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社会人の米国経済学Ph.D.受験記〜出願後・渡米準備編〜

八下田聖峰(やげた・きよたか)
カリフォルニア大学バークレー校経済学部博士課程


1 はじめに

本稿は、2021年にフルタイムの正社員として働きながら米国の経済学博士課程(Ph.D. in Economics)に出願し、カリフォルニア大学バークレー校に合格をいただいてから、実際に米国へ出発するまでの準備で経験したことのまとめです。

出願時の情報については、過去の先輩方がまとめた情報が公開されていますし( たとえば「経済学PhDに関する有用なリンク」)、私が前回執筆した記事も参考になるかもしれません。

しかしながら、出願後に合否の結果が出てから、実際に進学するまでの間に準備しなければいけないことがかなり多いものの参考になるまとまった資料はあまり多くないと思います。私の場合は幸いなことに、周囲の留学経験者などいろいろな方々に情報を伺ったり、相談に乗っていただいたりすることができたのでどうにか対応できましたが、もし手続き等に見落としがあると、苦労してしまうこともあると思います。

そこで、私の経験に基づいて出願後から実際に進学するまでの準備の記録をここでまとめて皆さまに共有できればと考えています。

とはいえ、あくまでも私自身の経験に基づいており、すべてを網羅できているわけではありませんので、その点はご注意ください。また、必要な準備は渡航先の国や進学する大学によって異なるため、困ったら進学先の大学の教務課や先輩などに質問するのがよいと思います。

2 進学先の決定

出願の期限は、早い大学だと11月末、遅いところだと翌年の1月中旬です。出願後は、各大学からの連絡を待つことになると思います。出願結果の発表は、個人差・大学差はありますが、1月末から4月中旬の間に送られてきます。結果の種類は、「accept合格)」「reject不合格)」「waitlist補欠合格)」の3つです。

Ph.D.留学では、多くの学生は10~20校くらい出願し、その中から進学する大学を決定することになります。合格しても実際には入学を辞退するケースも少なくないため、自分の結果が「waitlist」であっても進学できる可能性があります。そこで、もし「waitlist」に入った場合には、「大学以外から奨学金をもらった」など、追加で伝えられる情報は出願先の大学に共有してアピールしましょう。そのおかげで合格に繰り上がったという話も聞きます。

進学先を決めるにあたって、一般的に重視されている要素は、①大学の質、②大学周辺の環境、③金銭的余裕、④大学との相性、だと思っています。

①大学の質:これには、コースワークの質、同期の学生がどの程度優秀か、卒業生のPlacement(就職先)の結果、Faculty(教員陣)のティーチングや研究アドバイスへの熱意などが含まれると思います。最後の1つ以外は、基本的には大学のランキングである程度説明できると思います。

②大学周辺の環境:これには、大学周辺の気候や治安、住みやすさなどが含まれます。5年以上住むことになる場所なので、やはり自分が住みたい・住みやすいと思う場所を選ぶことも大事だと思います。

③金銭的余裕:これは、金銭的にどの程度暮らしが楽かどうかという点です。留学先によって物価は異なりますし、奨学金の額も州立大学の場合は少ないなど、大学や個人によってかなり差が出てきます。そのため、自分の奨学金の額と留学先の物価水準を見比べることも大切です。

④大学との相性:これは、自分の関心のある分野の教員が多いかどうかなどの相性です。経済学では、留学後に自分の専攻分野が変わることも少なくないので、ともかく上位の大学に進学べきだという意見もありますが、自分の関心のある分野を考慮に入れて選ぶこと自体はまったく問題ないと思います。合格後は、大学のホームページで在籍する学生や先生を確認したりしつつ、大学に連絡して、先生方と話す機会をいただくのも1つの方法です。大学によっては、現地訪問の機会もあるので、自分との相性を見極めるチャンスは多いと思います。

また、複数の大学から合格(オファー)をもらっている方は、交渉次第で奨学金の額が上がるかもしれません。各大学はその学生が欲しいからこそオファーを出しているため、学生が金銭的な面で他の大学と悩んでいるのであれば、奨学金の額を増やして入学させるのはごく自然です。

最後に、オファーを辞退する際には、先方にもたくさん時間をかけていただいていると思うので、お世話になった方々にはしっかり感謝をしつつ、お断りするとよいと思います。

3 Visaの申請

ここでは、最も重要であろうVisaの申請についてまとめます。留学先によって、Visaを取得するまでの道のりは多少異なると思いますが、大まかな流れは同様だと思いますので、順番に説明します。

3-1 Statement of Legal Residence (SLR)

はじめに、留学先の大学から、現地の州に「Statement of Legal Residence(SLR)」を提出する必要があります(私の場合は大学のポータルサイトから提出しました)。これは、自分の所属する州の居住者(residency)であるかを審査する書類です。ただ、これはカリフォルニア大学系列特有のものらしいので、基本的にはスキップで問題ないようです。

外部からの入学の場合は「Nonresident Supplemental Tuition(NRST)」がかかるため、residenceになれると学費が半額程度安くなるのですが、日本人はほぼ間違いなくnon-residenceなので、あまり気にしなくてよいです。SLRを出した後、"Regret to inform you that …" で始まるかなり仰々しいフォーマルなメールが届き、「上告するならXXXまで」といった文言も含まれていたりしますが、気にしないで大丈夫です。

3-2 Visaタイプの決定

SLR提出以降、自分のVisaタイプに応じて大学側が「I-20/DS-2019」や「DS-160」といった書類を作成してくれます。この書類は、自分がその大学に入学することを証明するものなので、とても重要です。ここから本格的にVisaの申請を始めていくので、自分が何のVisaを申請するのかを明確に決めなければなりません。

Ph.D.留学生は「F-1ビザ」か「J-1ビザ」の2択になると思うのですが、留学生はF-1ビザを申請するのが一般的で、基本的にはF-1ビザの方が優れていると思います。ただ、F-1ビザの配偶者が得るF-2ビザには、「配偶者が働くことができない」というデメリットがあるので、配偶者の方が留学先で仕事をする予定の場合は、J-1ビザを申請し、配偶者がJ-2ビザを取得したうえで、労働許可証を申請することになると思います。

とはいえ、J-1ビザは、プログラム終了後の1年間は新たなJ-1ビザを発行できなかったり、政府からの奨学金をもらっている場合は2年間の自国への帰国義務があるなどデメリットも多いので、ひとまずF-1ビザで渡航し、パートナー合流のタイミングでJ-1ビザに変更するなどといった方法も考えられます。パートナーがいる方は、よく相談したうえで決断するとよいと思います。

3-3 I-20/DS-2019の申請

F-1ビザを申請する場合はI-20、J-1ビザを申請する場合は、DS-2019という書類の発行を進学先の大学に申請します。どちらも留学受け入れ先の大学等が発行するもので、ビザの申請の際に必要となります。これらは、次に説明するDS-160を申請する際に必要なものなので、先に取得しておきましょう。

3-4 DS-160

ビザを取得するには、申請手続きの前に発給資格の審査のための「DS-160」を提出する必要があります。基本的には、「米国ビザインフォメーションサービス」の指示通りに進めれば問題ないと思います。サイト内の動画などは、DS-160を記入するうえで大変役に立ちました。

米国ビザインフォメーションサービス 「米国ビザ申請」 

DS-160提出時に、ビザ申請費用として$160ほど必要になりました。また、留学生の場合はSEVIS (Student and Exchange Visitor Information System) feeとして$350を支払う必要があり、合計で$510程度かかります。2022年6月時点では$1=135円ほどだったので、6.5万円ほどかかりました。この点も気をつけましょう。

3-5 面接 or 郵送

DS-160提出後は、最後に面接を行う必要があるのですが、面接枠が少なかったりするので、早めに動いておくことをおすすめします。ただし2022年6月時点では、新型コロナウイルス感染症の関係で、郵送での対応が可能となっていました。必要書類やパスポートなどをレターパックで郵送し、10日ほどで返送されてくる形となります。

4 予防接種

留学先にもよりますが、日本において必要となる予防接種の回数では足りないことが多いため、多くの人は少なくとも1回は注射を打つことになると思います。

第1ステップとして、自分の留学先でどの種類の注射を打つ必要があるかを確認しましょう。たとえば、カリフォルニア州の場合は、以下の表のように、新型コロナワクチンを3回、麻疹(Measles)、風疹(Rubella)、おたふく風邪(Mumps)、水疱瘡(Varicella)を2回ずつ、百日せき(Pertussis)、ジフテリア(Diphtheria)、破傷風混合(Tetanus combined)を含んだTdapまたはDTaPを7歳以降に1回、ツベルクリン検査(TB test)での陰性、および上記すべての結果をまとめた英文証明書が必要でした。

予防接種の要件:カリフォルニア州の場合
(出所)カリフォルニア大学バークレー校ホームページ「Berkeley University Health Services」を参考に作成。

第2ステップとして、過去にどれだけ予防接種を受けたかを確認する申告があるので、自分の母子手帳を確認しましょう。自分の場合は幸いすぐにみつかりましたが、実家が遠い方などは早めに確認しておくとよいと思います。

第3ステップとして、足りない分のワクチンを接種しましょう。私は白金台の東京大学医科学研究所でお願いしましたが、大学の保健センターなどでも接種可能なようです。英文証明書が必要となったりもするので、基本的には、留学に関する事情を把握している医療機関にお願いする方がよいと思います。私の場合は最終的に、麻疹と風疹セットのMR、おたふく風邪、水疱瘡、Tdapの注射を1回ずつ打ち、ツベルクリン検査のために血液検査をしました。また、母子手帳の記載もあわせて、すべての結果を英文証明書として発行していただきました。私は幸いにも、1回で必要なすべての予防接種が完了しましたが、1回で終わらないケースもあるので、早めに動きましょう。予防接種は保険が下りないため、私は上記すべてで6万円ほどかかりました。想定以上にお金がかかる場合があるので、この点も念頭に置いておくとよいと思います。

5 生活面の準備

5-1 家探し

基本的に大学の寮に入るケースが多いと思うので、寮に入る方は、大学からの案内の通りに進めれば問題ないと思います。一方、私の進学する大学では、寮の質があまり良くなかったため、大学外にある家を借りることにしました。

日本ですら家を借りるという作業は大変なことなので、海外では言うまでもありません。そもそも家を借りるのにクレジット履歴(credit history)やソーシャルセキュリティナンバー(Social Security Number:SSN、社会保障番号。8-4項も参照)が必要だったりするので、難易度は高いです。また一般的に、海外は日本よりも賃貸料が高い場合が多いですし、治安や便利さを考慮すると、さらに家賃が跳ね上がっていくこともあります。金銭的な制約が大きい学生たちの間でよい物件の取り合いになるので、大学外に家を借りる方は早め早めに動いた方がいいと思います。私は4月頭から多くの時間を使い、なんとか6月中旬に契約できました。

物件の探し方については、留学先の大学からおすすめのサイトや大学専用のサイト、危険なエリアなどの案内がメールで送られてくるのですが、「craigslist」や「apartments.com」など、一般の方も利用するサイトには「scam」という偽物件も混じっていることがあると聞きます。安すぎたり、条件がよすぎる物件には気をつけましょう。よい物件に巡り合った際も、個人情報を渡す前に、zoomなどを通じて質問を投げかけつつ会話し、家主が信頼できるかどうかなどを事前にチェックするといいと思います。また、大学によっては、承認制のFacebookのグループがある場合もあります。私は、そこで物件をよく眺めて、相場感をつかみました。一般的な物件は家具なしですが、Facebookグループの方だと、入居者が卒業するから家具ごとくれたり、ルームメイトの募集だったりがあるのでよい印象でした。日本と異なり、米国等ではルームシェアが一般的なので、進学先の同期などから早めに同志をみつけておくことをおすすめします。ルームシェア相手を適当に選ぶと、同居人次第では住環境が悪くなってしまうこともあるとよく聞くので気をつけましょう。渡航手続きにおいては、渡航先での住所がないと何かと不便なので、滞在先の住居は早めにみつけておくとよいと思います。

5-2 クレジットカード

日本で普段利用しているクレジットカードやデビットカードを海外でそのまま利用すると、日本で利用する場合と比べて、主に①為替レート、②海外事務手数料という点で異なります。

①為替レート:普段利用しているクレジットカードやデビットカードは基本的に日本円の口座に紐づいているので、海外通貨で支払いをした際に日本円に戻す必要が出てきます。その際には為替レートを用いて計算するため、ドル円レートによっては損をすることがあります。

②海外事務手数料:海外でのクレジットカードを利用する際には通常1~2%程度の追加的な事務手数料を支払う必要があるので、この部分は損になってしまいます。

上記をふまえると、できるだけ早く現地のクレジットカード、デビットカードを取得したいわけですが、このあたりは現地の銀行口座や、ソーシャルセキュリティナンバー(SSN)、クレジット履歴が必要となります。そのため、現地のカードが得られる前は、米国の場合はJALかANAのUSA cardを利用している方が多いイメージです。これらはドル建てなので、①と②の問題は避けられます。入国後はすぐに銀行口座を開設でき、デビットカードを発行してもらえるので、そちらを利用しても問題ないと思いますが、米国に長く滞在する予定の方は、クレジットカードを作成することをおすすめします。日本では、クレジットカードは支払いのため、または、ポイント獲得のために利用する場合が多いと思います。しかし米国では、クレジットカードの取引履歴がその個人の信頼を構築することにつながるため、クレジットカードを定期的に利用して発生するクレジット履歴がなければ、車や家など大きい買い物を行う場合に「信頼なし」と判断されて、購入することができないことも少なくないようです。

5-3 携帯電話

海外に長い間住むことになるので、Free Wi-FiやモバイルWi-Fiルータのみで過ごすのは難しいと思います。そこで、海外用のSIMカードを購入し、日本のSIMと入れ替えて利用するか、海外用の携帯電話を別途用意することになります。最近のスマートフォンには「Dual SIM」という機能がついているため、わざわざSIMを入れ替える必要もないようです。

ただ、「日本で利用している携帯電話の番号を保持したいが、毎月料金を支払うのはもったいない」という問題に直面する場合もあります。2022年6月時点では、楽天モバイルの1GB未満月額0円が終了したため、povoのみが、日本の携帯番号を保持しつつ、月々の料金がほぼ0円になるSIMカードとなっているようです。povoは使いたい時に使う分だけチャージするという方式なので、一時帰国などする留学生にとってはよい選択肢だと思っています。

私の場合は、iPhoneのDual SIMを利用して、日本用はe-SIMでpovo、米国用は大学からおすすめされたMint Mobileを利用しています。ただ、Mint Mobileが接続するT-Mobileという通信会社は、都会ならまったく問題なく利用できるようですが、1カ月間Mint Mobileを利用してみたところ、私の住むバークレーのエリアでは、通信がつながらないことが多かったです。Mint Mobileはかなり安価なので、都会への進学であればおすすめできますが、そうでない場合は、AT&Tなどの幅広いエリアで利用できる通信会社を選ぶとよいと思われます。

5-4 国際運転免許証取得

海外(特に米国)は車社会であることが多いです。しかし、日本の免許では運転できないため、国際運転免許が必要です。ただ、国際免許には有効期間があるので気をつけましょう。しかも、有効期間は行く場所によって異なります。たとえば、米国では1年間のみ有効となっているのですが実際には州によって異なり、特にカリフォルニア州の場合は10日間だけしか有効期間がありません。そのため、運転される方は滞在場所規定の免許を取る必要があります。

6 学校等での手続き

6-1 成績証明書の送付

多くの場合、進学大学決定後に進学先から現/過去所属の正式な成績証明書(Official transcript)の提出が求められます。現物を厳封して提出するか、電子版(e-transcipt)を大学から直接進学先に送ってもらうことになると思います。具体的な手続き等は、現/過去所属大学に問い合わせて確認しておきましょう。

6-2 休学・退学、留学手続き

留学前に別の大学に所属している場合は、休学・退学手続きを行う必要があります。一般的には、休学をする人の方が多い印象です。休学届は1年ごとに更新する必要があったりするので、所属大学に確認しておきましょう。また、日本学術振興会の特別研究員など、その他にも所属がある方は、各所で辞退手続きなどを進めておくのを忘れないようにしましょう。

7 渡航前の準備

7-1 航空券の確保

基本的にPh.D.留学は夏から始まることが多いのですが、夏・冬休みシーズンの飛行機の料金は基本的に高額です。そのため、早めに航空券を押さえておくとよいでしょう。次の帰国時期が確定している場合は往復券を購入すればよいと思いますが、私の場合は予定が決まっていなかったため、ひとまず片道券を購入することにしました。

7-2 引越し準備

私の新居は家具なしだったので、自分で家具を揃える必要がありました。着いてすぐ必要となるベッドなどは、事前に米国のIKEAのオンラインストアで購入して新居に送るように手配しました。留学先によっては、必要なものは到着後に集められる可能性があるので、現地に何を持って行くべきか事前に聞いておくとよいと思います。到着のタイミングがある程度遅い場合は、卒業する方から家具を譲ってもらえる可能性もあります。特に、進学先がMBAやロースクールで有名な場合は、1~2年で帰国される日本人が多いため、チャンスがあるかもしれません。日本人の方々は日本から炊飯器や文房具、インスタントお味噌汁などを持って行っているイメージがあります。輸送方法は航空便、船便等色々ありますし、追跡サービスなどもあるので、自分に適したものを選ぶのがよいと思います。私の場合は、渡米のタイミングで輸送サービスの料金が高騰していたため、スーツケースをもう1つ買い、飛行機の預入荷物をオプションで1つ追加しました。本だけを船便で送っている方も多いようです。

7-3 海外転出届

人それぞれで判断は変わるとは思いますが、私の場合は、出国直前に海外転出届を提出し、日本の住民票を抜きました。住民票を抜くことによる主な違いは、

①国民年金の強制加入の義務がなくなる
②国民健康保険の加入が抹消される
③住民税の支払い義務がなくなる

の3つだと思います。①に関しては、任意加入が可能なので、大きな差はないと思います。②は毎月納める保険料がなくなる代わりに、帰国時に保険が適用されなくなります。③に関しては、基本的に留学中は日本で給与支払いを受けることはないと思うので、これも大きな差はないと思います。一応、国民年金免除・納付猶予申請と国民健康保険の扶養控除によって月々の支払いは回避できるようですが、国民健康保険の扶養控除は親の職業によって異なっていたり、その他手続き等面倒なことが多いので、帰国時に病院に通う予定がない方は住民票を抜いておいてよいと思います。私は、近くの区役所で住民票を抜きました。ある程度大きな役所に行けば、選挙管理委員会もあるはずなので、そちらで申請すれば、海外にいても日本の選挙で投票することができます。ついでに申請しておくとよいかと思われます。

加えて、iDeCoやその他証券口座についても補足しておきます。iDeCoは国民年金に任意で加入していれば、住民票を抜いていても継続可能です。証券口座は、その口座の運営会社が日本国外で金融商品取引業務を行う許可等を得ていない会社の場合、5年以内に帰国予定の場合は一部の保有は可能ですが、新たな取引はできないので、資産運用をしている方は、出国前にすべて利益確定をして、口座を解約してしまうほうがよいかもしれません。 また、企業で働いていた方などは確定申告をする必要があるので、出国前に終わらせるか、代理人(納税管理人)を立てるなどしましょう。

8 渡航後の準備

8-1 I-94

I-94は米国に入国したことを証明する書類の1つです。大学関連の諸手続きでも利用するので、プリントアウトも持っておくと便利です

8-2 運転免許証/Real ID

渡米後すぐに現地の免許証を取得予定の人は、上に書いた通り、渡米前に国際免許を取っておくとよいでしょう。現地の免許証の取り方は地域によって異なるのでここでは触れませんが、日本と違って、実技試験の車を自分で用意する必要がある場合が多いらしいので、筆記試験合格後に国際免許証を使ってレンタカーを借り、実技試験を受けに行くことが多いようです。また、免許証はIDの代わりになり、パスポートを持ち歩いたりしなくて済むため、とても便利です。運転しない、あるいはまだする予定がない方は、「Real ID」というものも発行できるので、先にそちらを発行して置くと便利ではないかと思います。

8-3 在留届

現地に到着したら、外務省が提供している在留届を提出しましょう。こちらを提出することによって、自分が海外にいることを登録できます。3カ月以上海外に滞在される場合は、提出は義務となっています。自分の身に何かあった際に連絡取れたり、外務省から海外渡航に関する情報随時受け取れます。

8-4 ソーシャルセキュリティナンバー(SSN)

ソーシャルセキュリティナンバー(SSN)は日本でいうところのマイナンバーカードですが、米国で仕事をする際には必ず必要になります。1年目からTAなどの業務がある場合は申請できるため、進学大学の指示に従って申請しましょう。私の場合は、パスポート、I-20、大学からの労働許可証、SSN申請書類(SS-5)の4つが必要でした。

9 お金、その他

上でも触れた通り、出国前はビザ申請や免疫注射でそれなりにお金がかかります。また、当たり前ではありますが、航空券や家具を事前に買ったりすると大きなお金が必要となります。さらに、家の賃貸を契約した際に、セキュリティデポジット(保証金)と1、2カ月分の家賃を先に払わなくてはならないケースもあるため、気をつけましょう。渡米後も、家具を買ったり何かとお金がかかりますし、大学からの給料はすぐ支払われるわけではないケースもあります。日本から何度も分けて送金すると、その分だけ諸費用がかかるため、可能な場合はまとめて送金しておきましょう。

留学先に着いてからでも問題ないとは思いますが、留学先で使うための現地での電話番号が使えず本人認証できない可能性も考慮に入れて、私は空港からの移動でタクシーをりようするために、Uberのアプリを日本で先に登録しておきました。また、家賃の支払いの必要があったので、海外送金のためにWise(旧TransferWise)のアプリをダウンロードしておきました。また、海外でも日本のコンテンツ(Amazon Prime Video、Hulu、DAZNなど)にアクセスしたい方は、VPNを経由するといいと思います。VPNを利用するための無料のサービスもありますが、私の場合は接続がうまくいかないことが多かったため、NordVPNというアプリでVPNを契約しました。最後になりますが、出国の際にはI-20など、必要そうな書類はすべて印刷しておくとよいと思います

10 おわりに

ここまでたくさんの情報をまとめてきましたが、あくまでこれらは一部です(税などについては省略しました)。またはじめに述べた通り、これらの手続きは留学先の大学や渡航先の国によって異なるので、進学先などに十分に確認しつつ、早め早めに進めておくことをおすすめします。

とはいえ、米国の大学に進学する場合に関しては、ある程度はこれらの情報で網羅できていると思いますので、このnoteでのまとめが誰かの支えになれば幸いです。


出願をした際の経験をまとめた「出願準備編」は、以下をご参照ください。

『経済セミナー』最新号の情報は、以下をご覧ください。


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