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居場所

「Welcome back!」

行きつけのシリア料理レストラン。扉越しに、いつものウェイターと目が合うと、にこっと笑いかけてくれ、ドアを開くと、「おかえり!」と声をかけてくれた。

「We miss you」
「Kayf halk(キーファック)?」

アラビア語で、元気?と聞いてくれたことが、すごく嬉しい。

スタッフは全員シリア人の小さなレストラン。本店は別にあり、わたしの行きつけのこのお店は支店。本店は広くて、豪華な感じがするが、支店のほうはこじんまりとしていて、アットホームな雰囲気がとても心地よい。

ウェイターが厨房に入ったと思ったら、代わる代わるシェフやオーナーが顔を出しに出てきてくれた。みんな、顔なじみのメンバーだ。

「おかえり」「元気だった?」「寂しかったよ」

ひとりひとり、声をかけてくれ、すっかりわたしにとって、“帰る場所”になっている。

オーナーは、レバノン生まれのレバノン人だが、30年以上、シリアに住んでいた。シリア危機後に国を離れ、2013年にこのレストランをオープンしたという。
いま働くスタッフは、ダマスカス、ダマスカス郊外県、ホムス、デリゾール、ハッサケなどシリア国内のあちこちから、シリア危機後にレバノンにやってきた。みんな、もともとレストランで働いていたわけではない。ウェイターの彼は、法律を勉強していて、弁護士の資格を持っている。シェフのひとりは、ビジネスを勉強していた。シリア危機後、働くことができなくなり、いまはこうして、まったく違う仕事に就いている。

この日、団体客が来ており、店内のフロアも厨房も大忙しだった。

「彼女は、このレストランをオープンしたときに、ウェイトレスとして働いていたんだ。いまはもう辞めてしまったけれど、お客として来てくれてるよ」

嬉しそうに、オーナーが話してくれた。

わたしが、10年前にシリアに行ったこと、そして、また帰りたい、いつか住みたいと伝えると、嬉しそうな表情を見せた。

「シリアはきれいな国だよ」

「もうすぐ行くことができるよ。少しずつ安全になってきている」と答えてくれた。

シリアの話をすると、表情を曇らせるシリア人が多い中、彼の反応はわたしにとって初めてだった。ただ、シリア政府が東グータを掌握しはじめてから、ようやくダマスカスも安全になっていくと期待する声は、仕事で付き合いのあるシリア人関係者から聞くようにはなった。オーナーの反応もみると、東グータの戦闘が終わりを見せ、シリア危機の大きなターニングポイントを迎えているのは、事実なのだろう。

「そういえば、きみがくれた手紙、飾っているよ」

一ヵ月前、日本に一時帰国する直前に、一時帰国を伝えるためにレストランを訪れた。そのとき、わたしのお気に入りのシリアのデザートを出してくれ、写真を一緒に撮り、寄せ書きをくれた。わたしもメモ帳にアラビア語でメッセージを書いて渡したのだが、それを大切に店内に飾っていてくれたのだ。

「帰ってきてくれて、嬉しい」
「みんな、きみのことが大好きなんだよ」

今回の滞在中、基礎からアラビア語を学びなおすことにした。自分の名前は書けるし、少しのあいさつは話せるけれど、もっとちゃんと修得し、彼らとアラビア語で会話できるようになりたいと感じた。また、事業の提携団体ともアラビア語で議論し、より近くにシリアを感じ、彼らとシリアの人々に寄り添いたい、と強く思ったからだ。

彼らの帰る場所にいつか、みんなで帰れるよう、彼らの心に寄り添いながら、一緒にできることを全力でしていきたい。
シリア事業に関われることに、改めて誇りと感謝を感じながら、一層気を引き締めて取り組んでいきたい。

決意新たに。

2018年3月

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