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【作曲家診断チャート】第4弾!ショスタコーヴィチ編

先日、「作曲家診断チャート」を作成しTwitterに投稿したところ、思いがけずたくさんの反響をいただきました。みなさま、ありがとうございます!
あらためて解説も交えつつ、こちらにまとめたいと思います。
今回はショスタコーヴィチです。

ショスタコーヴィチってどんな作曲家?


ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)はソビエト連邦で活躍した作曲家。
生前はソ連の体制に迎合した作曲家というイメージが先行していたが、1979年に『ショスタコーヴィチの証言』(以下『証言』)が発表されてからは「体制に弾圧された悲劇の作曲家」というイメージが定着した。『証言』の信憑性は疑問視されているが、国家政治に翻弄された作曲家であることは間違いない。
したがって、体制迎合とも体制批判ともとれるグレーな作品が多く、皮肉たっぷりの巧みな語り口は一級品

ショスタコーヴィチ交響曲 診断チャート


「ショスタコーヴィチって暗くてとっつきにくい!」「たくさんあって何から聴けばいいかわかんない」「革命とか血なまぐさいのはちょっと…」
そんな声に勝手に応えるべく、診断チャートを作ってみました。
あなたにぴったりのショスタコーヴィチはどれでしょうか?
では早速診断してみましょう。Let’s Go!

あくまでも作者の独断と偏見に基づくものです。曲探しの参考程度にしてください。

解説

早熟の天才!交響曲第1番ヘ短調


最初の交響曲。なんと19歳で音楽院の卒業制作として作曲したという。恐ろしい子…!
古典的な4楽章構成で演奏時間30分の作品ではあるが、すばしっこく華やかな技巧、過去の作曲家のオマージュ、重苦しくも激しいクライマックスなどすでにショスタコーヴィチのエッセンスが凝縮されている。


ロシアン・アヴァンギャルド!交響曲第2番ロ長調『十月革命に捧ぐ』


十月革命の記念に当局からの依頼で作曲され、レーニンを讃える内容。明確に体制迎合のテーマだが、音楽表現は無調や「ウルトラ対位法」などを取り入れたバリバリの前衛で挑戦意欲に満ちている。内容的に敬遠されがちだが、捨て置くにはもったいない。


体制迎合路線!交響曲第3番変ホ長調『メーデー』


合唱を伴ったプロパガンダ的な内容で、よく2番とセットにされる。前作のような前衛は鳴りを潜めており、いくらか親しみやすくなっている(ゆえにあまり顧みられない)。


謎めいた大作!交響曲第4番ハ短調


ショスタコーヴィチの全交響曲中で最も規模が大きく難解な作品
ブルックナーのように主題を3つ持つ巨大な第1楽章、スケルツォにしては大人しく厳格な第2楽章、そして長大でありながら軽快でシニカルな第3楽章。『魔笛』や『カルメン』がパロディとして引用され大騒ぎを繰り広げた後に、突如静かになるラストがミステリアスな余韻を残す。
このように前衛的な内容のため「社会主義リアリズム」(誰もがわかりやすく健康的な美を良しとする芸術思想)を掲げる体制の弾圧を恐れて、長らく封印されていた。

サロネン指揮ロサンゼルス・フィルの演奏は、どこまでもクールでかっこいい。新鮮なショスタコーヴィチ像を打ち出しており必聴。


強制された歓喜?交響曲第5番ニ短調


ショスタコーヴィチの全作品中で最も有名で演奏機会が多い
4楽章で「暗から明へ」の古典的な構成。ラストで長調に転じて明るく華々しく終わる。もちろん体制から絶賛された。
しかし、『証言』で「強制された歓喜」と書かれたことにより、意味深になってしまった。
フィナーレのテンポは演奏によってかなり差があるので、聴き比べてみると面白いぞ。

ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの演奏。ムラヴィンスキーはショスタコーヴィチの同時代人で理解者であり、作品の初演の多くを担った(5・6・8・9・10・12番)。


アンチ・クライマックス!交響曲第6番ロ短調


3楽章形式で終わりに近づくにつれて、どんどん軽くなっていく
フィナーレは明るく陽気に盛り上がるため、アンコールで演奏されることさえある。
また、ソナタ形式の楽章(多くは第1楽章)がないため、「頭のない交響曲」と呼ばれたりもする。


勝利の交響曲!交響曲第7番ハ長調『レニングラード』


5番の次に人気の作品。彼の全交響曲中で最も演奏時間が長い
レニングラード包囲戦をテーマにしており、ソ連のナチス・ドイツとの戦いと勝利が描かれている。
…とされるが、これまた『証言』でレニングラードは「スターリンによって破壊され、ヒトラーによってとどめを刺された」と書かれたため、意味深になってしまった。

ケーゲル指揮ライプツィヒ放送交響楽団の演奏はことさら扇情的に煽ることはしない。この曲の演奏としては珍しく抒情性に富み、複雑なニュアンスを持っている。


重く暗い反戦作品!交響曲第8番ハ短調


7番同様に戦争をテーマとしているが、こちらはとことん暗く重い。本来なら明るい勝利が描かれるべきラストも、暗い余韻を残して静かに終わる
そうした内容のせいで体制から批判されることになったが、近年は逆に演奏会で取り上げられる機会が増えるようになった。
時代や場所が変われば価値観も変わる。あたかも普遍的かのように思われている芸術とて、決して例外ではない。

ソヒエフ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団。パリで実演を聴いたのだが、凄まじかった。第1楽章をはじめ冷え冷えとした弱音にはこれぞショスタコーヴィチ!と唸った。じわじわと迫りくる恐怖の第3楽章や深い深い沈黙を促すラストも良い。


「第九」のパロディ?交響曲第9番変ホ長調


ソ連が第二次世界大戦に勝利した折、次の交響曲は「第九」ということで勝利を祝う壮大な作品が期待された。
しかし、発表されたのは軽妙洒脱で皮肉っぽい小規模な作品。前作のこともあり、本格的な批判(「ジダーノフ批判」)にさらされる。
本作もポストモダン的な観点(「逆によくね?」)から、8番同様に演奏会で取り上げられる機会が増えた。


「帝王」も認める最高傑作!交響曲第10番ホ短調


ショスタコーヴィチの全交響曲中で最も濃い内容を持っており、本作を最高傑作と呼ぶ声も多い
スターリンが死んだ直後に発表されたこと、自身のイニシャルである「DSCH(Domitrii SCHostakowitch)」の音型をモチーフにしていること、例の『証言』で第2楽章は「音楽によるスターリンの肖像である」と書かれたことなどから、様々な解釈がされる。

カラヤン指揮ベルリン・フィル(1967年)。彼がショスタコーヴィチの作品で唯一指揮したのが本作。「もし私が作曲をしたらこのような曲を書いただろう」と語ったという。


究極の暴力描写!交響曲第11番ト短調『1905年』


ロシア革命のきっかけとなった「血の日曜日事件」を描いた作品
特に陰惨な事件の場面を活写した第2楽章は壮絶で、これほどまでに暴力的な音楽も他にないだろう。この音楽は映画『戦艦ポチョムキン』の有名なシーン「オデッサの階段」で使われた。現在入手難だがロジェストヴェンスキー指揮の録音がものすごい(残念ながらSpotfyにはないようだ)。

ちなみに、バレエの振付家ジョン・ノイマイヤーによる『ニジンスキー』という作品では、本作が全曲まるまる使われている。天才バレエ・ダンサーの悲劇に見事にマッチしているので必見だ。こちらは映像化されている。


革命賛歌!交響曲第12番ニ短調『1917』


こちらはレーニンによる「十月革命」を描いた作品
体制迎合的な側面が強いこと、前作に比べて強烈なインパクトに欠けることなどからあまり演奏される機会はない。


「バビ・ヤールに記念碑はない」!交響曲第13番変ロ短調『バビ・ヤール』


「バビ・ヤール」とはウクライナにある地名で、ナチによるユダヤ人虐殺が行われた場所のこと。ソ連でも反ユダヤ主義が強まっており、暗に体制批判を仄めかしているため、当局から睨まれた。
ぜひ歌詞の対訳を読みながら聴いてほしい。当時のロシアも今のロシアも、そして日本もそう大きな違いはないと気づくだろう。

ショルティ指揮シカゴ交響楽団の演奏は、冒頭に俳優アンソニー・ホプキンスによる詩の朗読が収録されている。


「死の歌」のコラージュ!交響曲第14番ト短調


11楽章構成、弦楽合奏+打楽器+独唱(ソプラノとバス)の編成がかなり特殊な作品。
ロルカ、アポリネール、キュヘルベケル、リルケの詩を歌詞にしており、いずれも「死」をテーマにしている。冒頭で示される「怒りの日」の音型が何度も現れて、「死」のイメージを焼き付けてくる。
各楽章は5分程度と短くコラージュ的であり、本来オペラを得意としていたショスタコーヴィチらしい演劇性が楽しめる。


原点回帰した集大成!交響曲第15番イ長調


最後の交響曲は古典的な4楽章構成。技巧的なソロの活躍や過去作からの引用は1番と通じるものであり、文字通り原点回帰と言えるかもしれない。
しかし、十二音技法の応用や自身の過去作からの引用など、晩年ならではの味わいもある。
そして、ラストの余韻が非常にミステリアス。

コンドラシン指揮シュターツカペレ・ドレスデン。彼もショスタコーヴィチの理解者で、初演を担ったり(4・13番)、交響曲全集の録音を行ったりした。


まとめ


以上、ショスタコーヴィチ全交響曲の解説でした。
ショスタコーヴィチはソ連の歴史と切っても切り離せないですが、今の時代にも、いや、むしろ今の時代こそ(大変残念なことですが)アクチュアルな作曲家だと思います。

いかがでしたでしょうか?みなさまが少しでもショスタコーヴィチに興味を持ち、その作品に触れるお手伝いができたのなら幸いです。


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