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【作曲家診断チャート】第1弾!マーラー編

先日、「作曲家診断チャート」を作成しTwitterに投稿したところ、思いがけずたくさんの反響をいただきました。みなさま、ありがとうございます!
あらためて解説も交えつつ、こちらにまとめたいと思います。

では、まずはグスタフ・マーラーです。

マーラーってどんな作曲家?


グスタフ・マーラー(1860-1911)はユダヤ人の子としてボヘミア(現在のチェコ)で生まれ、ドイツやオーストラリアのウィーンで指揮者として活躍。
職場である歌劇場が夏休みになると湖畔にある別荘にこもって作曲をしていました。つまり、彼はアマチュアの作曲家だったのです。だからこそ、あのように自由で規格外な作品をたくさん遺せたのかもしれません。
そんな彼は常に「アウトサイダー(よそ者)」としての「疎外感」を感じていたようで、このような言葉を残しています。

私は三重の意味で故郷がない人間だ。オーストリアではボヘミア人、ドイツではオーストリア人、そして全世界ではユダヤ人として。

マーラー交響曲 診断チャート


「マーラーって長くてとっつきづらい」「たくさんあって何から聴けばいいかわかんない…」「ちょっとづつ聴いてみたけど、どれも同じじゃね?」
そんな声に勝手に応えるべく、診断チャートを作ってみました。
あなたにぴったりのマーラーはどれでしょうか?
では早速診断してみましょう。Let's Go!

あくまでも作者の独断と偏見に基づくものです。曲探しの参考程度にしてください。

解説

フレッシュな魅力が全開!交響曲第1番ニ長調『巨人』


最初の交響曲。彼の交響曲の中では比較的(重要!)演奏時間が短く、若々しい雰囲気で親しみやすいことから、最も演奏機会が多い
とは言え、フィナーレのクライマックスで「ホルン奏者は全員起立」という指示が楽譜にあり、すでに「癖が強い」片鱗が見える。
ジャン・パウルという作家の『巨人』という小説をモチーフとしていたため、「巨人」というタイトルが付けられる。聴衆が先入観を持ってしまうことを避けるため、最終的には外された。
また、タイトル同様に外されてしまった「花の章」(当初は第2楽章)はとても魅力的なので、この作品に興味を持ったら聴いてみて!

ロト指揮レ・シエクル。「花の章」付きの「ハンブルク稿」と呼ばれるもの。最終稿よりもフレッシュなのでぜひ。


王道の熱い展開!交響曲第2番ハ短調『復活』


オーケストラの他に合唱、独唱、オルガン、バンダ(部隊外の奏者)を含む大規模で長大な交響曲。一般的なマーラーのイメージに一番適合するかも。
しかし、「暗闇から混沌を経て希望へ(暗から明へ)」という構成はベートーヴェンが確立した古典的手法なので、意外と親しみやすかったりする(あくまで「マーラー作品の中では」)。


マーラー is フリーダム!交響曲第3番二短調


マーラー前期を代表する交響曲。ここで一気に癖が強くなる。マーラーが好きな人は大好き。
オーケストラ+アルト独唱+女声合唱+児童合唱(ただし独唱と合唱の登場はおよそ5分)という規模の大きさ、演奏時間100分というかつてはギネスに載るほどの長大さ、ニーチェの『ツァラトゥストラ』を引用する難解さが特徴。
特に30分以上もかかる第1楽章は、厳粛な金管のコラール、俗っぽい行進曲、幻想的な木管の主題などあらゆる要素が「ぜんぶ乗せ」状態となっている。
これをおすすめされた人は頑張ろう!

レーグナー指揮ベルリン放送交響楽団。冒頭のホルンから森の薫りがする。全体的に落ち着いた美しさが堪能できる。


大人のメルへン!交響曲第4番ト長調


最も小規模で全体的に明るい雰囲気が満ちている。そのため、彼の作品がまだ有名ではない頃からよく演奏されていたとか。最後の楽章でソプラノの独唱が登場する。
この曲を一言で表現すると「メルヒェン」。つまり、一見素朴で子供向けに見えて、実は闇が深かったり、残酷な真実が寓意されていたり、かなりアダルトな内容だ。
この毒に気づいたとき、あなたのマーラー理解は一気に深まるだろう(ついでにマーラー沼の深みにもはまるだろう)。

マーラーの弟子クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団。癖の強さは弟子にも受け継がれていることを感じさせる。


「絶頂期」の傑作!交響曲第5番嬰ハ短調


キャリアの折り返し地点にあり、「絶頂期」と呼ばれる交響曲。私生活でもアルマ(私の名前の由来)と結婚するなど順調だった(こういうときが一番危ない)。
ヴィスコンティの『ベニスに死す』で第4楽章が使われて有名になった。
1番や2番同様に「暗から明へ」という古典的構成を持っているが、油断してはいけない。
いきなり「結婚行進曲」のパロディ(しかもよりによって「葬送行進曲」)が登場する、スケルツォ(イタリア語で「冗談」を意味する軽い曲)がやたら長く複雑であるなど、全体的にシニカルで斜に構えている。


ハンマーでぶっ壊せ!交響曲第6番イ短調『悲劇的』


中期を代表する傑作。4楽章構成でオーケストラのみでありながら、5番でも踏襲された「暗から明へ」の構成が「明から暗へ」と逆転している。
妻アルマの回想を基に「これは彼に起こる不幸(長女の死、心臓病、ウィーンのオペラを退任させられるなど)を予言したものだ」との解釈がされることが多いが、後付である可能性が高い。最近はそういった解釈をしない演奏が一般的。
カウベル、鐘、ルーテ(鞭)、スレイベル(そりの鈴)、ウッドクラッパー(カタカタ鳴る木のおもちゃ)、ハンマー(!)など珍しい打楽器がたくさん登場する(どこで登場するかは実際に聴いて確かめてみよう)。

コンドラシン指揮南西ドイツ放送交響楽団。抒情性を一切排除した辛口の演奏。「非・悲劇的」演奏の決定盤。


癖が強すぎるんじゃ!交響曲第7番ホ短調


最も自由奔放で難解とされる曲。そのあまりの癖の強さはマニアホイホイ(かく言う私も一番好きな曲)。
その理由は曲の雰囲気が楽章ごとに分離しており、全体的な統一性が著しく欠けているように思われるから。特にフィナーレの唐突な明るさは物議を醸した。各楽章の冒頭を聴き比べてみればわかるはず。3番の第1楽章のノリで全曲押し通したと思えば当たらずとも遠からず?
ポストモダン的な観点から再評価(簡単に言うと「逆によくね?」)されたが、最近は余計な物語を排除した純器楽的・即物的な解釈が多い。
この曲もカウベル、鐘、ルーテ(鞭)、ギター、マンドリンなど珍しい楽器がたくさん登場する(どこで登場するかは実際に聴いて確かめてみて)。

ラトル指揮ベルリン・フィル。これも生で聴いて圧倒された。というか生で聴いたあらゆるオーケストラ演奏の中でベスト3に入る素晴らしさ。


圧倒的迫力!交響曲第8番変ホ長調『千人の交響曲』


マーラー自身が初演し実演を耳にすることができた最後の交響曲。
タイトルの通り、オーケストラ+独唱8人+合唱2組+児童合唱+オルガンなど膨大な人数と楽器が投入される。生で聴けば問答無用で圧倒されること間違いなし。
楽章がなく2部制、第1部はラテン語の聖歌、第2部はゲーテの『ファウスト』をテキスト(歌詞)としており、もはやカンタータなんではないかという癖の強さを持つ。


お前、死ぬのか…!?交響曲イ短調『大地の歌』


番号は付いていないが9番目の交響曲。「作曲家は交響曲を9番まで書いたら死ぬ」という「第九のジンクス」を信じていたためと言われる。
6楽章制、2人の歌手が交互に歌う、李白や孟浩然の漢詩をドイツ語翻訳したもの(をマーラーが改変)がテキストというこれまた変…失礼、規格外の交響曲。もはや歌曲集。
酒やこの世の儚さについて歌い、最後の別れで「Ewig(永遠に)」を繰り返しながら意味深に終わる。

コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団。歌手2人(ジェシー・ノーマンとジョン・ヴィッカース)の癖が強すぎる。特に第1楽章は七転八倒の大暴れで楽しい。


「死」を意識した最高傑作!交響曲第9番ニ長調


マーラー自身によって完成された最後の交響曲。結果的に「第九のジンクス」を踏襲する形となってしまった。
オーケストラのみの4楽章制、冒頭で提示されるフレーズ(『大地の歌』の「Ewig」の引用)が全体で使われるなど、「古典回帰」的な要素が見られる。
しかし、具体的な標題やテーマはないにもかかわらず、全体が「死」や「別離」を強烈に意識させるもの。フィナーレもチャイコフスキーの『悲愴』やブルックナーの9番のように、静かに終わる。
これをマーラーの最高傑作とする声も多い。


これが最後でいいのか?交響曲第10番嬰ヘ長調


未完成の交響曲。本人が完成させたのは第1楽章までで、残りはスケッチを基にデリック・クックという音楽学者が完成させた。
かねてから18歳年下の妻に対する強いコンプレックスを抱いており、彼女が若い画家と不倫関係にあることを知った衝撃が基になった私小説風の作品。スケッチのいたるところに妻のアルマへの言葉が書かれている。「君のために生き!君のために死ぬ!」…怖っ!
不協和音やトーン・クラスター(すべての音を同時に鳴らす奏法)的手法が用いられる、調性が不安定など前衛的な作風となっている。
最後まで癖が強すぎる…


まとめ


以上、マーラー全交響曲の解説でした。
『大地の歌』→9番のように他の作品で用いられたフレーズが別の作品にも引用されていることが多いので、あれこれ聴いていくうちに「あの曲のフレーズだ!」と気づくこともあるでしょう。かつての友人と街中で偶然再会したみたいな驚きがあるので、ぜひ楽しみながら聴いてみてください。

いかがでしたでしょうか?みなさまが少しでもグスタフ・マーラーに興味を持ち、その作品に触れるお手伝いができたのなら幸いです。


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