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東レの「超継続」は花開いたが 「どこまで長期で見ていいのか?」という事業投資に関する課題提起でもあると感じた件

先日東レの専任理事で技術センター企画室室長の姫島さんという方の講演を聞きに行った。イノベーションに関する展示会でのセミナーだったが、そこで発表されたプレゼンの中で東レが世界トップを走る炭素繊維事業に関する発表がありいろいろ考えさせられる内容だったので少しシェアしたいとおもった。

■ 東レの炭素繊維事業

東レという会社は1926年にレーヨン糸を製造する「東洋レーヨン」として創業した誰もが知る会社でグローバル展開を積極的にしている会社だ。海外展開のスタイルはどちらかというと基礎研究と先端開発は国内がベースになっていて、その技術をベースに海外のニーズに沿った開発をカスタマイズしているようなスタイルがメインになっているという印象をぼくは受けている。売上高は海外の方が大きいが、あくまで日本で開発したものをグローバル展開するという、ある意味では誰もが目指したい理想的な日本の製造業の姿ともいえる。

そんな東レは炭素繊維でシェアがトップ。もともと一位だったが買収による地位の安定化も狙い、今ではシェア40%前後を保持している。続く帝人や三菱がそれぞれ15%程度、ドイツSGL9%、台湾企業9%、他10%前後というように一般的には言われていて、今でもトップを走っている。

炭素繊維事業というのは東レの成功例の一つして多くのところで語りつくされているので「今更なにを取り上げているんだ」と思われるかもしれないが、昨年末行われたセミナーでもいまでも進化を続けている成功体験として語られていたので遅すぎるということはないだろうと思って続けさせていただく。

■ 半世紀近くかけての成功

そんな東レの炭素繊維はなんと半世紀近くをかけて成功させたという歴史がある。東レは地道にコツコツと開発を続け、莫大な研究投資を行いながら今のシェアまでもっていた。東レはこの炭素繊維事業意外にも水処理用逆浸透膜(RO膜といったりする)も同じように研究開始から大きな市場形成まで半世紀近い歳月をかけている。

最初に開発をはじめたのがなんと1961年代である。当時進藤博士という方が原理を発表し東レの技術者がいち早くその価値を見抜き、実用化に向けて研究・技術開発をスタートして特許実施許諾を得て商業化したのはその10年後だったようだ。

今からすると59年前だ。いったい今までの開発投資額と現在得ている利益というのは投資採算があっているのか調べてもよくわからなかったが、あらゆるところで「東レの超継続」というフレーズが出てくるし、この成功は美談として色々と語られている。

最初は釣り竿やゴルフクラブの材料として採用され、徐々にキャッシュフローを生みながら航空機で覇者となった。2014年には米ボーイングと新型航空機「777X」向けに炭素繊維複合材(CFRP)を供給する基本合意を結んでおり成功を遂げている。

この炭素繊維事業というのは欧米企業は実は過去に諦めてすれた事業で米デュポンや独BASFなどの化学大手は次々と撤退している。東レの社長は今でも「繊維、炭素繊維、水処理はいずれも短期的な収益を重視すれば間違いなく撤退していた。『超継続』がイノベーションを生み出す秘訣だ」とインタビューで話をしている。

■ 超継続に関する秘訣

ぼくの疑問としてはなぜこんなに長い期間をかけて開発を続けられたのかということがある。ぼくの会社で投資回収まで「50年以上かかります」といったら間違いなくやらせてはくれない。推察するにおそらく当時も投資回収に関する議論や止めるべきという議論は東レの中でも死ぬほどたくさんしてきたんだと思う。

それでも続けられたのは何故か。

日経新聞の2016年当時の阿部CTOへの記事があったので少し読んでみたら、東レの超継続は以下のような考えのもと行っているようだ。

[CTOのインタビュー要旨]

・長い間利益を生み出すことはなかった。ただ、参入した欧米企業が利益を出せずに次々に撤退していくのを横目に、東レは粘り強く技術を磨いた。

・"超継続"という言葉はテレビに出演したときにプロデューサーに言われて、その後使うようになった言葉らしい。

・開発と実用化には長い時間がかかる。少なくとも研究開始から商業生産開始まで10年はかかっている。商業生産後も一気に量が増えることはなかった。それでも研究を重ねていった。

・超継続には日本人の気質が適している。日本人は粘り強から日本で研究している。海外でも先が見えてれば長期で継続できるが、先が見えない、出口の分からない研究を黙々と継続してできるのは日本人特有の強みです。

・日本人は和を重んじる態度を重視する。この助け合いの精神が、さまざまな障壁にぶつかったときに生きてくるが海外では望めない。

・興味のある分野を2割の自由研究で「アングラ研究」することを奨励。

・研究テーマは、まず時代の要請に合致しているか、次に商品に競争力があるか、最後にビジネスモデルがOKかという順番で見極めている。素材の価値を見抜く力が重要。飛行機がこれからますます増えていくだろうという、大ざっぱな時代観があった。

■ どこまで見えていたのか。なぜ続けられたのか。

ここまでで超継続による炭素繊維の開発についてどんな印象をもつだろう。

このCTOの意見がすべてではないだろうが、少なくとも東レは何十年も同じことを研究する意地があって、それを続けられる環境もあるということは言えるだろう。

日本企業一般に株式市場は形骸化しており外部からの投資に対する圧力も弱く、社内でも長期的に開発することを奨励している企業でないとこんな開発は普通はできない。外部からのプレッシャーが本当に弱かったのか、それともちゃんと見合った結果を他の面で出していたので文句を言われない状態を作っていたかのどちらかは定かではない。

また、インタビューにもある通り、東レ自身も「出口がない研究」と思いながらも続けていたということがうかがえる。

それを日本人の粘り強さと和を重んじる精神で乗り越えて成功させたというところはほぼ美談のようにしか思えないが、確かに出口も見えない開発を永遠と続けて承継していくことができる芸当は日本特有ともいえるが、日本でもそこまでやっていける会社というのはほとんどないので、東レ特有と言えるかもしれない。

—— 〻 ——

自分たちでいつ花開くかもわからない研究開発投資を続けられた秘訣はなんだったのだろう。こだわりをもって開発しているのは素晴らしいことだが、社内でいったいどういった意思決定プロセスがあったのか、おそらくあったである「やめるべき」という社内の意見をどういうロジックで継続するという意思決定をしてこれたのだろう。僕はこれらの点が不思議だし、実際どうだったのか知りたいと感じた。

ぼくの会社に限らず、どんな会社でも企業は投資をする際に投資回収について議論することになる。何年で黒字化するのか、何年で投資回収できるのかということを設備投資の承認を得るときに必要だし、投資をしたあとも計画通りにいっているかどうか常にチェックすることが必要なのがほぼすべての企業でいえることだ。

ただ、一方で一定の範囲内であればすでに支払ってかけてしまったコストは過去の投資としてサンクコストとして処理してしまっているのかもしれない。ステークホルダーに十分なリターンを他の事業を通じで出しながら、売上や利益当たりの決められた研究開発費用の中で研究開発を自由にできるパフォーマンスを全体の事業で上げていれば、色々外野からうるさいことを言われることがなかったのかもしれない。

もしくは日本の株式市場は会社に対してプレッシャーを与えられるものではなく、日本企業は上場していてもほとんど自社の自由にできるといっても過言ではない。一部のアクティビストを除き、日本の株主というのは会社を改善するための外圧として全く機能していないといえる。なので結局何に投資しようが自由にできるので、現業が安定しているので自由に研究開発ができたといってもいいのかもしれない。

■まとめ

調べ切れていないので下手なことはいえないが、一番ハッピーなのは彼らがステークホルダーへきちんと貢献をしながら、一方で社内で長期テーマも取り組めて成功をし続けられる素晴らしい会社だという場合だ。超長期の開発テーマが一度成功してしまうと美談ばかりが注目を浴びるが果たして実際はどうだったのかケーススタディとして気になるところだ・・・。

時間軸に対する考え方や投資のバランス、研究開発テーマの計画性や合理性と会社の風土や思いといったもののバランス、資源配分、ポートフォリオといったものは常に会社では議論される永遠のテーマなので答えはないが、果たして僕の会社はどう変えていけばいいのだろう。

そんなことを考えながら講演を聞いた一日だった。

Keiky.



[参考]


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