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【作曲家診断チャート】第3弾!ワーグナー編

先日、「作曲家診断チャート」を作成しTwitterに投稿したところ、思いがけずたくさんの反響をいただきました。みなさま、ありがとうございます!
あらためて解説も交えつつ、こちらにまとめたいと思います。
今回はワーグナーです。

ワーグナーってどんな作曲家?

リヒャルト・ワーグナー(1813-1883)はドイツの作曲家、指揮者、文筆家。音楽がメインの歌劇(オペラ)とは異なる総合舞台芸術である「楽劇」を創出。作曲、台本、演出、指揮を全部自分でやらないと気が済まないすごい人
彼が生きているうちから熱狂的な支持者(「ワグネリアン」と呼ばれる)が続出。例えば、バイエルン国王ルートヴィヒ2世もその一人で、今や「ワグネリアン」の聖地となったバイロイト祝祭劇場は、彼の援助によってワーグナー専用の劇場として建設された。その費用は国家財政を危機に追い込むほどだったとか。
一方で、私生活は革命・亡命・破産・不倫…と波乱の連続。現在より人権意識が薄いとは言え、ユダヤ人差別や女性蔑視をはじめとした言動は当時から問題視されていた。

ワーグナー 診断チャート


「ワーグナーって長くてとっつきづらい」「ちょっとづつ聴いてみたけど、どれも同じじゃね?」「映像を見てみたけど、すぐ寝た」
そんな声に勝手に応えるべく、診断チャートを作ってみました。
あなたにぴったりのワーグナーはどれでしょうか?
では早速診断してみましょう。Let't Go!

あくまでも作者の独断と偏見に基づくものです。曲探しの参考程度にしてください。

解説

恋は狂気!?『さまよえるオランダ人』


海をさまよい続けるオランダ人が処女の自己犠牲によって救済されるという話。
架空の人物に入れ込む娘ゼンタが狂気にしか見えないので、説得力を持って上演するのが難しい。
そんなわけで最近はアンチ・クライマックス演出が主流。

クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団。まったくオペラ的でなく、シンフォニックに振り切ったユニークな演奏。


セクシーなのキュートなのどっちが好きなの?『タンホイザー』


愛欲(セックス)の世界におぼれた主人公が、またまた処女の自己犠牲によって救済されるという話。
魔性の女と聖女の両方に魅かれる男性の身勝手に振り回される女性はたまったもんじゃないぞ。音楽面では愛欲の世界が圧勝しているのが皮肉。


大人のための寓話!『ローエングリン』


「いつか白鳥の騎士が私を助けに来てくれる」と信じるちょっとヤバい少女のもとに、本当に白鳥の騎士が現れるという話。
一見バカバカしいと思われるかもしれないが、女性の自己犠牲による「救済」がない突き放したラスト、悪役も含めた登場人物の丁寧な内面表現、そして何より生き生きとした音楽が魅力的な作品だ。
ただし、「白鳥の騎士」をリアルにやると相当イタい感じに仕上がるので、演出に工夫が必要。

学校を舞台にしたペーター・コンヴィチュニー演出がとても素晴らしい。子供の残酷さを通して人間の暴力性が描かれる。映像化されているのでぜひ観てほしい。

クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団。歌手もオーケストラもすべて完璧で非の打ち所がない。


深すぎる愛は身を滅ぼす!『トリスタンとイゾルデ』


愛の妙薬を飲んだ男女が恋に落ちてしまい、互いに身を滅ぼすという話。
全部で4時間以上かかる上に、いっこうに話が進まないので、初心者は間違いなく寝落ちする。
しかし、はまるとやばい中毒性がある。特にラストの「愛の死」は官能を超えて、崇高ですらある。

バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団。しつこくねっとりした情念が露骨に表現される。かなり好みは分かれるが、面白いので一聴の価値あり。


崇高なるドイツ芸術万歳!『ニュルンベルクのマイスタージンガー』


中世ドイツを舞台に芸術論や世代交代などが面白おかしくカリカチュアされた喜劇。
…ということになっているのだが、現代の私たちが観るとちょっと酷い差別や理不尽なパワハラ描写が続く。普通の演出で観るのは苦痛以外の何物でもないと思う。
ワーグナーとその周辺人物を登場させたバリー・コスキーの演出が良かった。映像化されているので一見の価値あり。


壮大なスケールのお家騒動!『ニーベルングの指輪』


全4夜をかけて上演される壮大な連作。
全世界を支配できる「指輪」をめぐって、神々・巨人族・小人族・人間が争う。つまり「ロード・オブ・ザ・リング」の話。「スター・ウォーズ」とも似た話で、スペクタクル映画との親和性が高いかも。
借金と婚外子をこさえたヴォータン(よりによって神々の長)がすべての元凶

序夜『ラインの黄金』
神々の人間臭さとずる賢さがこれでもかと描かれる。彼らは資本家のメタファーなのだろう。ヴォータンの計画性のなさが露呈。トップとして失格です。3時間半ぶっ通し。

第1夜『ワルキューレ』
近親相姦と異種間交配による悲劇が描かれる。ヴォータンの節操のなさが露呈。夫・父親としても失格です。
映画『地獄の黙示録』で使われた「ワルキューレの騎行」が有名。

第2夜『ジークフリート』
英雄ジークフリートの冒険が描かれる。「英雄」とは好奇心の赴くままに行動するやんちゃな「少年」のメタファー。異性に対する恐れを知ることが「大人」になることなんだそうです。

第3夜『神々の黄昏』
愛憎渦巻く人間ドラマの末に訪れる世界の終末が描かれる。
お家騒動に世界を巻き込むな!

基本的にあらゆるオペラに共通して言えるが、特に『ニーベルングの指輪』は音楽だけ聴くよりも舞台を観た方が楽しめるだろう。
とりあえずパトリス・シェロー演出の映像がおすすめ。


神聖舞台祝典劇!?『パルジファル』


歌劇でも楽劇でもなく「神聖舞台祝典劇」という仰々しい呼び方をする。聖杯伝説をもとにキリスト教の救済を表現している。「アンチ・クリスト」のニーチェ激おこ案件
『トリスタンとイゾルデ』と並んで初心者が寝落ちするが、初心者以外もどこかで寝落ちすると思う。
舞台上で進行するストーリーはいったん無視して、連綿と続く音楽に浸るのが良い。

ケーゲル指揮ライプツィヒ放送交響楽団。あまりメジャーな録音ではないかもしれないが、大変すばらしいのでぜひ聴いてほしい。


まとめ


以上、ワーグナーの解説でした。
わりと辛辣な意見になってしまいましたが、そこも含めて私は大好きです。ただし、ルートヴィヒ2世のように破滅してしまうかもしれないので、深入りは禁物です。それはそれで幸せ?

いかがでしたでしょうか?みなさまが少しでもワーグナーに興味を持ち、その作品に触れるお手伝いができたのなら幸いです。


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