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イノベーションのためのユーザー調査とは?『UXリサーチの道具箱』を読んでみた【#004】(前編)

こんにちは。
LOCAL LOGITEXの佐藤慶樹(けいき)です。

今回は【読んでみたシリーズ】の第4弾として、楢本徹也氏の著書『UXリサーチの道具箱』をご紹介します。


1.ユーザー調査の7つ道具

本書で紹介しているユーザー調査の”7つ道具”とは、

(1)ユーザインタビュー
(2)データ分析
(3)ペルソナ
(4)シナリオ
(5)ジャーニーマップ
(6)ジョブ理論
(7)キャンバス

の7つです。

マーケティングに関わる人であれば、だいたいが聞いたことのあるワードだと思いますが、これらを具体的にどう活用していくのか、次の項から説明していきます。

2.ユーザーの声聞くべからず?

「ユーザーの声聞くべからず」

本書の冒頭にあるこの言葉は私を混乱させました。

(前回紹介した西口一希氏の『実践 顧客起点マーケティング』では、あれほど”お客様の声に耳を傾けよ!”と書いてあったのに・・・!!)

よく読み進めると、聞くべきなのはユーザーの「」ではなく「体験」という意味でした。
そもそも「UX」とはユーザーエクスペリエンス(User eXperience)の略で、ユーザーが商品やサービスを通じて得られる体験のこと。

まだ加工されていない”生”の体験談を入手して、それを分析すれば、ユーザー本人さえ気付いていないニーズを把握することができ、そこからユーザーでは想像もつかないような解決策を提案してこそ「プロフェッショナル」といえる、と著者の楢本氏は説いています。

また、ユーザー調査ではアンケートやグループインタビューといった定番手法(量的調査)は使わず、コンテクスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry)という質的調査の手法を用います。

この手法ではインタビュアーを弟子、ユーザーを師匠と見立てて、以下のプロセスで師匠の体験を弟子に”継承”します。

①インタビュアーはユーザーに”弟子入り”する
②ユーザーは仕事(操作)を見せながら説明する
③インタビュアーは、不明な点があればどんどん質問する
④一通り話を聞いたら、インタビュアーは理解した内容をユーザーに話して、間違っていないかチェックしてもらう

ユーザーは自身の仕事(操作)は理解していますが、それを”教える専門家”ではないため、”調査の専門家”である弟子(インタビュアー)が観察と質問のテクニックを使って、言語化されていない情報も含めて自力で師匠(ユーザー)から学び取ることが重要と言っています。

3.質的データ分析の手法

データ分析といえば、数字・数式・グラフ・Excel・・・といったイメージが強いと思いますが、このような分析は定量的な「量的データ」を前提としたものです。
一方で、今回ご紹介しているインタビューや観察で得られる情報は定性的な「質的データ」といいます。

質的データの分析方法として、KJ法、KA法、メンタルモデル法、グラウンデッド・セオリー、SCAT・・・など様々な手法が提唱されていますが、著者の楢本氏は次のように指摘しています。

ただ、どんな手法を使うとしても”職人芸”的な面があることは否めません。今のところアルゴリズムや自動分析ツールといったものはなく、どうしても分析者個人の力量と経験に依存する部分が大きいからです。

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.37). 株式会社オーム社

インタビュアー自身のスキルが腕の見せ所ということですが、本書が発行されたのが2018年ですので、そろそろこのあたりをカバーするAIが登場してくるかもしれませんね!

本書では日本発の情報整理手法であるKJ法に詳しく触れています。また、私たちに身近な「付箋紙」を使った手軽な分析方法も紹介されていますので、ぜひ本書を手に取って見てください!

4.ペルソナの「偽物」と「本物」とは?

私はつい、”あらゆる人にこの製品(サービス)を届けたい”と思ってしまいがちですが、人それぞれ興味や好み、住んでいる場所、ライフスタイルが異なるので、すべてのユーザーのニーズを満たそうとすれば、結局は誰のニーズも満たさない製品になってしまいます。

成功の秘訣は発想の転換にあります。つまり「みんな」のためにデザインするのではなく「1人」のためにデザインするのです。

そのためのツールが『ペルソナ(Personas)』です。ペルソナとは設計を支援するために定義する仮想のユーザー像のことです。

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.56). 株式会社オーム社

本書では、ペルソナの3要素を「①ユーザーをパターン化して、②それを擬人化して、③優先順位をつけた」ものと説明しています。

また、主に開発チームメンバーの主観に基づいて作られたペルソナは「偽物」であり、ユーザー調査(主にインタビューや観察)で得られたデータに基づいて作られたペルソナが「本物」(実用ペルソナ)だと指摘しています。

本書では具体的なペルソナの作り方も解説されていますので、ぜひ参考にしてみてください!

前述の西口氏が、「実在しない顧客のペルソナは無効」と言っているのに対して本書では「ペルソナとは、事実に基づいたフィクション」、「実在の人物でもなければ、空想上の人物でもない」と表しているところが興味深いのですが、両者に共通しているのは、

・開発側だけで考えたペルソナでは、典型的なプロダクトアウトになりがち
・ペルソナを作るには、実在のユーザーにインタビューすることが必須

ということが言えます。

5.前編まとめ

(1)ユーザーの”声”ではなく”体験”を聞く
(2)ユーザー(師匠)に弟子入りしてインタビューする
(3)質的データは量的データ(数字・数式・グラフなど)とは異なる
(4)みんなのニーズを満たそうとすれば、誰のニーズも満たせない
(5)ペルソナを作るには、実在のユーザーにインタビューすることが必須

6.最後に

さて、今回は楢本徹也氏の『UXリサーチの道具箱』をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
次回は後編としてジャーニーマップやキャンバスなどについて解説していきます。

また、本書のテーマは「調査手法」でしたが、「評価手法」をテーマにした続編『UXリサーチの道具箱II ―ユーザビリティテスト実践ガイドブック―』もおすすめですので、あわせてお読み頂ければと思います。

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