Blog_アイキャッチ_from_PC__15_

消耗品で儲けるか製品で儲けるかの分岐点について考える

世の中には製品のエントリー価格を抑えて消耗品で儲けるビジネスというのがかなりある。そんな消耗品型のビジネスに対して売り切りで製品を販売するビジネスモデルも相変わらず多い。

何となくITサービス分野におけるサブスクリプションモデルなどが盛り上がっていることも考えると、モノのビジネスについても消耗品型のモデルの方が元気があるように思える。

今日はそんなそれぞれのビジネスの特徴から今後のトレンドについて少し考えみようかなと思ったので記事を書きます。

まずは消耗品型のビジネスをいくつか例をあげてイメージを共有したい。

■ 消耗品型のビジネス事例:ネスプレッソ

本体を安く売って、消耗品で儲けるようなビジネスはどういったものが思いつくだろう。

これを語るには最適なのはネスプレッソかもしれない。一時期ぼくも家においてカプセル型のいろいろな味をそろえて一日2,3杯飲んでいた気がする。それまでのネスカフェにはぼくはとてもマズイ味のイメージをもっていた。

海外出張した際に無料のコーヒーがおいてあってそれはだいたいネスカフェであることが多いがとてもおいしいものではなかった(今でもおいしくない)。また、あまりコーヒーを飲む文化がメジャーじゃない国にいくと、コーヒー自体のことをネスカフェといって注文することもある。アメリカも会社を訪問したりするとだいたいポットに沸かしっぱなしのコーヒーがかけてあって納豆は言いすぎだけどとてもおいしいと思えるコーヒーではないにおいが部屋に充満していることもある。

そんなイメージを一気に変えて大成功したのがネスプレッソ。「手軽に飲めるインスタント=マズイ」というイメージを根本から覆して大ヒットとなった。

本体を安く、特に法人に販売してカプセルで儲けるという消耗品型のビジネスが大ヒットを遂げて、その後個人に対しても機械を販売するようになり一般家庭でもネスプレッソを使うようになった。本体は大した作りでなく音はうるさいけどすぐ水がお湯になるし、おいしいコーヒーをすぐ飲めるのには感動した。

今でこそいろいろなモデルが登場しているがこの数年は環境問題で問題視されることが増えた。カプセルは金属でできていて埋め立てるしかない特殊なカプセルのゴミ問題が大きくなり、ドイツではネスプレッソ追放を政府が出すなど社会問題となった。その後ネスプレッソはカプセルの回収などに乗り出して鎮静化はしているように思えるが、いまだにカプセルは捨てられているし環境に良いとは言えない状態ではあるので今度どういった世間からの味方をされるかは注目だ。

ちなみに僕は今はドリップコーヒーに戻していて、かなりの量のコーヒーを飲むことからネスプレッソはコスパが合わずやめたということと、ドリップであれば燃えるゴミで出せるというのも一つの理由としてやめた。

いずれにせよ、ネスプレッソは本体を安くして消耗品で儲けるビジネスで大成功を収めていて、消耗品型のビジネスの代表格といえる。

■消耗品型のビジネス事例:インクジェットプリンタ

他にもいくつか事例をあげようかと思う。

例えばインクジェットプリンター。本体は異常に安く、とにかくインクで儲けるというビジネス。ぼくは部材メーカーに勤めていて、プリンターメーカーも重要な得意先なのでよく社内で名前が出る。

彼らは本体に相当なコストをかけて開発しているが、機械の販売では利益はゼロ。とにかくインクをコピーされないように形に工夫を凝らして特許を押さえてインクのランニングで回収するという、まさに消耗品で儲けるビジネスモデルを作っている。

皆さんもお気づきかもしれないが、実は純正ではないインクというのがヨドバシやビックカメラなどの家電量販店にいくとたくさん売っている。純正がべらぼうに高いので自己責任でインクを安い方に変えている人も多いはずだ。

企業は並々ならぬ努力を特許の取得にかけていて、こういった純正ではない部品やインクが出てこないように努力をしているのだが、非純正メーカーも決して変なメーカーではなくとてもしっかりとしたメーカーが実際は作っているので品質上全く問題ないケースが多い。そういったメーカーは逆に特許をかいくぐるために様々な知恵を絞っているのだ。

このように、消耗品ビジネスは諸刃の剣である面がある。高い消耗品でずーっとその機械を使い続けるだけ儲けることができるが、いったんこういった海賊品というか、サードパーティー製のものが出てきたら、本体を安く売っている分損害がとてつもなく大きくなる。そして消耗品ビジネスで問題になるのは特許紛争。裁判が絶えず発生しており、訴訟費用もバカにならないくらいかかってくる。このように純正の消耗品が高いところに目をつけて純正品ではない消耗品を開発してくるプレイヤーは後を絶たないので、消耗品ビジネスは防衛力が問われることになる。

ちなみに僕はトナー派。家に小型のトナーを置いている。インクジェットプリンターはインクの減りもとても早く、機械も壊れやすい経験をしているので、経年変化が液体ではなく粉であるトナーはしにくいし、子供たちのためにかなりの枚数のプリントを印刷することが多い(ドリルや塗り絵)のでトナー機をつかっている。これも消耗品ではあるがトナーはとても高いのでインクジェットほど消耗品ビジネス寄りではないような気もする。

■ 消耗品型ビジネス=替え刃モデル

他にもいろいろな事例があって、例えばブラウンの電動歯ブラシと、ジレットのカミソリ。これらも同じく消耗品の代表格の製品といえる。電動歯ブラシも先っちょは必ず広がってくるので代えを買わなければいけなくなるし、ジレットのカミソリも替え刃を買い続けることできれいな切れ味を実現できる製品となっている。

ネスプレッソ、インクジェット、電動歯ブラシ、そしてカミソリ。様々な例を挙げているが、ビジネスの世界ではこれらはすべて「替え刃モデル」と言われている、いわゆる消耗品で儲けるビジネスと総称されている。

替え刃モデルとつくくらいなので、このトレンドを作ったのはそう、ジレットのT字型のカミソリといってもよい。

それこそジレットというのはブランド名になっているが、開発したのもジレットさんという名前の人。それこそ様々なマーケティングの本やMBAでも事例としてよく上がるので、言い古されている感があるが、1900年ごろにジレットさんという人が、当時ビールの王冠を作る会社の社長から消耗品でビジネスをやったほうがいいといわれて思いついたのがカミソリの替え刃モデルだった。

それまでは床屋が使うようなナイフでひげをそっていたわけだが、使い捨てにすることで研ぐ必要がなくなり、米国政府が支給品として使ったことで大きく成長したのだ。彼はさらに替え刃を消耗させるために飛んでもないことを思いつく。刃を増やしたのだ。「二枚刃」にすることで切れ味が鋭くなったということをうたっているが、彼としては「倍、カミソリの刃が売れる」という最高のビジネスだった。時は現代に移ると、刃は実に6枚だったりとてつもない枚数の刃が消耗品としてついていることで、収益性を大幅に向上されている。これ以上刃は増やせないと思うが、今後同社がどういった成長を遂げるか気になる。

「キレテナーイ」という外国人のCMを覚えている人はもうそこそこのぼくのようなオジサンしかいないと思うが、「替え刃モデル」とビジネスの世界で言われるくらい、ジレットさんの考えたビジネスは後世のビジネスマンにとって大きな影響を与えている。

■ 消耗品型ではないビジネスはどうか

こういった消耗品型ビジネスの真逆をいくビジネスがある。

それは裏返して考えると、製品を高くして、消耗品を安くするビジネスといえる。果たしてどんなビジネスがあるだろう。

実は消耗品型ビジネスが出る前のビジネスはすべてこのモデルであるといえる。普通は製品を売って、アフターサービスを無料で受け続けるようなビジネスだったのだ。そういったところに消耗品型ビジネスが出てきたので新しさがあったという流れなので、消耗品型以外のビジネスはすべてこの「売り切り型のビジネス」といえる。

冷蔵庫をとってみるといちど売り切りで終わり。エアコンも一度売り切りで終わり、自動車もそう。パソコンもそう。とにかく耐久消費財はすべてこの売り切りモデルだ。何十年と製品を使える例も多く、とにかく1回買ってもらう時点で、企業としても投資回収を終えてそこで利益を出さなければならず、次に商品が売れるのは買い替え時である場合が多い。

—— 〻 ——

昔知り合いの建築塗料メーカーの人が悩んでいたことがある。

住宅というのは定期的に塗料を塗るので、確かに消耗品型のビジネスに近く、メンテナンス代を稼ぐことができるんだけど、消費者はそういったメンテナンスがなるべくかからないような「耐性のある塗料」を求めている。塗料メーカーとしては頻繁に塗り替えをしてくれないと儲からないので、あまり耐性のある塗料を開発してしまうと、値上げがなかなかしづらいのに、塗り替え需要が減ってしまうので困ったもんだという悩みだった。

同じように壊れるように製品を作ることはできないのがこのモデルの弱みであって、単価こそ高いが、買い替え需要が数年後に起きないと、その消費者はその製品を買ってくれないので、単価を上げざるをえず性能が上がるほど買い替えニーズが減っていくというところに陥る。

こういった背景があることから「売り切り型」のビジネスモデルを持っている会社は「ソリューションモデル」とか名前だけかっこいいビジネスを考えて「消耗品ならずメンテナンス」などで儲ける仕組みをこぞって作り上げている。

例えばエレベータも本体の受注競争が激しいわりに、一回入ってしまえば一生そのビルはその会社のエレベータを使い続けることになるのでメンテナンスフィーなどで儲けるようなビジネスに変容させている。

ダスキンだって最初はモップを売るだけの商売だったはずだが、それを月額制のサブスクリプションモデルに変容することで月額で顧客から利益を回収できるおいしいビジネスに変貌を遂げた。

このように多くの耐久消費財メーカーからすると、携帯電話料金のように毎月決まった額の売り上げが得られるというのは大変魅力にうつって、消耗品やサービスにシフトしつつある。

これからもこういった形で今までただのメーカーだった企業がそれぞれサービス事業に力を入れていることから「ソリューションの提案」とかいうようになっているのが今の状況といえる。なかなかモノが売れない時代、サービスで儲けようというのが耐久財のメーカーの大半の考えなのだ。

■ 売り切りの勝ち筋はあるのか

このように考えると売り切りのビジネスには限界が見えているように見えるが、そうでもなかったりする。

例えばapple。iphoneやMacなどとにかくハイスペックの製品が多く価格がとても高い。エントリーモデルは安くしているがあまり長く使えるとは思えないしハイエンドモデルの方が人気があり売れていたりする。

これはジョブスのポリシーの一つとしてあったらしいが、彼はすばらしい製品づくりにこだわった。その代わりにソフトウェアを無料で公開した。マイクロソフトのオフィスに準ずるiworkなどのソフトを無料で提供して、高いけどappleの製品を買うと様々な優秀なソフトウェアが無料で使えるというのを売りにして商売をしている。

iphoneを3大キャリアなどで買っている人はキャリアが代金を負担するようなサービスをしているので見えにくいが、appleとしては製品はあくまでも高く売ることを実現しながら成功している希少なメーカーといえる。

—— 〻 ——

売り切り型のビジネスの秘訣は個人的には「所有欲」という要素が大きいと思っている。こんな最新の機種をもっていることで、自分の所有欲が満たされる、周りからもうらやましがられたり、最新のスペックのものを使っている高揚感を自分として持てる。そんな製品を作れれば成功できる。

ハイスペックPCだけでなくブランドバッグや、高級なスーツや高級車もそう。一杯でご飯が食べられそうなスタバもそう。職人が作ったような革製品やアクセサリーもそうだしインテリアや家具にもこういったものは多い。もっていたり通っていることによって自分の満足感が得られるもの。そういったものを提供していくことが売り切り型のビジネスの成功の秘訣といえるだろう。

このように、消耗品型(替え刃モデル)、売り切り型(逆替え刃モデル)それぞれに強みや弱みがある。

自分の会社や事業部の製品がなかなか将来が見通せない場合、どちらのビジネスなのかを考えて、逆のモデルはできないか?という着眼点で一回考えてみると新しいビジネスの種を思いつく可能性があるかもしれない。

また、一つの市場に対して全くことなるアプローチをしている会社があったらそれらを比較してみるときにこういった見方で分析を進めるとそれぞれのビジネスの収益源がわかるので頭の体操にもなると思っている。

さて、次のビジネスはどちらのモデルで作ろうか。当社のうまくいっていないビジネス、その逆を発想してみよう。

そんなことを考えてみる今日この頃。

keiky.




いただいたサポートは、今後のnoteの記事作成に活かさせていただきます。ますます良い記事を書いて、いただいた暖かいお気持ちにお返ししていきたいと思います☆