臨んだ方がよいかと思います。非常に恥ずかしくはあるのですが、図表4に示した私の出願時に受験した全9回分の成績に基づいて、第4節で触れたスケジュールや利用した教材、その経験を通じて得た教訓を紹介していきます。 

図表4 TOEFL受験履歴(2021年)

なお、前掲の図表2にある「シャドーイング」は私が社会人時代に英語がわからなさすぎて始めたものであり、必ずしもTOEFL対策というわけではないのでここでは割愛します。

出願を真剣に考え始めた2021年始から英単語の勉強を開始しました。TOEFLを受験した経験のある方はご存知だと思いますが、TOEFLでは単語が最も重要だと言っても過言ではありません。私の周囲のTOEFL受験生は、ほぼ全員が『TOEFLテスト英単語3800(4訂版)』(神部孝、旺文社、2014年)を使って勉強していたと思います。

私は先輩のすすめもあって、上記の単語帳の英単語を中心に「Anki」というアプリに登録し、これを活用して単語を暗記していました。ただ、単語の登録作業が非常に面倒だったので、ご参考までに私が使っていたものを私のGitHubのリポジトリにアップロードしています(約3300単語)。とても汚くて使いにくいかもしれませんが、よろしければご活用ください。なお、インポートの仕方はAnkiのマニュアルをご参照ください(第6節にリンクをまとめて掲載し直しているので、そちらもご覧ください)。

ある程度単語を覚えてきたなと思った段階で力試しの意味も込めて受験してみたところ、確かに受験慣れしていなかったという要因はありますが、出願に必要とされるラインには全然届かない77点でした。この結果を受けて、以下のような実践演習を開始しました。

(1) Reading対策
中国語の演習サイトでひたすら問題を解きました。

(2) Listening対策
はじめは「TPO TOEFLリスニング-TOEFL Plan」というアプリで勉強していましたが、収録されている問題を解き終えてしまったので、Readingと同様のサイトの問題を解きまくりました。

(3) Writing対策
お題があれば何でもよいと思いますが、私は『TOEFL iBT TESTライティングのエッセンス』(Z会編集部編、Z会、2015年)を用いて練習しました。Writingは2つのパートに分かれており、前半が要約問題、後半がエッセイのようになっています。私の場合は、いろいろなウェブサイトから要約問題のテンプレートをかき集め、それらを参考に自分なりのテンプレートを作成してからはスコアが24以上で安定しました。必ずしもテンプレートを作ることが良い方法というわけではありませんが、1つの例としてご検討ください。

(4) Speaking対策
当初は『TOEFL iBT TESTスピーキングのエッセンス』(Z会編集部編、Z会、2015年)を買って勉強しようとしましたが、恥ずかしながら実際にはあまり勉強できていません。本当は勉強するべきだったのですが、Speakingの問題を見て、「自分はこんな問題、日本語でもできないな」と感じてしまったことと、仕事でそれなりに英語を話す機会はあったので、Speaking対策は結局あきらめてしまいました。ただ、Speakingのスコアが低いと、海外Ph.D.に合格できたとしても入学後に英語の授業や試験を受ける義務が課されたりするので、しっかり準備しておくほうがよいと思います。

上記の (1)~(4) の実践演習を積んでから再チャレンジしてみたところ、今度は93点をとることができました。この時点ではかなりうれしかったのですが、その後の経験をふまえると「90点を超えてからが本番」だと感じています。特に、95点を超えるまでに壁1つ、100点まではさらに厳しく壁が3つくらいありました。

2021年受験時はコロナ禍であったため、自分は自宅受験(Home Edition)というタイプの方法で受験しました。実際、自宅で受けられるのでコロナに罹患する心配もなく、慣れ親しんだ静かな環境で受験できるなど、さまざまなメリットもあったのですが、個人的には試験会場で受験することをおすすめします。というのも、以下に述べるような多くのデメリットがあったからです(ただし、あくまで個人の感想、かつ2021年時点の情報です)。

最も大きなデメリットは、試験が行えない可能性があるという点です。Home Editionでは、TOEFLを運営するETSではなく、サードパーティの管理のもとで受験することになります。そこでは、受験者1人に対して試験監督が1人つき、彼・彼女とパソコンのビデオをオンにしながら受験する形となります。私が例外なだけかもしれないのですが、結果的には試験監督にかなり振り回されてしまうことになりました。試験監督が試験開始の定刻に現れずに試験を始められなかったり、Listening中に音を出されたり、さらにはReading、Listening終了後の休み時間から戻ってきたら試験監督がいなくなっていて、残りのWritingとSpeakingの試験を再開できなかった、などといった問題がありました。

事情をETSにメールで説明すれば無料で再受験できるのですが、それには時間と手間がかかります。図表4で示した受験スケジュールに期間が空いているところがあるのは、これが原因です。おおむね2、3回に1回は何かしらのトラブルで受験することができませんでした。

結局、最終スコアは2021年9月19日受験の99点でした。言い訳になってしまうのですが、スケジュール的にはそれ以降もTOEFLを受けられるタイミングはあって、実際に受験はしていたものの、2回連続で受験ができず、さらに最後の1回はこれまでにないくらいReadingとListeningがよくできたと感じた中で(ただし、かなりバイアスがかかっていると思います)、上で述べたような休憩後の試験監督の失踪というトラブルに遭ってしまったため完全に気持ちが切れてしまい、それ以降は受験を断念してしまいました。

なお、2022年時点のTOEFLには過去2年間の自分のセクションごとのベストスコアを組み合わせて提出できる「MyBest Scores」という制度があり、この基準では100点を超えていたために私は受験をやめてしまいましたが、大学によってはMyBest Scores制度を採用していないところもありますし、TOEFLが100点を超えていないと足切りされる可能性も大いにあるので、通常の方式で最低100点はとれるように準備するのがよいと思います。

また、私は平日はフルタイムで仕事をしていたために土曜・日曜しか受験することができませんでしたが、個人的には可能な限り短期間に集中して受験することをおすすめします。あくまで私が9回受講した際の個人の経験談ですが、一度受験してから次の機会までに時間が空いてしまうと中弛みしてしまったりして、スコアがいったん落ちてしまう傾向にありました。

以上、長くなってしまいましたが、出願にあたってTOEFLを受験して得られた教訓は、以下のようにまとめられます。 

  • 英語に苦手意識のある者にとってTOEFLは苦しいので、覚悟を決め、早めに取り組む

  • Home Editionでの受験は慎重に検討する

  • ある程度短期間で集中して複数回受験する

ただし、これはあくまで英語が得意でない私が得た教訓なので、英語の得意な方々は早めに勉強を始めて少ない回数で100点以上のスコアをとることを目指されるとよいと思います。 

5-5. GRE

TOEFLと同じく、英語に苦手意識のある私が述べるのはおそれ多い面もあるのですが、ここも1つの経験としてご覧いただけたら幸いです。海外大学院受験者は、TOEFLに加えてGRE(分野によってはGMAT)という試験を受け、スコアを提出する必要があります。これらは英語ネイティブの方にとっても難しい試験のようです。日本人で言えば、たとえば漢検(日本漢字能力検定)1級(?)のようなものをイメージしていただくとよいと思います。

GREは、(1) Verbal Reasoning、(2) Quantitative Reasoning、(3) Analytical Writing、の3パートに分かれています。順番に、「単語」「数学」「ライティング」の試験だと思っていただければ、おおむね問題ありません。以下では、それぞれについて順番に紹介します。

(1) Verbal Reasoning
これは非常に難しいです。たとえば、文章が1つあって文章内の空白を埋める単語を選ぶという形式の問題がありますが、たった1つの文に知らない単語が2、3個あり、さらに選択肢にある単語も知らないものばかり、という状態です。

ただ、GREのVerbalは非常に難しいため、合否の判断には影響しないのではないかと言われることもあります。実際、各大学のサイトでも、「VerbalよりQuantitativeを重視する」といった文言が書かれていることがよくあるので、的外れな噂ではないのかもしれません。ただし、合格のボーダーラインに成績も実績もほぼ同じ2人がいてVerbalの成績だけが異なる場合には、Verbalのスコアがより高い方を合格とするのは当然のことなので、可能な限り努力するべきだとは思います(実際、日本以外のアジアの受験生たちはほぼ満点をとる人もめずらしくないようです)。また、GREのVerbalで覚えた単語は、その後論文を書く際にも間違いなく有用なので、頑張って取り組んでおいてまったく損はないと思います。

そうは言っても出願に必要な要素は他にも多いので、日本人の場合、これは最低限の努力でとどめている方が多い印象です。私の周囲では、一応150/170が最低ラインだと言われていました。私も例に漏れず、Verbalの勉強の時間はほとんど確保できませんでしたが、「iKnow!」というアプリを利用して勉強していました。有料でややお金がかかりますが、今後も活用機会があると思い「生涯プラン」というものを購入して活用しています。

(2) Quantitative Reasoning
これは中学校レベルの数学の問題を英語で解いていくイメージです。Verbalとは異なり、GREで最も重要な項目だと言われています。基本的には170/170、つまり全問正解が求められます。日本人にはこうした試験が得意な人が比較的多く、実際に苦労している人はあまり見られませんが、1問もミスできないというのはかなり大変です。

まず重要なのは、数学関連の英単語を覚えることです。私は先ほどご紹介した「Anki」を利用して暗記していました。TOEFLと同じく、私が利用していたものはGitHubリポジトリにアップしていますので、もしよろしければご利用ください。

 (3) Analytical Writing
これは2つの部に分かれており、前半は文章の議論に対して論理の穴などを指摘していく問題で、後半はエッセイです。形式はTOEFLのWritingと似ていますが、もう一段階難しくしたような試験です。私の周囲では、合格のための最低ラインは3.5/6.0と言われていました。私の場合、1回目に受験した際は3.0でしたが、TOEFLのWritingと同じくいろいろなサイトからテンプレートをかき集めて自分なりのテンプレートを作成したうえで再受験したら3.5にアップしました。

5-6. 奨学金

次はお金の問題です。留学するにあたって、このお金の問題は絶対に解決しなければならないものなので、ここで詳しく述べておきたいと思います。

海外MBAや修士課程のプログラムについては、1~2年間の留学資金を私費で賄っている方もいらっしゃるかもしれませんが、海外Ph.D.留学の場合は学位取得までに5~6年もの年月がかかるため、私費留学は不可能な場合が多いと思います。私の知る限り、日本人が米国Ph.D.に進学する際にかかる平均的な学費は年間300~400万円程度と言われており、その他の生活費等も考慮に入れると、数千万円は投資しなければなりません。

ただ、MBAや修士課程のプログラムとは異なり、海外Ph.D.留学の場合は、大学から奨学金付きの入学許可をいただくことが一般的です。海外の経済学Ph.D.の場合、1学年10~20人程度が一般的だと思いますが、おそらくほぼすべての入学者が5~6年間にわたって何らかの奨学金付きの入学許可を大学から受けていると思います(とはいえ、これらはそのときの経済状況や大学の資金状況に大きく依存するので、必ずこれが当てはまるわけではありません)。

大学から給付される奨学金の内訳は、基本的に、(1) Stipend(対価なしの返済不要奨学金)、(2) Salary(TA業務の対価)、(3) Others(学費や保険などの費用)、に分けられます。住む場所や大学などによって大きく額は変わりますが、これらの給付が受けられれば、ひとまず5~6年間暮らしていけるお金を確保することができます

しかし、上で述べた通り、大学に合格したとしても、十分な奨学金付きの入学許可をもらえるかどうかは別の問題です。そのため、主に以下の2つの理由で、私の周囲には日本の財団などからいただける奨学金(ここでは「外部奨学金」と呼びます) に応募している方が多い印象です。 

  • 大学から奨学金付き入学許可がもらえなかった、あるいはもらえたとしても金額が少なかった際の補填のため

  • 外部奨学金をもらっていることで優秀さのアピールにつながるため

 1点目は当然のことで、大学から入学許可を頂いた場合にお金がなくて留学できないといった事態に陥らないようにするためです。実際、私の前年度(2020年度)に出願した方々からは、当時はコロナの影響でどの大学でも奨学金の原資が少なく大学からの支援額が少なかったけれども、外部奨学金に支援していただけたおかげで留学できたといったお話も聞きました。

2点目はやや不確かな情報ではありますが、外部奨学金を得ている受験生は、そうでない受験生より試験に合格しやすいという話を聞いたことがあります。そもそも外部奨学金自体の倍率がかなり高いので、そこから合格を得ているということは確かにその学生の優秀さの証左になりますし、大学としても奨学金給付のための支出が減少するのは嬉しいことなので、成績等の他の条件が同じ学生なら、大学の支出が少なくて済む学生を合格させるというのは自然の流れだと思います。

それでは、実際どのような外部奨学金団体があるか、ここで少しご紹介します。より詳細には、たとえば「XPLANE 海外大学院向け奨学金データベース」で調べるのがおすすめです。出願時は知らなかったのですが、海外の経済学Ph.D.に留学している方々が受けている奨学金は、ほぼすべてこのデータベースに網羅されていると思います。この中から応募資格のある奨学金を探して応募していくのがよいでしょう。

私の場合は、フルタイムの仕事をしながら多くの応募準備をするのが難しかったことと、社会人であるため応募資格がやや限られていたことから、結果的には5-0項に挙げたように5つの奨学金に応募しました。私の周囲では、10個程度は応募している人が多い印象でした。

以下では、自分が受験した5つの奨学金について述べていきます。

(1) フルブライト:合格 ⇒ 辞退
フルブライト奨学金の大学院留学プログラムについては、大学から奨学金付きの入学許可が得られた場合は合格しても辞退する予定で受験し、結果的に辞退しました。フルブライト奨学金では、他の奨学金と異なり、ビザの関係で2年間自国滞在義務が発生するためです(詳細は「フルブライト奨学金FAQ」のホームページなどをご覧ください)。私の周囲では、この制約があるためにあえて応募しなかったという方も少なくありません。

ただし、先延ばしをしがちな方や社会人の方は戦略的にフルブライト奨学金を受験するのもよい選択肢ではないかと感じました。基本的に多くの奨学金の応募書類の締切は7~9月に集中しており、提出すべき書類も膨大です。また、この時期までにTOEFLなどのスコアを揃えられていない場合はそれらに時間を割く必要が出てくるため、膨大な提出書類の作成などが困難になり、いくつかの奨学金に応募できなくなるような事態が発生するかもしれません。それに対して、フルブライトは一次選考(オンライン登録)が5月末にあるため、7月末締切の本選考よりも量は少ないものの、研究計画書などの書類をその段階で提出しなければなりません。奨学金応募の際に提出する研究計画書などの書類はある程度使い回し可能なので、5月末に応募する際に雛形をつくっておくことができれば、後々の応募の際にかなり楽になると思います。

フルブライトの選考では英語で面接が行われます。そこで個人的に驚いたこととしては、面接の最初に自己紹介をした際に、面接官の方から「TOEFLの点が低いのに英語がうまいね」と言われたことです。そのときは、嬉しいやら悲しいやら何とも言えない気持ちになりましたが、TOEFLの点をしっかり見たうえで、さらに面接でしっかり英会話の技能をチェックされているのだろうと感じました。

先ほども述べた通り、結果的には奨学金を辞退することにしましたが、財団の方は時間をかけて審査してくださるので、もし辞退する場合は感謝の気持ちを込めつつ、可能な限り早めに連絡するのが望ましいでしょう(それにより、他の誰かが奨学金を得られる可能性もあるので)。

(2) 中島記念国際交流財団:補欠合格
中島記念国際交流財団の奨学金は、金額も含めてかなり待遇がよいので多くの方が受けている印象です。詳細は、財団のホームページをご覧ください。

(3) 船井情報科学振興財団:書類落ち
船井情報科学振興財団の奨学金もかなり待遇がよいので、多くの方が受けている印象です。ただ、こちらは経済学の分野だけに絞ると、毎年合格者1人程度という狭き門です。私の主観ですが、毎年この奨学金に受かる方は非常に優秀な方ばかりです(私と同じ年度の合格者はマサチューセッツ工科大学に進学されています)。

(4) 平和中島財団:書類落ち
平和中島財団は提出書類が少し特殊で、A4形式の願書1~2枚に手書きで記入していくスタイルです。分量がかなり少なく制約されており、私自身はまとめるのに苦労しました。

(5) 国際通貨基金(IMF) :面接落ち
IMFのJapan-IMF Scholarship Programはマクロ経済学を専攻とする方々向けの奨学金なので、行動経済学を専攻しようと考えていた私は応募する予定はなかったのですが、その時点でフルブライトの面接が残っていた以外はすべて落ちてしまっていたために応募しました。

マクロ経済学専攻者向けとはいえ対象となる分野は広く、自分の興味関心と絡めて書類を作成することは可能だと思います。また、面接は英語で行われますが、他の奨学金と異なりかなりIMF特有の内容が問われました。IMFそのものについてや、マクロ経済学におけるIS-LM曲線の問題などが質問され、うまく答えることができませんでした。IMFの奨学金に応募する方はしっかりと準備をして面接に臨まれるとよいでしょう。

ここでは、私が応募した5つの奨学金について整理しました。海外Ph.D.出願と同じく、外部奨学金の場合も多くは落ちる可能性が高いので、1つひとつに一喜一憂しすぎずに結果を待つとよいのではないかと思います。

5-7. SoP (Statement of Purpose)

SoPとは「Statement of Purpose」の略で、いわゆるエッセイです。SoPについては、大学によって求められる内容がかなり異なります。そのため、どのようなSoPを書くのがよいかについてもさまざまな意見がある印象です。「自分がどのような研究をしてきて、今後どうしていきたいか」を書くということは共通認識だと思いますが、それに加えて、「自分がなぜ今の専攻に興味を持ったのか」を書くべき、という意見もあれば、「いかに自分が優秀か」を書くべきという意見もあります。「SoPはまともに読まれないから適当でよい」という意見も耳にしたことがありますが、「『SoPの内容がよかった』と合格した大学の先生に言われた」といった話も聞いたことがあるので、真相のほどはよくわかりません。

私の場合は、基本的には研究内容と自分の優秀さを示す情報(Xという授業でY位の成績をとった、数学の授業の成績はZであった、など)をベースに、各大学の字数制限にあわせて調整しつつ、加えて自分がなぜ今の専攻に関心を持ったかを書くようにしていました。

その理由としては、いくつかの大学(特にカリフォルニア大学系列)には、SoPとは別に「Personal History Statement(PHS)」という別のエッセイの提出が必要だったためです。PHSでは、「今まで自分がどんなハードルを乗り越えてきたか」をまとめることになるのですが、私の場合は研究への興味関心がその点とかなり重なるので、今の専攻に関心を持った経緯はSoPには書かず、PHSの方でまとめる方が多かったです。PHSについても情報があまり多くないため、ここでも確かなことを言えないのですが、PHSのサンプルをネットで検索してみると、「人種差別や劣悪な家庭状況などのハードルを自分がどう乗り越えてきたか」といった内容でまとめている方が多いです。

私がSoPの準備を開始したのは相対的にかなり早い時期でしたが、周囲の方々はだいたい9月頃から始めている印象です。早い段階で第1稿ができていると、夏休み中に多くの方々に見てもらってコメントをいただけたり、外部奨学金の資料に活用できたりして多くのメリットがありました。

また、SoPやPHSなどの英語のエッセイを提出する場合は、自分の英語に相当な自信を持っているわけではない限りは、ネイティブで専門性のある英文校正者に見てもらった方がよいと思います。私や私の周囲の方々の多くは「Scribendi」という英文校正サービスを利用していました。有料であるもののそれほど高額ではありません。また、私自身は利用したことがないのですが、別の分野で海外Ph.D.に進学する友人は「Project SHORT」というサービスを利用しており、とてもよいそうです。さらに、先ほどデータベースで紹介した「XPLANE」はSoPの「執筆支援プログラム」などを通じたサポートも行っているようです。

5-8. CV (Curriculum Vitae)

「CV」は「Curriculum Vitae」というラテン語の略で、いわゆる履歴書です。提出が必要か否かは大学によってまちまちですが、進学後も使う機会はさまざまな場面で出てくると思うので、出願を機に作成しておくとよいと思います。わかりやすければどんなフォーマットでもかまわないと思いますが、WordやLaTeXなどで作成する場合は、検索すればテンプレートがたくさんみつかるので活用してみてもよいかもしれません。

5-9. 出願手続き

出願手続きについて説明している情報源は意外に少ないため、ここでやや詳しく言及しておきます。出願の締切は大学によって異なりますが、基本的には11月末から12月中旬にかけて集中しています。毎年若干ずれたりするので、きちんと各大学のホームページで確認しておくとよいでしょう。

出願は、基本的にはオンライン上のフォームを埋めていく形で提出することになるのですが、かなりの分量があり、書くのに時間がかかります。「締切の2、3日前に始めればよい」などと思っていると痛い目に遭うでしょう。たとえば、大学によっては自分の専門分野(私の場合は経済学)と数学の授業のすべてに関する情報を入力しなければならなかったり、300 wordsくらいのショートエッセイのようなものがあったりします。出願締切の1~ 2カ月前に、一度出願を考えている各大学のホームページにあるオンラインフォームに登録してみて、どんな情報を提出しなければならないかを事前に確認しておくと計画が立てやすいと思います。以下では、出願のオンラインフォームについて知っておくとよい情報をいくつかまとめておきます。

  • 推薦状をお願いする先生の住所、電話番号、メールアドレスなどを書く必要がある場合があります。事前に伺っておきましょう。

  • 「推薦状を "waive" しますか?」といった質問があります。「推薦状の中身を確認しないでよいか」という質問なので、基本的には "Yes" を選んでおけばよいと思います。

  • 推薦状が未提出でも出願を完了することができます。明記されているわけではありませんが、推薦状の締切は出願の締切よりも後のようなので、焦り過ぎなくても大丈夫なこともあるようです(私の場合は大丈夫でしたが、ご自分で確認しておくとよいと思います)。

  • TOEFLやGREのスコアレポートをETS経由で各大学に送ることになります。実際に大学に届くまでに1~2週間かかり、さらにTOEFLやGREは受験してから結果が出るまで1週間ほどかかるので、各大学の締切の3週間前がラストチャンスだと考えておくとよいと思います。

5-10. 出願費用

海外Ph.D.留学は奨学金をもらって行くことが多いので、合格後はお金の問題はある程度解決されるかもしれませんが、残念ながら出願時に相当な額のお金がかかります。私は社会人時代の貯金でなんとか賄えましたが、簡単に用意できる金額ではないので、本節の最後に出願にかかった総費用をまとめておきたいと思います(図表5を参照。計算簡単化のため、TOEFLとGRE以外は概算値としています)。また、出願校数などにより個人差が生じますので、あくまで目安としてご覧いただければ幸いです(1ドル=120円として計算)。

図表5 出願費用の一覧
コロナの関係で、いくつかの大学はTOEFLやGREのスコアレポートを送らなくて済んだため、*は受験校数よりも少なくなっています。

総費用を見ても、英語に苦手意識のある者にとっては優しくない設計となっているのが見てとれると思います。お金を節約するためにも、英語の勉強は頑張っておくとよいでしょう。私の場合は、英語(特にTOEFL)にかなりの金額がかかっていますが、出願校が少ないため、周囲の方々と比べて総額が高いわけではないようです。結果的には、出願校をかなり絞ったのはよい判断だったと言えるかもしれません。

6. 出願準備時の有用リンク集

ここまで長々と語ってきましたが、いろいろなところで情報源へのリンクを紹介してきましたので、ここで改めて、私が実際使ってみて、人におすすめできると思ったものをまとめておきます。

7. FAQ

ここでは、よく聞かれる質問に対して答えていきます。ただ、あくまで一個人の意見なので、鵜呑みにしないようご注意ください。

Q1. UCバークレーに合格した要因は何だと思いますか。
A. 正直なところわかりません。本編でも述べましたが、個人的には出願はかなり運にも左右されると考えており、ずば抜けた経歴や実績がない限りはある程度「運ゲー」だと思っていた方がよいと思います。入学後、自分がなぜ合格をもらえたのか聞ける機会があれば、更新します。

Q2. どうやって出願校を絞りましたか。
A. 私の場合は自分の専門分野で絞りましたが、そうする人は経済学では少数派だと思います。経済学の場合、博士課程進学以降に興味関心が変わることも多いので、上のランキングの大学から何校受ける、などといった方法が最も多いかもしれません。また、海外Ph.D.は5~6年間その場所で暮らすことになるので、生活の質(治安の良さ、気候など)を重視するのも大切だと思います。詳しくは指導教員などに相談してみてください。

Q3. 業績作りはどうしたらよいでしょうか。
A. 研究と成績に関しては基本的に個人ワークなので、努力する以外に方法はないと思います。TAやRAなどを業績とみなす場合も、成績が優秀であることで先生から声をかけられるという形が最もよくある方法だと思うので、成績(特にコア科目)はやはり大事ですね。とはいえ、最近はRAの機会が各所で増えています。従事することで自分の勉強にもなるので、いろいろ機会を探して挑戦してみるとよいと思います。

Q4. 課外活動などの業績作りはどうされましたか。
A. 海外の学部への出願と違って、海外Ph.D.への出願では、課外活動などの業績作りが必要となるケースはあまり聞いたことがありません。ただし、私の場合は周囲の方々と比べると対外活動を多く行っていたので、それが合否に影響を及ぼした可能性はなきにしもあらずです。とはいえ、やはりPh.D.留学では研究がメインになるので、研究活動や学業での業績作りの方が間違いなく重要だと思います。

Q5. どうしたらコア科目でA+をとれるのでしょうか。
A. 個人的な意見ですが、コア科目の試験は受験と似ていて、当日の運や体調などによって簡単に順位が入れ替わったりするので、確実にA+をとる方法はないと思います。ただ、勉強面では、やはり自分の同級生と宿題などで議論しながら勉強するのがおすすめです。戦略的な方法については本稿の本編をご覧ください。

Q6. 社会人は奨学金に受からない印象がありますが、実際はどうなのでしょうか。
A. 私の場合、面接などで社会人について触れられたことはありませんでしたし、幸いなことに奨学金をいただくことができたので、社会人だからといって受からないということはないように思います(サンプルサイズが1ですが)。そもそも海外Ph.D.にかかる費用は、普通の会社勤務だけでカバーできるような金額ではないので、社会人であることがマイナスに働く可能性は低い気がしています。

Q7. 先生に推薦状をお願いするのを見込んで、Office hourなどで積極的に質問をしにいくのがよいのでしょうか。
A. 講義資料などで致命的な間違いをみつけた場合には有効だと思います。ただし、何でもかんでも質問をしに行くのは、自分が何もわかっていないことを暗に示してしまうことにもつながりかねないので、バランスには気をつけましょう。

Q8. 大学の先生ではなく、会社の上司に推薦状を頼むのはありですか。
A. 私の周囲の方々からは、ほぼそうした例を聞いたことがないので正直わかりません。上司の方がアカデミア関連の場合は問題なさそうですが、基本的には大学の先生などにお願いするのが無難だと思います。

Q9. どのように研究室訪問をしましたか。
A. 経済学の分野では研究室訪問という文化はないと理解しています(そもそも日本に住んでいると物理的に厳しい)。ただ、最近の流れとして、海外の大学から米国Ph.D.に入学される方は「プレドク」を経験される方が多いようです。プレドクに関してはこちらのブログで丁寧にまとめられているので、ご関心のある方はぜひご覧ください。

Q10. 留学にあたって、パートナーの説得はどうされましたか。
A. 私が教えてほしいくらいです。実際のところ、かなり難しいと思っています。とはいえ、パートナーとの関係性などに依存すると思うので、ともかくしっかり話し合うのがよいと思います。このあたりの話は合格後にも出てくるので(ビザの申請など)、いつか別記事にまとめるかもしれません。

Q11. 海外Ph.D.取得後はどのようなキャリアを進めていく予定ですか。
A. 5~6年先の話になりますし、私はその時々の縁や直感を大切にするタイプなので、今のところ何も考えていません。私の周囲では研究者志望の方が多い印象です。ただ、現状では経済学はそれなりにつぶしが効く学問だと思うので、卒業後に企業に就職する道も残されていると思います。

Q12. 社会人をしていて良かったこと・大変だったことはなんですか。
A. 社会人を経験しての感想は「社会人の米国経済学大学院受験記〜社会人編〜(仮題)」で述べる予定です。個人の意見ですが、興味があればどうぞ。 

8. おわりに

拙く、長い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。これらの情報が少しでも将来出願を検討される誰かの助けになれば幸いです。ただ、重ねて申し上げますが、これはあくまで一個人の意見なので鵜呑みにはせず、いろいろな方のお話を聞きつつも、最終的には自分でしっかり調べ、考えて決断されるのがよいと思います。

最後に私事ではありますが、この場を借りて、私の出願をサポートしてくださったすべての方々に感謝したいと思います。皆さまのお力添えがなければ、UCバークレーへの留学という結果を得ることはできませんでした。特に、現在カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学中の平沢俊彦さんには、出願時に多大なサポートをしていただきました。彼が出願に関するさまざまな情報を共有してくれたことに触発されて、本稿を執筆するに至りました。彼自身も出願支援を積極的に行っているので、興味があれば彼にも連絡してみるとよいのではないかと思います。とはいえ、結局は自分がよい研究をすることが一番の社会への還元になるとは思うので、今後も引き続き努力していきたいと思います。


本稿の続編「出願後・渡米準備編」も、ぜひご覧ください!


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